この気持ちは
12月25日。目が覚めた瞬間、昨日のことが夢だったんじゃないかと思った。
クリスマスイブに突然現れた知らない男の人。その正体は光希。
ベッドの中で呆然と天井を眺めた。
「そういえば……今日、約束してたんだっけ」
昨日、別れ際に言われた言葉を思い出した。
『明日も会おうよ、小春ちゃん』
いつもみたいな軽い口調だったのに、断る隙もなく決まっていた。
通知音が鳴り、スマホを見ると、
『もうすぐ着くよ』
やっぱり夢じゃない。
約束の時間になると、インターホンが鳴った。
玄関のドアを開けると……ロングコートにマフラー、背が高くて、すらっとしてる。どこからどう見てもイケメンの男性、光希が立っていた。
「おはよ、小春ちゃん」
低くて落ち着いた声。昨日の今日だから、まだ慣れない。
「おはよう……」
視線が泳いだのが分かったのか、光希はクスリと笑った。
「そんな警戒しなくても、僕だよ」
「分かってる、分かってるけど……」
分かってるのに、見た目と記憶が一致しないから、頭が追いつかない。
ショッピングモールのクリスマス。どこを見てもカップルだらけ。
「危ないよ」
人混みの中で、光希が私の肩を軽く引き寄せる。かなり近い距離。心臓が変な音を立てる。
光希は自然に私の歩幅に合わせてくれる。
昔からそうだった。足が遅い私に、必ず合わせてくれた。
「光希って、昔から世話焼きだよね」
私がそう言うと、光希は一瞬だけ黙ってから、柔らかく笑った。
「小春ちゃんだけだよ」
「またそういうこと言う……」
「だって本当だもん」
お昼は光希が選んだカフェに入った。
私が見ていたのに気づいたみたいで、特に相談もなく決められた。
「ここ、甘いもの美味しいんだって」
「よく知ってるね」
「小春ちゃん、甘党でしょ」
即答。知ってて当然、とでも言いたげな顔。
私がメニューを見て悩んでいると、
「僕的にはこのショートケーキがオススメ。甘さ控えめで美味しいよ。小春ちゃんは甘党だけど、甘さ控えめが好き」
注文したケーキは、確かに私好みの味だった。
「美味しい……!」
「でしょ」
満足そうな顔で頷く光希を見て、少しだけ不思議に思う。
私の好み、こんなに把握してたっけ。
でも昔から一緒だったし。幼馴染だし。そう考えたら、納得できなくもない。
帰り道、ふとショーウィンドウに映った私たちを見た。並んで歩く男女。
距離も近くて、雰囲気も、どう見ても……
「ねぇ光希」
「なに?」
「私たち、周りからどう見えてると思う?」
光希はクスリと笑ってから、さらっと言った。
「恋人同士、じゃない?」
すると、光希は手を繋いできた。
「今は彼氏候補だけど、いつかは本物になるつもりだから」
顔が熱くなる感覚、心臓の音がどんどん速くなる。
「ははっ、小春ちゃん、顔真っ赤」
言い返す言葉が出てこない。 手を振りほどこうとも思ったけど、光希の手は温かくて、離れがたかった。
すると光希が耳元で囁く。
「小春ちゃんの隣にいるのは、僕がいい」
それはお願いというより、確認のようだった。 ずっと前から決まっていたことみたいな、そんな言い方。
光希は一瞬だけ目を細めて、ふっと笑った。
「小春ちゃん、見てみて。イルミネーション、綺麗だね」
「そうだね……」
「毎年一緒に見てるけど、今日は特別に感じる。しばらく会ってなかったからかな?」
「そうかも。それに……」
「僕が男になったから、でしょ?」
もう……ずっとドキドキが止まらないんだよ……!
家の前まで送られて、ようやく手が離れた。 少し名残惜しそうにする光希を見て、胸の奥がちくりとする。
「じゃあ……今日はここまで」
「光希、今日はありがとう」
「どういたしまして。近いうちにまた会おうね」
そう言って光希は、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「じゃあね」と言って、玄関のドアを閉める。鍵をかけたあと、静かになった部屋で、私はしばらく動けなかった。
再会するまで光希は、幼馴染の女の子だった。 それが今は、私の手を繋いで、恋人みたいな顔で笑う男の人。
混乱しているはず、でも嫌じゃなかった。
少しずつ。 本当に、少しずつ。 私の日常に、男性になった光希が入り込んでくる。
この気持ちは、多分気のせい。
そう信じていないと、きっと戻れないから。
とにかくクリスマスに間に合わせたくて頑張りました。
X(旧Twitter):@rutakoto0905




