しんこんさんごっこ
初めて出会ってから、一週間くらい経った頃。
私の通う幼稚園に、光希がやってきた。
先生がみんなの前で光希を紹介する。
「今日から、新しいお友達がふえます。空本光希ちゃんです。みんな、なかよくしてね〜」
元気な返事が教室に広がる中、光希はみんなの顔を見ていた。私と目が合うと、
「こはるちゃん!」
と言って、迷うことなく、真っ直ぐと私の方まで来た。そして流れるように私の手を取り、優しく握ってきた。
「また、いっしょだね」
「うん」
近くにいた子たちが、不思議そうにこちらを見て聞いてきた。
「ねぇねぇ、みつきちゃんのこと、しってるのー?」
「おともだち?」
光希は、私の手を離さないまま、「うん!」と得意げに答えた。
「こはるちゃん、となりのおうちなの」
わっと声が上がった。
「あらあら。もう仲良しさんなのね」
先生は困るでも止めるでもなく、ただ柔らかく微笑んだ。
先生が「自由遊びにしましょう」と言った瞬間。光希は私の手をぎゅっと掴んだ。
「ねぇ、こはるちゃん。新婚さんごっこしよ?」
「しん、こん……? って、なに?」
「えっとね……けっこんしたばっかりのカップルって、おかあさんがいってた」
「じゃあ……けっこんってなに?」
「えっとね……おとうさんとおかあさんみたいに、ずっといっしょにいること」
「ずっと?」
「うん。いっしょにごはんたべて、いっしょにねて、いっしょにおうちにかえるの」
光希は私の手を引いて、おままごとセットが置いてある場所まで来た。
「いちばんだいすきどうしになること! だから、はなれないの。けんかしても、ずっとなかよしなの!」
「だいすきどーし?」
「そう。だから『新婚さんごっこ』は、いちばんたのしいふたりになるあそび!」
光希は、握ったままの私の手をもう一度ぎゅっと握った。
「だから、こはるちゃんとやりたいの!」
光希に圧倒されていると、光希が、
「こはるちゃんが『お嫁さん』で、みつきが『旦那さん』ね!」
と、光希が配役を決めた。その時、明るい声が横から飛んできた。
「ねぇねぇ! それたのしそう! ぼくもまぜて!」
振り向くと、男の子が一人、こちらに駆け寄ってきていた。
彼は持田行也。素直で良い子。
隣の光希は一瞬だけ、明らかにテンションが下がった顔をしたが、
「いいよ。『ペット』か、『壁』なら」
光希は、私の手をぎゅっと握ったまま、さらっと言った。
私が戸惑っていると、行也くんは、
「うん! わかった!」
と、迷いなく頷いた。
「じゃあ、ぼく『壁』やる!」
そして壁に徹し始めた。
光希は満足そうに頷いてたけど、私はただ、行也くんが何で壁を選んだのか分からず混乱していた。




