あの日からずっと
今回は光希視点の過去編です。
十四年前のあの日、僕は恋に落ちた。
「じゃあさ、いっしょにさがそ?」
「いいの?」
「うん、いいよ」
そう言ってあの子は僕の手を優しく握ってきた。
「ねぇねぇ、おなまえは?」
「みつき……」
「みつきちゃん。こはるはこはる!」
引っ越したその日に、一人で街を散策して迷子になって心細かった僕に、優しく笑いかけてくれた小春ちゃんは、幼いながらに、天使だと思った。
無事に帰宅した後、母さんにこのことを話したら、「恋なんじゃない?」と冗談っぽく言われたが、当時の僕はそれを信じた。実際合っていたから。
幼稚園に入る前、母さんの妹が結婚するという話がやってきた。
風呂上がり、母さんに『結婚』について聞いてみた。
「そうねぇ……お父さんとお母さんたちみたいに、ずっと一緒にいることよ」
「いっしょ?」
「そう。好きな人と結ばれて、一緒にいるって決めた二人ってとこかしら」
「おかあさんは、おとうさんがすきなの?」
「大好きよ、毎晩おそ……」
急に父さんがバタバタと近づいて来て、母さんの口を塞いだ。
「光希の前でなんてことを!」
母さんはどこか嬉しそうに、父さんの腕を掴む。
「ひぃっ⁉」
「あら、どうしたの? そんな声出して……」
「おとうさん、まっかだねー」
「な、何すん」
母さんは嬉しそうにしながら父さんの口を塞ぎ、僕の方を向いた。
「光希、そろそろ寝る時間じゃない?」
時計は九時を指していた。
「うん、そうだね。おやすみなさい」
父さんはいつも母さんを大事にしていた。 母さんも、父さんの隣にいるのが当たり前みたいだった。 だから僕は思った。 好きな人とは、隣にいるものなんだ、と。
「そうだ、おかあさん。このまえテレビでやってた、『しんこんさん』ってなに?」
「結婚したばかりのカップルのことよ」
そして数日後。幼稚園に初めて来た日、小春ちゃんを見つけて、胸が高まった。
自由時間になった瞬間、僕は真っ先に小春ちゃんの手を握った。誰かに取られる前に。
「ねぇ、こはるちゃん。新婚さんごっこしよ?」
幼いながらに、僕は小春ちゃんを独占する気満々だった。だからこそ、「それたのしそう! ぼくもまぜて!」と言った持田の存在が邪魔で嫌だった。
「いいよ。『ペット』か『壁』なら」
そう言えば諦めるだろうと思ったが、彼は何故か壁になることを選び、邪魔することはなかった。
『小春ちゃんがお嫁さんで、光希が旦那さん』、この配役を変えるつもりは一切ない。新婚さんごっこに誰が入ってこようが、小春ちゃんの旦那さんは僕だけだ。
十四年経った今でも、その気持ちは変わってない。




