初めて出会った日
十四年前。
今からは想像もつかないけれど、初めて会った日の光希は、小さな公園のブランコで泣いていた。
夕方の風に揺れるブランコは止まったまま。その子だけが、そこに取り残されたみたいだった。
「どうしたの?」
そう話しかけると、女の子はゆっくりと顔を上げた。目元は赤く、さっきまで泣いていたようだった。
「かえれないの……」
とても小さく、泣き止んだばかりの喉で、無理して出した声だった。
「おうち?」
女の子はこくりと頷いて、
「かえりかた、わかんなくなっちゃった……」
私は一瞬だけ考えて、ブランコの前に立った。
「じゃあさ、いっしょにさがそ?」
「いいの?」
「うん、いいよ」
私は、女の子がブランコから降りた時、女の子が少しでも安心できるようにと思って、手をぎゅっと握った。
すると女の子の指が、ぎゅっと握り返してきた。
「ねぇねぇ、おなまえは?」
「みつき……」
「みつきちゃん。こはるはこはる!」
そう言ったら、光希は、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「みつきちゃん、おうちのちかくに、なにがあったかおぼえてる?」
「えっと……おうちがいっぱい……」
「こはるのおうちといっしょだねー、おうちのまわりね、おうちまみれなの」
「いっしょ……」
「そうだ! こういうときは、おまわりさんのとこだ! いってみよ!」
こうして私と光希は交番へ向かって歩き出した。のだが……うろ覚えで交番を目指したせいか、二人で迷子になってしまった。
「こはるちゃん、だいじょうぶ?」
「ごめんね……こーばん? のいきかたわかんなくなっちゃった……」
泣きそうになっている私を見た光希は、私の頭を優しく撫でてくれた。私より不安だったろうに。
「よしよし……」
「うぅ……みつきちゃん……」
そんな時、女の人の声が聞こえてきた。女の人は光希に駆け寄って、
「光希!」
「おかあさん!」
「良かった……もう、心配したんだからな……!」
光希のお母さんは、当時から強そうで美人なお母さんだった。
「あれ、もう友達できたの?」
「うん、こはるちゃんっていうの!」
「へぇ、光希と一緒にいてくれてありがとな」
光希のお母さんは、私と光希を交互に見てから、少しだけ考えるような顔をした。
「家に帰るために、一回公園に戻ろうか。小春ちゃんも、そこからなら分かりやすいだろ?」
「うん!」
そうして私たちは、さっきの公園まで一緒に歩いた。今度は迷わないように、光希のお母さんが先を歩く。その間も、光希は私と繋いだ手を一切離さなかった。
公園に着き、私は光希の方を見た。
「じゃあね、みつきちゃん」
「うん……じゃあね」
そう言いながらも、光希はなかなか手を離してくれなかった。
「ほら、帰るよ」
「うん」
光希は名残惜しそうに手を離した。
こうして私たちはそれぞれ帰ることになった……が、
「あれ、小春ちゃん」
「……?」
「家そっちの方向なの?」
「そうだよ〜」
光希のお母さんはクスリと笑って、
「私たちもそっち方面なんだ」
それを聞いた光希は、ぱぁっと表情を明るくした。
「こはるちゃんと、まだいっしょにいられるってこと?」
「そうだな」
光希は嬉しそうに、私に駆け寄って手を繋いできた。
「まだいっしょ……!」
こうして一緒に帰り道を歩き、家の前に着いた。
「ここ、こはるのおうち!」
「あらら、日向原さんとこの娘さんだったのか」
「みつきのおうち……ここなの」
光希が指さしたのは、隣の家。
「またみつきちゃんと、すぐあえるってこと?」
「うん! やったぁ!」
光希はぎゅっと私の手を握ったまま、今までで一番嬉しそうに笑った。




