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第22話 宿敵再会

 アマゾネスの車に乗ってゴイサギ大明神へと急ぐ。

 私が道案内してまずは草野五郎さんの自宅に着いた。


「草野さん!なつきです。大丈夫ですか!」


 引き戸の玄関から入って声を掛けたところ、奥の方から草野さんが恐る恐る出てきた。

「あの女もいたから、たぶんこの間の仕返しに来たんじゃろう。屈強な男たちと山を上って行きおった」

「どうしよう?」

 事情を聞いた私は、やはり警察官の判断を仰ぐべきだと思い後ろを振り返った。

「何してるの!急ぐわよ!」

 相談するまでもなく3人は山を上りはじめていた。

 私も草野さんとその後を追う。


 ゴイサギ大明神が建つあたりまで近づくと、数人でが何か作業をしているのが見えてくる。

 紅一点、パンツスーツに身を包みパンプスを履いた女性がこちらに気づくと声を張った。


「南条歩希じゃないの!まさかこんなところで会おうとは思わなかったわ」


 まるで侍みたいな口ぶりをアマゾネスが受けて立った。


「堂園朝日。久しぶりに顔を見られたのにろくなことはしていないようね」

 

 どうやらお互いに見知った間柄らしい。


「先生、あの女を知ってるんですか」

 私は堂園朝日たちの悪巧みを察知しているだけに、つい呼び方が粗暴になってしまう。

「堂園朝日とは小学校、中学校と剣道の町道場に通った仲よ。高校でも剣道のライバル校に進学して大会で竹刀を交えた、いわば宿敵ね」

 アマゾネスが剣道をしていたとは知らなかったが、堂園朝日もキャリアウーマンという感じでそんな気配はない。その2人が宿敵というのだからわからないものだ。

「あんたはフェイント技が得意で、私もずいぶんてこずったものだわ」

 アマゾネスが剣道部時代のことを振り返った。

「あら、そっちだって上背があるから、面を打たれると防具をつけていても衝撃が強くて涙が滲んだのを忘れないわ」

 堂園朝日も懐かしそうに話していた。

「お互い大人になって別々の道を歩いてるけど、こんな形では会いたくなかった」

 アマゾネスがこぼしたので、堂園の表情が変わった。

「私は仕事としてやるべきことをやっているだけ。あなたこそ何の用事でこんなとこに来たのよ」

「それを話している暇はないのよ。お互いに一触即発って空気でしょ」

「ふん、よくわかってるじゃない」

 どうやら宿敵の再会は昔話に華を咲かすどころか、波乱を巻き起こすことになりそうだ。


「あんたたち。作業は一旦中断して、こいつらを追っ払ってちょうだい」

 堂園が命じると屈強な漢たちが手を止めて不敵な笑いを浮かべた。


 成り行きから不穏な状況になったが、警察官のラリホとビンちゃんにしてみれば穏便に済ませたい。

「警察よ、不法侵入および不動産侵奪罪にあたるため立ち退きなさい」

 ビンちゃんが警察手帳を掲げて警告した。

 堂園たちは彼女が私服姿なのでまさか警察官とは思わなかったため、一瞬たじろいだ。

 しかし警察手帳を出してもすんなり引っ込む相手ではない。

「いい。私は草野五郎さんの自宅でゴイサギ大明神の祟りにあったのよ。精神的な苦痛をおわされた被害者でもあるの。だから被害が広がらないようにしているわけ」

 すでにアマゾネスは臨戦態勢に入っているようだし、ラリホとビンちゃんも覚悟を決めるしかなかった。



「手加減しないわよ」

 堂園朝日は作業道具の周りに転がっていた木材からほどよい太さと長さのものを選んでアマゾネスの方に放り投げた。

「望むところよ」

 アマゾネスはそう答えて木材を手に取ったが、すぐに睨みつけて言い返した。

「やり口が汚いのは相変わらずね」

 堂園が握っている木材はアマゾネスに渡したそれより明らかに丈夫そうだったからだ。


「いかん」

 すると私の後ろに立っていた草野さんがそうこぼして坂を下っていくではないか。

「あ、草野さんっ」

 今は勝手に動かないほうがよいと思い、止めようとしたがどんどん行ってしまった。



 剣道の竹刀ならぬ木材を持った堂園朝日とアマゾネスが睨み合っているとビンちゃんが声を掛けた。

「南条先生!大丈夫ですか」

 アマゾネスがかつては剣道部のエースだったとしても、保健室の先生になってからは道場に通っているという噂すら聞いたことがない。

 一方、ライバルだった堂園朝日について現在の

 実力はわからないが、作業員を引き連れて現場に出向くくらいだから多少は鍛錬しているかもしれない。


 ビンちゃんは心配して手伝おうとしたのだろう。ところがその前に男が立ちはだかった。

「おっと、あんたの相手はこっちだ」

「タイジ。顔は止めとくんだよ。後々騒ぎが大きくなったらまずい」

 堂園はそう指示してニヤリとした。

「ああわかってるさ。オッサンはそっちの美人を頼むわ」

 タイジと呼ばれた男は堂園に返しながら、横にいた仲間に話しかけた。オッサンというから年上なのだろう。

「美人じゃなくて悪かったわね!」

 言うが早いか左でジャブを2発繰り出したのはビンちゃんだった。

「おっと。やるね。そんなつもりで言ったんじゃないよ。あんたもボーイッシュで魅力的だって」

 タイジはジャブをブロックしながら無駄口を叩く余裕があった。

