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能ある鷹は爪を隠すが、裏切り者には容赦しない ~陰キャを演じる天才ハッカーの俺を嘲笑った幼馴染たちが、社会的制裁で破滅するまで~  作者: ledled


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第三話 崩壊の序曲・裏アカの暴露

教室の空気は、昨日よりもさらに淀んでいた。


いじめという娯楽は、一度始まるとブレーキが効かない。むしろ、ターゲットが無抵抗であればあるほど、加虐心はエスカレートしていく。


三時間目の休み時間。


俺、相沢駆の机の上には、飲みかけのパックジュースが倒されていた。甘ったるいオレンジ色の液体が教科書に染み込み、机の端から床へと滴り落ちている。


「あーあ、相沢くん。ジュースこぼしちゃったの? ドジだなぁ」


佐藤ミカが、わざとらしい高音で笑った。彼女の手には、まだ新しいパックジュースが握られている。明らかに犯人は彼女だが、誰もそれを指摘しない。


「くっさ。ちゃんと拭けよなー」


西園寺蓮司が鼻をつまみ、俺の椅子を蹴り飛ばした。


クラスメイトたちは、遠巻きにそれを見てクスクスと笑っている。あるいは、関わりたくないとばかりにスマホに目を落としている。


俺は無言で鞄から雑巾を取り出し、机を拭き始めた。


その背中に、ミカの甲高い声が突き刺さる。


「てかさー、昨日の動画マジで伸びてんじゃん! コメント欄見た? 『この男、生きてる価値なし』だって! 超ウケるー!」


ミカはスマホの画面を陽菜に見せつけている。


「ねえ陽菜もそう思うでしょ? こいつマジでキモいよね」

「え……う、うん。そうだね……」


陽菜は引きつった愛想笑いを浮かべ、俺の方をチラリと見た。その目には罪悪感の色が見えるが、彼女はすぐに視線を逸らし、ミカの話に同調した。


「だよねー! あ、そうだ。今日の放課後、またカラオケ行かない? 今日は陽菜の奢りで!」

「えっ、あ、うん……いいよ」


陽菜はATM扱いされていることにも気づかず、あるいは気づいていても拒否できず、曖昧に頷いている。


俺は黙々と机を拭きながら、心の中でカウントダウンを開始していた。


(ターゲット、佐藤ミカ。現在位置、教室中央。使用端末、iPhone 15 Pro。MineおよびOwlstagramにログイン中)


俺の眼鏡――実は骨伝導イヤホンと極小マイク、そしてARディスプレイ機能を搭載した特注品――のレンズに、デジタルの数値が表示される。


時刻は十時四十五分。


予定していた「開演」の時間だ。


俺はポケットの中のスマートフォンを操作した。画面を見る必要はない。あらかじめ設定しておいたショートカットキーを、ポケットの上から特定の順序でタップするだけだ。


『Execute Script: RABBIT_HUNT』


コマンドが実行された瞬間、俺の構築したボットネットが活動を開始した。


標的は、この学校の生徒全員が登録している「生徒会連絡網」のMineグループ、そして保護者会のメーリングリスト、さらには学校の非公式掲示板だ。


俺は机を拭き終え、汚れた雑巾を持って手洗い場へ行こうと立ち上がった。


その時だった。


ピロリン♪


可愛らしい通知音が、静まり返った教室に響いた。


誰かのスマホが鳴ったのではない。


ピロリン、ピロリン、ブブブッ、ピコン!


一人、また一人。教室中の、いや、廊下や隣のクラスからも、一斉に通知音が鳴り始めたのだ。


「え、なに?」

「全員一斉にLINE来たんだけど」

「生徒会から? なんだこれ」


生徒たちが不思議そうにスマホを取り出す。


ミカもまた、自分のスマホを覗き込んだ。


「は? なにこれ、ウイルス?」


その声が震えていることに、まだ誰も気づいていない。


俺は手洗い場へ向かう足を止め、教室の出入り口付近でその光景を眺めることにした。特等席で、彼女の破滅を見届けるために。


配信されたメッセージの内容は、シンプルかつ衝撃的なものだった。


タイトル:【重要】本校生徒の不適切な行動に関するご報告


添付ファイルとして送られたのは、一枚の画像ではない。丁寧に編集された、比較画像だ。


左側には、佐藤ミカが「Owlstagram」に投稿している、加工されまくったキラキラした自撮り写真。キャプションには『今日は友達と勉強会♡ みんな大好き! #BFF #勉強垢』などと書かれている。


