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外伝 彼の軌跡


 ザクンザクンと首が落ちていました。

 あの当時の男爵領から逃げて来た、人々はそういっていました。


 血の川が男爵様の屋敷から流れていたと、人がいっぱい死にました、コロンコロンと首を転がして。

 誰もがそう言っていました。

 あの時、反逆者として晒され、領民ともども相当数の人が殺されたと聞いています。


 彼が変わったというのはこの部分であるのは間違いないでしょう。

 だがあの土地は男爵家が断絶した後、誰も入る事の無いの土地へと変わったと聞きます。立ち入った人たちの話を聞くと、その辺りに白骨が転がっているそうです。


 あれから十六年以上がたつというのに、人々はその土地に戻ろうともしません。

 ですが私はある理由から踏み込むしかありませんでした。そこで何が起きたのか、どうしても調べる必要があったのです。

 あの日記を偶然手に入れてから、剣神である悲劇の象徴センセイに私は魅入られたのかもしれません。


 彼の人生は苛烈でありました、本人はどうにも心の弱い子供のような印象が私はぬぐえませんでしたが、その家庭はまさに烈火と言うべき物であったのは間違いありません。

 そして誰よりも血だけが流れる人生であったと、今までの調査で理解してしまいます。報われない物だったのは間違いないのです。


 私はそんな彼の見せられその軌跡を辿っています。

 軍神などの偉大な人物の奇跡を収集するのが私の仕事ですが、その中でも際立った存在は彼だったのは言うまでもありません。

 この国があった頃の人々なら誰もが知る王都御前試合、その結末から起きた惨劇の数々。


 その始まりの血と私が感じているのはこの死の土地へと変わってしまった旧男爵領です。

 僅かな可能性でもと求めてここに来たのですが、予想以上というしかありませんでした、いたるところに戦闘の形跡が今も残って、死体が散乱しているのです。

 その中でも特徴的なのは、過半数の死体の首と体が切り離されている事でしょう。誰も課もわらか無い白骨ばかりですが、殆どの死体が首と体が切り離されています。


 どこか重い空気のこの場所ですが、あまりにも死因が統一されすぎていて、まるで誰か一人によって起こされた悲劇のようにすら感じてしまいます。

 この悲劇を目の当たりにした筈の人は、揃いも揃って仕方なかったんだというだけでそれ以上語ってくれる事も無かったですが、もしかすると私の勘は当たっているのかもしれません。


 その死体もこの領地の忠臣である男爵の館に向かうにつれてその量が増していきます。

 かつては風光明媚な場所だったのでしょう、死体を見なければ牧歌的ですらある、なんとも落ち着いた場所です。

 湖も近くにあり、そこから水鳥の鳴き声が聞こえていましたが、人がいなかったせいでしょうか、自然が勝手に発展して鬱そうとはしていますが、なんとも落ち着いた場所であったような気がします。


 牧場などの跡地には、いまだに馬達が勝手に住まい、牛達が勝手に交配を重ねて数を増やしていました。人の営みを離れても、彼らは知られずそのまま勝手に生きていたのでしょう。

 白骨がそんな牧歌的な空気に不釣合いな異様さを出していますが、いつしかそれさえも自然は飲み込んで隠してしまうのでしょう。

 かつて剣神が住んだ場所を死体ばかりだと言うのに随分と落ち着いた様子で観光していたように思います。


 ですがそれも中心部にたどり着くまでの話です。

 そこは悪夢の精製所ともいうべき場所でした、首が転がった白骨が散乱というよりも積み重なっています。

 灰色狼の紋章が刻まれた鎧を着た者達、荒鷲の紋章を刻んだ者達、農民子供もいたでしょう、ありとあらゆる存在が首を切り落とされていました。


 そして頭蓋骨が、丹念に男爵の屋敷の中に並べられ、屋敷に入った瞬間私は身の毛もよだつような恐怖に教われました。

 ザクンザクンと首が落ちていましたと聞きましたが、これは一つの意思によって成り立った悪夢である事だけはこの時理解するしかなかったのでしょう。


 何より剣神である彼は、この事態に対して深く関わっているのは言うまでもありません。

 したいから何が起きたか推察する事は出来ませんでした、ただ首を切り落とされて屋敷に丁寧に安置されているという事だけでしょう。

 それこそここはカタコンベとでも言うべき場所と見るべきなのでしょう。


 そして多分ですがここで死んだ男爵や、その妻、などといった人々は、彼らの寝室のやさしく安置されています。そこでこれをやったのが彼だという事だけはわかりました、何が起きたか分らないですが、この白骨の安置を行ったのは間違いなく彼だった。

 証拠といわれても困りますが、彼ぐらいしかこんな事をする人がいたとは考えられません。何しろ生き残りは全て男爵領を逃げ出し身分さえ変えていたのです。


 ここにいる死体達は、そう言った事すらできずに殺された人々なのでしょう。恐怖を感じたお詫びに少しの花を添えて手を合わせて彼らの冥福を祈りました。

 この当時の反逆者討伐で起きた被害を調べていましたが、男爵側は全滅、そして英雄の兵士達にも随分と被害が出ていたようです。


 むしろ最初は男爵側のほうが優位に物事を進めていたと聞いています。

 もっともここで軍神と剣神の関係がある意味では破滅したのでしょう、軍神の初陣はここなのです。

 そして剣神もまた、多分ここが初陣だったのでしょう。


 彼女は気付いていないようですが、反逆者を蹂躙したのは、兄の全てをここで奪ったのは彼女なのです。

 私は調べるたびに思います、剣神は軍神によって何もかもを奪われた人なのだろうと、そして軍神はそれに気付かないのではなく、彼女のやった結果が偶然、奪ったが為に気づく事も出来なかったのです。


 過去起きた事を目をつぶりながら想像します、壊れても仕方のないことだと、人が破滅するには十分足りる光景がここでは起きたのでしょう。

 首を転がしながら何かが起きた、この辺りには時間でも止まったように人の営みがまだ残っていますが、それはここで生まれた剣神が、きっと何かを起こしたのでしょう。あの惨劇以上のことがもしかするとここでは起きたのかもしれません。


 私には区別が付けられるものではないのが残念です。

 そして思うのはここで過去起きた事は間違いなく、凄惨なものであった事と、剣神と誕生に起因しているという事ぐらいでしょうか。

 目をつぶれが悲鳴が聞こえてきそうな場所です、血の川が流れていたとされた当時、きっと本当に悲劇ばかりが浮かんでは消えていたのでしょう。


 人が壊れるには足るだけの要因が、ここには全てそろっていました。

 ここには剣神が壊れるだけの要因が全てそろっていました。


 多分というより確実に私はもう二度とここに立ち寄る事は無いでしょう。ですがこの光景は忘れられそうにありません。

 ここで一度だけ私は一晩を過ごします、その時に彼の日記を見ていました、男爵領に居た頃の彼は随分と楽しかったのでしょう、帰る前に一度日記を見ながら散策しましたが、そこには彼の軌跡が確かにありました。


 ここで必死に生きてきた、剣神と呼ばれる前の少年の軌跡が。


 

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