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エアマジック・エンジェルズ  作者: 雨ヶ崎 創太郎
7/9

-7- エアマジック

「二人とも大丈夫か……?」

「「だ…い…じょ…ぶ」」


春真の質問に俺と菫は枯れた声で答えた。

 何か事情があると察してくれた春馬はそれ以上聞くことはなかったが、大分気にしている様子だった。


「お、おふたりさん!」


席に戻ろうとした瞬間、マヤたんが息を切らせながらのど飴を差し出した。


「ど、どうぞ!」

「「ありがとう」」


何の迷いもなくのど飴を口に入れた瞬間……俺と菫は同時に声を上げる。


「「スッッッパ!!」」


酸っぱい……喉が震えて痛いぐらい酸っぱい。

 だが、一度なめた瞬間声が元に戻った……おい、ここ現実だよな?!

 洪水のように流れ出る唾液を抑えながらマヤたんを見ると……


「【一発治癒のどクラッシュ!】すごく効きますよ!」


なんだそれ……治癒なのにクラッシュとか矛盾にもほどがある。


「それじゃあ……残り3時間頑張ろう。放課後が楽しみだ」

「のども治りましたし、万全な状態でごーです!」


あ、そうか……放課後部室に向かうって言ってたな。

 今日から本格的に始まるエアマジック部……やっとスタートラインだ。

 とりあえずは俺が持っている知識が正しいか確認すると同時にこれからやってくる新たなイベントの備え……だな。

 ここからのミスはイベントミスに直結する。同じ失敗をしないように注意しないと……


※※※


授業中、ノートにエアマジックの知識を書いて確認した。

 自分が知っている一般常識はこれが全て、裏技とかは今出したらダメ、確実にイベントがバグってしまう。

 俺はそれでなくともバグを引き起こす原因、これ以上厄介事を持ち込むのは抑制するべきだ。

 とりあえず今一番引っかかってるのは……俺の能力だな、エアの変形は完全じゃあない。

 長所を伸ばすのも大切だが、今は必要なのは安定……通常技術を高めた方が断然戦力になる。

 体力も平均より下で、無理ができない体……ただの足手まといだ。

 ふう、頑張って運動しないと……今からならみんなに十分追いつける。


「それではここまでにします。宿題は次までには提出するように。委員長」

「起立」


いつの間にか授業が終わり、俺は慌てながら立つ。


「礼」

『ありがとうございました』


挨拶が終わるとちょうどチャイムが鳴り始める。

 皆は順番で後ろに机を待って行く……その光景を片隅で眺めていると……『本当、高校生だな』と思う。


「創くん、手が止まってるよ」


目の前にホウキが現れとっさに両手で掴む。

 するとその先には菫が頬を膨らませて立っていた。


「あ、ご、ごめん……」

「具合悪いの?」

「い、いや……大丈夫。ちょっと考え事してたから……うん」

「そうなんだ。ならいいけど……掃除はちゃんとしてね」

「は、はい……」


正直気になることは多いけど、今この時間は本物だと信じよう、そう信じたい。

 もし、これが夢だとしても……全力で夢を見たい。


※※※


放課後、出た宿題の話や、他愛のない会話をしながら、俺を含めて4人で部室へ向かう。

 部室自体はそんなに大きくなく、教室の半分ほどの面積に黒板とかロッカーが数台配置されている。他の道具は一切なし、活動拠点がここってわけじゃあないので物は最小限だ。


「よう!来たか来たか!」


相変わらずハイテンションな部長を軽く無視して用意されていた椅子に腰かける。


「む、無視だと?!」

「まあ…部長、とりあえず花島さんは初心者なわけだから早く説明してあげた方がいいですよ」

「部長!いつもの分かりやすい説明お願いします!わたしも復習します!」

「よろしくお願いします」


とりあえず3人の説得で落ち着いた部長は咳払いしながら黒板の前に立つ。


「よし、これからエアマジック基礎講座を始める。質問がある人はいつでも手を上げていいぞ!スリーサイズ以外は何でも答える!」


何で男のスリーサイズを聞かないといけないんだ。バストとかないだろう。

 何だか調子が狂い始めて方だが、その後部長は真剣な表情で黒板に筆記する。


「さてさて、まずエアマジックとは?そうだな……春真!」

「発祥地はアメリカ、ハンドボール元にして科学と融合した競技として披露され、思わぬ反響を呼んだのが原点だ」


まあ、これも普通に知っている知識だな。完全一致している。


「本場はアメリカ……と思われがちだが、実は日本なんだ。まあ、漫画とかアニメとかが深く浸透しているからド派手なエアマジックは受けがよかったんだ。国も総力を挙げて誘致した結果…サッカー、野球に並ぶ競技になったんだ」

「おお、説明ありがとう!100点だ!」


部長から熱い拍手を受けた春真は恥ずかしそうに頭をかく。

 さて……次はルールとかだな。


「さてさて、次はエアマジックのルールを説明する。アタッカーとシールダーが1名ずつ1チームで2対2の対戦、ボールはご存知のとおりエア。相手ゴールにボールを得点を得る。最大3セット行い、終了時点でセットを多く勝ち取った方が勝利。そして!アタッカーはエアの形状を変えることができ、シールダーは特殊な防壁を作ることができる。これが、基本ルールだ」


