初詣と近すぎる距離
元旦の朝は、静かだった。なんせまだ午前四時半前なのだから。妙に落ち着かなくて、私は何度も時計を見てしまう。毎年一緒に初詣行くから。
クリスマスの一件から、光希のことを考えるとドキドキするようになった。
約束の時間まで、あと五分。その五分が、妙に長く感じられた。
スマホを手に取った瞬間、タイミングを見計らったかのように通知が鳴った。
『小春ちゃん』
『マンション前着いたよ』
まだ五分あるのに……!? いや、思い返せば、光希はいつも五分前には来てた。なるほどいつも通りか。
「えーっと、『すぐ行くよ』っと」
用意していた上着と荷物を持って玄関を出る。しっかり鍵を閉めたことを確認して、マンションの外へ向かった。
マンションの前には、長身の影があった。自動ドアが開くと、冷たい空気と一緒に視線が合った。
「あけましておめでとう、小春ちゃん」
光希の穏やかな声。その声を聞いただけで、胸の奥が少しざわつく。
「うん、あけましておめでとう」
「チャットでも言ったけど、やっぱり直接が良いね」
軽い口調で言い、光希はにこっと笑った。
「よし、初詣行こ」
光希は、私に手を差し伸べてきた。
手を繋ぐなんて、小さい頃からしていた。でも今は躊躇ってしまう。
すると光希は、勝手に私と手を繋いだ。
「こうすると温かいでしょ?」
そう言って、光希は私の手を優しく引いて行った。
地元にある、有名らしい神社。まだ朝早く、人はある程度少なかった。参拝を済ませて、朝ご飯食べてから、そのまま実家に帰る予定だ。光希は辺りを見渡しながら、
「良かった。あんまり混んでないみたい。この神社は結構有名らしいからさ。年明けと昼間はめっちゃ混んでるし」
「そうだね。でも地元だとあんまり特別感はないかも」
「確かにね。でも、僕にとっては思い出深い場所だからね。小さい頃から毎年一緒に初詣。幼稚園の遠足でも来たっけ。小春ちゃん、飛び跳ねた鯉にびっくりしてたよね。ホント可愛かったな」
そんなことまで覚えていたのか……というかサラッと可愛いって言ったし。
「そんな小春ちゃんを見ながらニヤニヤ笑ってた、あのガキ大将みたいな奴。子どもながらに明確な殺意を抱いたっけ……」
「そんな大げさな……第一、それ幼稚園での話でしょ?」
「大げさじゃないよ。好きな人が変な目で見られてたら、めちゃくちゃ嫌だもん」
「好き……!?」
光希はクスリと笑って、
「小春ちゃん、顔真っ赤」
「ちょっと待って光希! 幼稚園の頃から好きなの……?」
「うん」
「ほぼ最初からじゃん……」
「そうだよ。幼稚園児の頃から、小春ちゃんと結婚することを夢見てた」
幼稚園の頃の記憶が戻ってくる。確かにあの時の光希は、結婚と口にしていた。いやまさか性転換してまで本気だったなんて思わないし!
それから参拝を済ませ、振り返ると、明らかに人が増えていた。
光希は私の手をすぐさま取る。ひと気が少ない場所まで移動するつもりらしい。
歩くたびに誰かの肩にぶつかりそうになる。
「危ない」
光希が私の肩を抱いてきた。一瞬で距離が縮まって、心拍数が上がっていくのが分かった。
「大丈夫?」
並んで歩く足取りは、昔と変わらない。私の歩幅に合わせてくれるところも。
「光希って、昔からこうだったよね」
「こうって?」
「迷子防止係」
私がそう言うと、光希は小さく笑った。
「小春ちゃんが方向音痴だから」
「ひどい」
「事実でしょ?」
否定できないのが悔しい。
お守りを買うために列に並ぶ。事前に決めておくと、自分のためにも、後ろの人のためにもなる。公式ホームページで見られるし。
「小春ちゃん、何のお守り買う?」
「私は紫色のお守り。健康第一だし」
「僕は交通安全と……赤色のお守り」
「赤色ってたしか……」
「うん、縁結び。小春ちゃんと結ばれますように」
顔が熱くなる感覚がした。なんでそんなことをサラッと言えるのか。
「ふふ、小春ちゃん顔真っ赤」
順番が来て巫女さんの前に来る。事前に決めていたお守りを注文する。
「そうだ小春ちゃん、袋型とカード型のお守りどっちが良い?」
「カード型……」
光希はサラッと私の分まで買っていた。
お守りを買い終え、店から離れ、近くにあったおみくじを引いてみた。
「小春ちゃん、結果どうだった?」
「えっと……中吉」
「いいじゃん」
光希は一瞬驚き、すぐに笑顔になった。
「ふふ、大吉」
「えー良いなぁ」
彼は大吉のおみくじを見ながら、意味深な笑みを浮かべていた。
「それじゃあ小春ちゃん、実家に帰ろっか。母さんたち、小春ちゃんのお母さんたちと一緒らしいよ」
「そっか……そういえば、性転換したこと、光希のお父さんお母さんには伝えてあるの?」
「ううん、言ってない。だって言ったら止められて面倒臭そうだし」
そう言って笑う光希を見て、とりあえず私は深く考えないことにした。
次は二人の家族が出てくる予定です。