そして右側。


そこには、「毒吐きウサギ」というハンドルネームの裏アカウント「Twotter」のスクリーンショットが貼られていた。


投稿時間は、左側の写真とほぼ同時刻。


『勉強会とかマジだるい。陽菜のノート写させてもらお。あいつ断れないからちょろいwww』

『てか陽菜の今日の服、ダサすぎない? 貧乏くさw よくあれで隣歩けるわ』


教室の空気が、一瞬で凍りついた。


「え……?」


陽菜が、信じられないものを見る目でスマホを凝視している。


だが、暴露はそれだけでは終わらない。画像はスライドショー形式になっており、次々と新しい証拠が表示されていく。


『今日の戦利品~! 駅前のドラッグストア、警備ガバガバで草。新作リップげっとん』


写真には、万引きしたと思われる化粧品が、店のタグがついたまま大量に並べられている。


『蓮司くんマジうざい。金持ってるから付き合ってやってるけど、話つまんないし体臭キツイし無理。早く新しい財布見つけなきゃ』

『未成年飲酒なう! 店員さんチョロすぎw 顔パスでハイボール出してくれるとか神かよ』

『担任のハゲ、マジ死ねばいいのに。給食に下剤入れたろかな』


それらの投稿には、ご丁寧に位置情報データと、投稿時のIPアドレス、そしてミカ本人の顔が写り込んだ反射画像などが赤丸で強調され、言い逃れができないよう解説文が添えられていた。


