第30話 繋がり~エピローグ
ゴイっちとの交信が途絶えて1か月ほど過ぎたある日のこと……。
「なつき、たまには博多の街に繰り出してみない」
君枝が珍しく遊びに行こうというのでつきあうことにした。
きっと私がゴイっちと別れて寂しい思いをしているから、元気づけようと気遣ってくれたのだろう。
福岡一の繁華街・博多に繰り出すとあって、2人ともいつもよりファッションに気合いを入れた。
久々に訪れた駅のショッピング街はすっかり新しくなっていた。高2女子としてはそれだけでテンションがあがり、ウキウキしながら見てまわる。
ふと気づくと一角に長い行列ができているではないか。
ブックセンターの前にカラフルで大きなのぼりが立っている。
『大浜カノン 初エッセイ発売記念 サイン会』
私は直感的にここに来た理由を察した。
「君枝ってもしかしてわかってたの?」
「まさか、いくら私でもそこまでは無理よ。前にピンクの部屋でゴイっちが教えてくれたの。なつきのトラウマの原因はアイドルに言われたひと言だって」
「ゴイっち……そこまで私のことを考えてくれてたんだ」
私は胸がジーンとした。
「さあ、行ってきなさい。そして悩み続けたことを洗いざらい聞いてもらうのよ。はいこれ」
君枝は大浜カノンの初エッセイを3冊も手渡した。それだけ話す時間がとれるように配慮してくれたのだろう。
「うん。ありがとう君枝。行ってくる」
私は意を決して行列に並んだ。
少しずつ順番が近づいてくると、大浜カノンが私を見つけて驚いた顔をしたのがわかった。
すると彼女も微笑んでくれた。
「もう大丈夫。今の私ならばきっと言える。あなたがあのとき『私とは違う。私には似てないよ』と言ってくれてよかった。ありがとうと」
大浜カノンからサインをもらえた感激を土産に帰宅した。
リビングで感慨に浸っていると、なぜか母がアルバムを持ってきた。
「押し入れを片付けてたらさ、こんな懐かしい写真が出てきたのよ」
妹が覗き込んで笑い声を上げる。
「えーこれ誰?私じゃないよね、お姉ちゃんの小さいときなの?ウケる。アハハハ」
それは私が幼稚園のときに自宅の前で父に撮ってもらった写真らしい。
「懐かしいなぁ。お父さんがデジカメで撮って、写真屋さんでプリントしてもらったやつだ」
「へえ、昔はそんなことしてプリントしてたんだ。めんどくさそう」
妹は私の写真にはすぐ飽きて、そっちの話に興味を持った。
私は自分の幼稚園時代を思い出そうと、1枚1枚しっかり確認していく。
するとその中の1枚を見て手が止まった。
「ああ、それはなつきが側溝にいたゴイサギに近づいたときのだな。ゴイサギが飛んで逃げる瞬間をとらえたんだ。レアショットだね」
父が自慢げに話すのを聞いても私は当時のことを思い出せない。
ただ、そのゴイサギからゴイっちととてもよく似た何かを感じた。
「大きくなったね、なつき」
そんな声がどこからか聞えたような気がした。
私は心の中でこう返した。
「ありがとう。ゴイっち」
-完-




