あの日と同じ匂い
小春ちゃん視点に戻ってきました。
ホワイトデー回。
三月十四日、ホワイトデー。
私はそんな日だということを忘れ、家でテレビを見ながらのんびり過ごしていた。
午前九時半、突然インターホンが鳴り、モニターを見ると、そこには光希がいた。
私は玄関の扉を開けた。
「小春ちゃん、突然ごめんね」
「うん……光希がアポなしなんて珍しいね」
「小春ちゃんをビックリさせたくて」
私は光希を家にあげ、お茶を出した。
「小春ちゃんが淹れてくれるお茶は本当に美味しい」
「いつも言ってるよね」
「小春ちゃんが学校の授業で初めて淹れたお茶は、今でも忘れないよ。欲を言えば他の子には飲ませたくなかったけど」
「冗談が上手いですねー」
「本当なんだけどなぁ」
「それで、今日は何しに来たの?」
光希はニコッと笑って、私にハンドクリームを渡してきた。
「プレゼントだよ」
「今日、何の日だっけ?」
光希は一瞬きょとんとしてから、クスッと笑った。
「何って、今日はホワイトデーだよ」
「忘れてた……」
「小春ちゃんらしいね。少し使ってみてよ」
私は光希に促されるまま、ハンドクリームを使ってみた。
「あれ、この匂い……」
前にも嗅いだことある。いつだっけな……
そんなことを考えていると、光希は私の手を取り、マッサージを始めた。
「あの時もこうやって、マッサージしてあげてたっけ」
私は徐々に思い出してきた。
「中学の時、同じことしたよね……?」
そう言うと光希は、パァッと顔を明るくし、
「うん、したよ。覚えててくれてたんだ」
「このハンドクリームから、懐かしい匂いがしてさ」
「あの時のやつと同じ匂いがするのを買ってきたんだ」
「やっぱり光希はセンスが良いね」
光希は照れ隠しのつもりなのか、私の手のマッサージを続けた。
「ちょ、ちょっとくすぐったいって」
「我慢我慢。ちゃんと塗り込まないと意味ないから」
光希の指が、私の手のひらをゆっくりなぞる。男の人の手。なんだか、変に意識してしまう。
中学の時はこんな風に思わなかったのに。
「小春ちゃん」
「なに?」
「僕のこと、少しは意識してくれるようになった?」
心臓が跳ね上がった。
思わず顔を上げると、光希はいつもの穏やかな笑顔。
でも、その目は真剣だった。
「なに急に」
「だって、バレンタインの時、ちゃんと告白したでしょ」
そう言われ、あの日のことを思い出して顔が熱くなる。
「顔赤いよ。可愛い」
「もうっ、光希っ!」
クスクスと笑う光希から、私は思わず手を引っ込めた。
「そうだ、今度温泉行こうよ」
「温泉……?」
「そう。お泊まりでさ」
「なんで急に……」
「小学校の修学旅行で言ったじゃん。『大人になったら、温泉旅行行きたいね』って」
「そんなことまで覚えてるの!?」
「小春ちゃんとの約束は全部覚えてるつもりだよ」
ずっと記憶力が良いなとは思ってたけど、ここまでとは……本気なんだ、私のことが好きって。
「どうかな? 僕と温泉」
「もしかして下心ある……?」
光希は表情を変えず、不自然な間を空けてから、
「ないよ」
「嘘つきっ!」