極めつけは、昨日の俺へのいじめ動画についての投稿だ。


『陰キャいじめてストレス発散! こいつ生きてる意味ある? 動画拡散して社会的に殺してやろw みんな協力よろ!』


教室中の視線が、スマホの画面から、ゆっくりと佐藤ミカへと移動した。


「……なにこれ」


最初に口を開いたのは、陽菜だった。


彼女の声は震え、目には涙が溜まっている。


「ミカちゃん……これ、本当なの? 私のこと、そんなふうに思ってたの……?」

「ち、違う! 違うの陽菜! これは合成! 誰かが私をハメようとして……!」


ミカは顔面蒼白になりながら、必死に弁解しようとする。だが、その声は上擦り、目は泳いでいる。


「合成なわけねーだろ!」


怒号が響いた。西園寺蓮司だ。


彼は顔を真っ赤にして、ミカに詰め寄った。


「俺が体臭キツイだぁ? 金づるだと? ふざけんじゃねえぞアマ!」

「れ、蓮司くん、違うの! これは……!」

「うるせえ! お前、俺の奢りで散々飯食っといて、裏でこんなこと書いてたのかよ! クソが!」


蓮司がミカの手からスマホを奪い取り、床に叩きつけた。


バキッという音と共に、最新のiPhoneの画面が粉々に砕け散る。


「いやぁぁぁ! 私のスマホ!」


ミカが悲鳴を上げるが、周囲の目は冷ややかだ。


クラスメイトたちが、ヒソヒソと話し始める。


「うわ、万引きとか犯罪じゃん」

「飲酒もアウトでしょ」

「てか、裏で悪口言いすぎ。性格悪っ」

「毒吐きウサギって名前、ぴったりじゃん」


さっきまで彼女と一緒に笑っていた女子たちも、蜘蛛の子を散らすように彼女から距離を取り始めた。


「ミカ、あんた私のことも『整形モンスター』って書いてたわよね? 最低」

「私たち友達だと思ってたのに。近寄らないでよ犯罪者」


掌返し。それがスクールカーストの脆さだ。恐怖と利益で繋がっていただけの関係は、一度亀裂が入れば音を立てて崩れ去る。


ミカは孤立無援の状態で、教室の真ん中に立ち尽くしていた。


「み、みんな……待って、違うの。私は……」


彼女は助けを求めるように陽菜を見た。


だが、陽菜は両手で顔を覆い、泣き崩れていた。信頼していた友人に、裏で「チョロい」「貧乏くさい」と嘲笑われていたショックは計り知れないだろう。


「陽菜……」


ミカが一歩近づこうとすると、陽菜は「来ないで!」と叫んだ。


その拒絶の言葉が、トドメとなった。


ミカの呼吸が荒くなる。


「ハァ……ハァ……なんで……なんで私が……」


彼女は血走った目で周囲を睨みつけた。


「あんたたちだって! 一緒に笑ってたじゃない! 陰キャいじめるの楽しんでたじゃない! なんで私だけ悪者にするのよ!」


逆ギレ。


だが、その言葉は誰の心にも響かない。自分たちの保身のために、誰もが彼女を「生贄」として切り捨てたからだ。


「うるせえよ犯罪者が!」

「警察行けよ!」

「学校の恥だわ」


罵声が飛び交う中、俺は静かに教室に入り、自分の席に戻った。


そして、わざとらしく驚いた声を上げた。


「え、これ……佐藤さんなの? 万引きって……本当?」


その一言が、ミカの理性を完全に崩壊させた。


「あんたのせいよぉぉぉぉ!!」


ミカは髪を振り乱し、鬼のような形相で俺に掴みかかろうとした。


「あんたが! あんたみたいな陰キャが存在するから! 私がこんな目に!」


論理も何もない、ただの八つ当たり。


彼女の爪が俺の顔に届く直前、担任教師が血相を変えて教室に飛び込んできた。


「佐藤! やめなさい!」


担任はミカを羽交い締めにし、制止した。


「離して! 離してよぉ! 私は悪くない! 全部こいつが悪いのよ!」

「落ち着け佐藤! 校長室に来なさい! 警察からも連絡が来てるんだぞ!」


「警察」という言葉に、ミカの動きが止まった。


彼女の顔から、完全に血の気が引いていく。


「けい……さつ……?」

「ああ。店側から被害届が出ている。言い逃れはできないぞ」


担任に引きずられるようにして、ミカは教室から連れ出されていった。


廊下に彼女の絶叫が虚しく響き渡る。


「いやぁぁぁ! パパに言いつけてやる! あんたたち全員訴えてやるからぁぁぁ!」


声が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。


教室には、重苦しい沈黙と、壊れたスマホの残骸だけが残された。


生徒たちは顔を見合わせ、気まずそうにしている。


「……マジかよ」

「あいつ、終わったな」

「万引きの証拠写真まであるとか、バカすぎ」


誰かがポツリと言うと、堰を切ったように会話が再開された。ただし、その内容はミカへの非難と嘲笑一色だ。昨日まで俺に向けられていた悪意が、そのまま彼女へとスライドしただけ。


俺は心の中で冷笑した。


(人間とは、かくも浅ましい生き物か)


彼らは気づいていない。


この情報の出処がどこなのか。なぜ、あれほど正確に裏アカウントが特定されたのか。そして、なぜこのタイミングだったのか。


俺は視線を床に向けたまま、膝の上のノートパソコンを開いたふりをして、ログを確認した。


保護者連絡網にも同様のメールが送信完了している。今頃、ミカの親のスマホも鳴り止まない通知に悲鳴を上げていることだろう。PTA会長を務める彼女の母親にとって、娘の犯罪と悪態が全保護者にバラ撒かれた事実は、致命的なスキャンダルとなる。


そして、陽菜。


彼女はまだ泣いていた。友人たちに慰められているが、その表情は晴れない。


「陽菜ちゃん、大丈夫? ミカがあんな最低なやつだなんて知らなかったよね」

「そうだよ、陽菜ちゃんは被害者だよ」


周囲の女子たちが口々に言うが、陽菜の心には深い傷が刻まれたはずだ。「陽キャグループにいれば安全」という彼女の信条は、そのグループの内側からの裏切りによって揺らいでいる。


そして、蓮司。


彼は壊れたミカのスマホを蹴り飛ばし、不機嫌そうに舌打ちをしていた。


「チッ、胸糞悪ぃ。あのアマ、二度と俺の前にツラ見せんじゃねえぞ」


彼は自分への悪口が許せないだけで、ミカが行った犯罪行為やいじめについては何ら反省していない。むしろ、「自分も被害者だ」と振る舞うことで、責任から逃れようとしている。


(……甘いな、蓮司)


俺は眼鏡を押し上げた。


佐藤ミカは、あくまで前座。トカゲの尻尾に過ぎない。


本丸は、お前だ。


西園寺建設の不正データは、すでに俺の手元にある。脱税、談合、裏金作り。そして、お前の父親が隠蔽してきた数々の労働災害事故。


それらが公になれば、お前の「特権階級」としての地位は、砂上の楼閣のように崩れ去る。


俺はポケットの中で、次の「スクリプト」の準備を始めた。


実行タイミングは、明日の昼。


全校生徒が食堂に集まり、テレビのニュース番組が流れる時間帯。


そこで流れるのは、芸能人のゴシップではない。


「地元有力企業、西園寺建設に強制捜査」という、衝撃のブレイキングニュースだ。


「……相沢、大丈夫だったか?」


不意に、クラスの男子が声をかけてきた。今まで一度も話したことのない、地味なグループの生徒だ。


「あ、うん……びっくりしたよ」


俺は弱々しく笑って見せた。


「佐藤のやつ、自業自得だよな。お前も災難だったな」


彼は同情的な目を向けてくる。


風向きが変わり始めた。


ミカという共通の敵が現れたことで、俺への攻撃は一時的に止むだろう。だが、それだけでは終わらせない。


俺はいじめられた「可哀想な被害者」として同情を買うつもりはない。


俺は、全てを清算する「執行者」なのだから。


五時間目の授業が始まるチャイムが鳴った。


教室の空気は、まだざわついている。ミカの空席が、ぽっかりと口を開けていた。


俺は黒板を見つめながら、静かに思考を巡らせる。


ミカは社会的に抹殺された。不登校になり、転校を余儀なくされるだろう。ネット上に拡散された彼女の悪名は、一生消えることはない。進学も就職も、茨の道となるはずだ。


「……因果応報だよ、佐藤さん」


俺の呟きは、誰にも聞こえない。


だが、この復讐劇はまだ第一幕が終わったに過ぎない。


次は、巨塔を倒す番だ。


俺は、明日起こるであろう阿鼻叫喚を想像し、退屈な授業時間を、これ以上ないほど充実した気分で過ごした。


俺の指先が、机の下で小さくリズムを刻む。


それは、西園寺帝国崩壊へのカウントダウンだった。

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