「ステップの取り方からするとキックか。俺はフルコンタクト空手をかじってるんでおもしろくなりそうだな」



 一方、ラリホはオッサンの威圧感に足がすくんで動きが取れない様子だ。

 自然と対戦相手が決まった。格闘技の経験などなく非力な私はハラハラしながら見守るしかない。



 素早く間合いを詰めてきたのは堂園朝日だ。

 アマゾネスの反応を見ながら小手を打ってきた。絶妙な足裁きで防いだものの、獲物が短いだけに戦いにくそうだ。


「なつきちゃん、あの先生にこれを」

 後ろから言われて私が振り返ると、いつの間にか草野さんが戻ってきていた。

「これは先祖から伝わる木刀なんだ。これならば実力が出せるに違いなか。さあ」

 私は草野さんから黒光りして重厚感がある木刀を受け取ると、対峙する2人に用心して近づいた。

「南条先生!この木刀を使って」

 アマゾネスは堂園を警戒しながら後ずさりして、私から木刀を受け取った。

「ありがとう。これで勝機が見えてきたわ」

「何言ってんの!」

 アマゾネスの言葉に冷静さを失った堂園が喉元に突きを見舞ってきた。

「う゛ぇっ」

 カランと音をたてて獲物が転がった。堂園が木材を落としたのだ。


 堂園の攻撃を見越して挑発したアマゾネス。読んだ通りに突いてきたところをすりあげて、さらに木刀で突いたのである。


「くそ!いつだってそうよ!結局あんたには勝てないのよ」


 地面に膝をついてうなだれる堂園の目からは涙がこぼれていた。

 アマゾネスはそんなライバルに言葉をかけた。


「今日の場合はあなたの作戦ミスよ。草野さんが木刀を持ってきてくれたから形勢逆転したけど、でなければ私が負けていたでしょう。誰しも一人で戦っているとは限らないことを肝に銘じるのね」

「ううっ……」

 堂園のかすかな泣き声が聞こえた。




「シュッ、シュッ」

「ビシッ バシッ」

 鋭く息を吐く音とともにキックが当たるときの音が響く。

 ビンちゃんの回し蹴りがタイジの太ももにヒットしているようだ。

 しかし明らかに体格差があるため、タイジはまだ余裕で受けているという感じである。

 するとタイジは僅かなスキを見逃さず、間合いに入り飛び膝蹴りを見舞った。


 跳び膝蹴りや首相撲からのチャランボといえばキックボクシングのレジェンド“キックの鬼”沢村忠によって広まった技とも言われる。

 私は漫画やアニメにもなった『キックの鬼』を見て技やルールについてある程度は知っている。

「まずい、これじゃお株を奪われてビンちゃんが追い込まれてしまう」

 だがビンちゃんは間合いを詰められても効果が期待できる肘打ちで応戦した。タイジがたじろいで僅かに下がったその時。

 ビンちゃんの右回し蹴りが一閃。ガードしたタイジの左腕を見事にとらえた。その瞬間、ガードしたはずなのによろけて倒れ込んだ。


「すげえな、あんた。婦人警官にしておくのはもったいねえよ」

「舐めんじゃないわよ。私は子どもの頃から『キックの鬼』に憧れてムエタイまで習ったんだから」

そんなやりとりが聞こえた。

 私はまだまだビンちゃんのすごさをわかっていなかったようだ。




 キックボクシングが得意でキレのある技を繰り出すビンちゃんとは対照的なのがいつも自然体なラリホである。

 私は彼女が感情を露わにするところを見たことがない。しかし、今は自分よりかなり大柄な男を相手に戸惑っている様子が見て取れる。

 オッサンと呼ばれるその男は、どっしりとした安定感のある体格をしており、表情は怒っている風でもない。

「そうよ。ラリホと似ているんだわ。自然体でとらえどころがないからラリホもいつもと勝手が違うのではないかしら」

 ラリホの異変について私はそう憶測した。


「お前さんには悪いが、俺も仕事だからここを通すわけにはいかない」

 口を開いたのはオッサンだった。

 その姿が一瞬消えたかと思うと、宙を舞っていた。ラリホが投げたのだ。

 だが地面に体が叩きつけられる衝撃が感じられなかった。

 ラリホもかつてない経験のようで目を丸くしている。


「ほう。合気道かい。こんなに見事に投げられたのは何年ぶりかな。でもね、柔術の世界にはとんでもない達人がごまんといるのさ。知っとくといい」

 そこからはオッサンがなんとかラリホをつかまえて投げ技や足を刈って倒し、組み技に持ち込もうとした。ラリホはそれをさばいて投げるが、オッサンは見事な受け身でほぼダメージを負わない。そんな攻防が続いたのである。




 格闘家あるいは武道家には暗黙のルールがあるのかもしれない。ラリホとオッサンの対決を誰もじゃませず見届けようとしているようだった。

 それは私と草野さんも同じだ。固唾を呑んで2人の攻防に見入っていた。


「あんたたちにもここから立ち退いてもらわないとな。いつまでも突っ立てるんじゃねえよ」

 野太い声で言われてビクッとした。油断していた。ほかにも作業員の男はいたのだ。柄の悪そうな2人の男が私と草野さんの腕を掴んで連れ出そうとした。


「お前らは俺が相手してやるよ」

 そう声がしたかと思うと、2人の男がその場にうずくまっていた。

 一瞬の出来事だ。


 私は声の主を見て声を上げた。

「あなた!何でここにいるの?」


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