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第一話 『エーデルシュタインの花嫁』で、 攻略できなかった“彼”を救うまで。

※こちらはBL作品になります

「……こんな世界、滅んでしまえばいいのに」


 その一言はあまりにも衝撃的で、美しかった。

 真っ白な月の光が照らし出す、漆黒の髪の美丈夫。

 おそらくこれが本編そのままであったなら、スチルだってあっておかしくないほどのシチュエーションだ。

 しかし今彼は、残酷なほどに静かな状況で、非常なほどに切なく頬にまつ毛の影を落としている。


 ドアノブに触れようとしていたエレナマリアは即座にドアの影に隠れて、ため息を吐くその人の視界から離れた。

 なんてシーンを見てしまったんだ!

 エレナマリアは、顔を真っ赤にして、ドキドキする心臓の音が聞こえてしまわないか不安になりながらも身悶える。


 真っ黒い髪に、金色の瞳。右頬に残る傷跡と眼帯は彼の美貌を損なうには至らず、黒い手袋に隠された細長い指が薄い唇を撫でているのが、影の形で分かる。

 いや普通わかるかーい!

 心の中で叫びながら、エレナマリアは胸元をぎゅーと握りながら歯を食いしばった。

 影の形で、そんな細かい他人の所作が分かるわけがない。

 なのに、エレナマリアの目にはそれはもうハッキリと、憂いを帯びた美青年の姿が映っていた。


 だって、エレナマリアは──高垣恵令奈(たかがきえれな)は、彼の境遇とその美貌を、よくよく知っている。

 一体何度、彼のその美貌から憂いを取り払ってやろうと頑張ったことか。

 一体何度! 彼の裏ルートを探してやり込んだことか!!!


 《エーデルシュタインの花嫁》~恋は秘密から始まる~

 恵令奈は、彼が登場するそのゲームを、正味13周ほどクリアしていた。

 今どき珍しくPC専用として発売された正統派乙女ゲーム……略して「エデ嫁」。

 このゲームはPC専用として発売されたという物珍しさと、戦闘シーンがまさかのアクションという事で話題を読んだ。

 

 世界の乙女がプレイするとは思えない初期要求スペックの高さと、アクションをパーフェクトクリアするために求められるプレイスキル。

 しかしそれらは一部のガチゲーマー乙女に突き刺さった。

 何しろキャラクターも最高に良かったのだ。

 主人公「エレナマリア」を自分でカスタム出来るし、そもそも攻略対象のイケメンさがエグい。

 更に言えば登場するイケメンたちの担当声優までもがとんでもない人選だったのだ。

 お陰様で恵令奈は全キャラクリアにハーレムルート、悪役令嬢との友情ルートにバッドエンドまで全てのエンディングを回収した。

 その上で、隠しルートを探して全実績を解除してもさらにプレイを続けたのだ。


 だが、少なくとも「恵令奈」が生きている間には隠しルートを発見する事は出来なかった。

 通常ルートで終わった13周目。

 全員のステータスをカンストさせるという最高難易度でのクリアをしたにも解放されなかった隠しルートに、恵令奈は涙した。

 一体どうすれば隠しルートは解放されるのか。

 そもそも隠しルートは存在するのか?

 学校からの帰り道、SNSでさめざめと攻略トークをしながら、恵令奈は苦悶した。


 そして、あっさり死んだ。


 そんな馬鹿なと思うが、自分でも驚く程あっさりと、恵令奈は死んだ。

 トラックに突っ込まれたわけではなく、ただよそ見運転の自転車と接触しただけだったのに。

 恵令奈は死ぬ直前、ひたすら悔いた。

 隠しルートを発見出来なかった事を。

 そして、「攻略出来なきゃおかしい」この黒髪の麗人を救えなかった事を悔いて、泣きながら死んだ。


 ベネディクト・フォルカー・リヒテンラート。

 【エデ嫁】の主人公・エレナマリアの義理の父。

 彼は攻略対象の1人である血の繋がらない義弟(おとうと)エーミールの実父で、全キャラ1の美貌と名高い若パパだった。

 しかし彼の不幸なこと不幸なこと……

 元々帝国の騎士だった彼は、戦場で皇帝を守って左半身が不自由になり、片目も失った。

 なのに皇后は彼を嫌って、皇帝の従兄弟なのにこの田舎に追いやられた。

 さらにはエーミールルート以外では全ルートで暗殺者からエレナマリアを庇って死亡。

 不器用な彼は、それまでエレナマリアに冷たく当たっていると思われていて、登場キャラからの好感度も低かった。


 しかし、しかしだ!

 実際の彼はただ不器用なだけで、子供を愛するいい父親だった。

 そもそも、孤児だったエレナマリアを、腹が空いていそうだというだけで引き取ってくれるなんて「いい人」以外にありえないだろう。

 なのに、本編ではその描写がほとんどなく、明かされたのは設定資料集だけという有り様!


 こんなの酷い! と隠しルートを模索し始めたのは、恵令奈だけではない。

 SNSでは設定資料集が発売されれば「ベネ様」がトレンドに上がり、素晴らしい嘘スチルが何枚も投下されたほど。

 恵令奈だって、学校と部活の時間以外は、全てベネ様ルート開拓に費やしていた。


 そんな恵令奈が、この世界に転生したのは規定路線だったのかもしれない。恵令奈は──今はエレナマリアと呼ばれている彼女は、そう思っている。

 きっと私は、ベネ様を幸せにするためにこの世界に来たんだわ!

 もうこれが妄想でもなんでもいい! 私はベネ様を幸せにする!!


 ドアの影でグッと拳を握り締めて、エレナマリアは涙を拭う。

 あそこまでやったのだ。もしかしたらベネ様ルートはないのかもしれない。

 だが、それはゲームの外での話だ。

 いま、エレナマリアはここに居る。

 そして、ゲーム本編開始前の幼いエレナマリアが「お父様は悪い方なんだわ!」と勘違いしたイベントを、この目で見た。


 高垣恵令奈は、彼の言葉が

 「こんな世界からは消えてしまいたいけれど子供を遺して死ねない」

 という言葉の裏返しだということを、13周のプレイの中でよくよく知っているのだ。


 誰にも愛されず、愛した者にはそっぽを向かれ、尽くした人には捨てられたベネディクト公爵様。

 

(わたしが絶対! あなたを幸せにしてみせます!!)


 10年後、【エデ嫁】の主人公であり聖女として覚醒するエレナマリアに転生した女子高生は、この日改めて月に誓った。

こちらは気まぐれに更新されるものになります。

第一話ではわかりにくいですがBL作品です。ご注意ください。

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