ざっくりと説明が終わり、菫は黒板に書かれたルールをノートに書く。


「うんうん!花島さんはすっごく聞いてくれている感じがして嬉しい!」

「あはは……私忘れっぽいので」

「大丈夫です!わたしもですから!」


マヤたんの場合は直感で理解するタイプだから、暗記は苦手なのだろう。


「それじゃあここからは前回の競技では適用されなかったエアマジックのルールを説明しよう」


そういうと部長はポケットから4つの絵が刻まれたコインを取り出した。


「これが、エアマジックのド派手な演出を支えている道具、【アイテム】だ」


スティック、クロス、カード、コイン…それぞれの絵が刻まれたアイテムは全てマジシャンがよく使うマジックの道具。

 プロのエアマジック選手は【マジシャン】と呼ばれ、公式戦は【ショー】と呼ばれる。

 その理由は全てこのアイテムにある。


「まあ、原理を説明すると色々ややこしいからパスするとして……このアイテムは施設が整っていないと使用不可だが…これを競技会場で使用すると!なんとこんな感じになります!!」


部長はくるくると周りながらリモコンのボタンを押す。

 すると、一角に置かれたテレビにエアマジックの試合が映し出される。

 火花が散ったり、氷で行先が塞がれたりと、魔法のような派手さ。

 そう、これがマジックと呼ばれる理由……ステージの上で4人のマジシャンが自分の技を披露しているような光景、多くの人がこの景色に魅了され選手の道へ踏み出している。


「す、すごい……」

「「そうだろう!」」


部長はともかく春真まで興奮すんな。

 はあ……でも、仕方ない部分はある。春真はあの景色を夢にまで見る一人だ。

 自分と同じあの景色に魅了される人が増えるのは純粋に嬉しいだろう。

 実を言うと……俺もあの映像をPVで見てゲームを購入したから……似たようなものだ。


「魔法みたいです……」

「だろう?花島さんも頑張ったらできるはずだ!」


ヒロインは全員アタッカー枠...春真がシールダー枠であるからそういうことだが...

 菫はヒロインの中でもかなり優秀なアタッカーだった気がする。


「競技場に向かう前に軽く説明する。【スティック】攻撃タイプのアイテムで若干なら相手に打撃と痛みを与えることができる。【クロス】防御タイプで主にスティックの攻撃を防ぐ。【カード】これは……まあ特殊だから説明はあとにしよう。【コイン】これは人によって機能が違う、いわゆる個性だな」


それぞれのアイテムを観察し、メモをとる菫。

 メモを取り終えると、春真は表に羽の生えた靴が描かれているコインを差し出す。


「これが俺のコインだ。能力は神速すっごく早くなる」

「部長さんは…?」

「俺は……回復だ。止まったら体力を回復する」


春真の能力はアクティブタイプ...コインの能力を使用する際に発動を意識するが、部長のようなパッシブタイプは特に意識せずとも効果を発揮することが出来る。

 春真はかなりシンプルで使いやすいが、部長は...競技中に止まることはほとんどない。まあ、気休めにはなるが、得ではない。


「井波さんは?」

「わたしはまだコイン触ったことないです」

「ははは、コインは注文が難しいアイテムだから……身分証明書を持ってこいって言ってるのに井波は毎回忘れてるよな?」

「あ!そうでした!」


何ともマヤたんらしい……そう言えばこんな事件もあったっけ、これも主人公が修正して小数点程度の好感度を得るプチイベントだ。

 時期的に終わっていてもおかしくないと思ったが、例え小数点だとしても今は喉から手が出るほどほしい。


「井波さん……ちょっと手出して」

「胸じゃあないんですか?」

「……」


マヤたんの中で俺は一体どういうイメージ何だろう。分からないけど、そのイメージは全力で壊したい。

 と、俺が呆れている間春真がマヤたんの後ろに立ち手を強制的に出させる。


「……」


俺は油性ペンでマヤたんの両手の平、甲に【身分証明書持参】と書いた。


「これなら忘れないと思う」

「おお!完璧です!」

「若干やりすぎだと思うが……」

「いやいや、そろそろ持ってきてもらわないと困る、よくやった創!」


これで一件落着………って、あれ?


「部長さん、井波さんもってことは……私たちも身分証明書必要ですよね?」

「うん、保険証とかのコピーが望ましい」


俺、身分証明書とかあるのか?これはサヤに聞いてみるしかないな。

 多分あるとは思うけど、正直この世界での俺の立ち位置がよく分からない。

 親は……多分いないことになっているだろうし、その場合どうやってあんないい家に一人で住んでいて、生活費が困らないのかについての弁明が必要になる……ややこしいな。近々考えておこう。


「まあ、二人は井波みたいに忘れないことを期待する」

「「は…はい」」


流石に忘れないと思うが、一応メモしておこう。

 これで一通り基礎説明が終わった。やはり次は実戦だろうか?

 外から見ると簡単に見えたが、実際やってみると手も足も出ない。

 春真に勝てたのは奇跡中の奇跡、だが……これからその奇跡を起こし続けないとマヤたん攻略は不可能だ。


「よし、これから体育館に移動しよう。井波、春真は自分の装備持ってきて」

「「はい!」」

「そして、花島さんは俺と一緒に訓練用の装備を取りに行こう」

「はい」

「え……俺は……」

「創は……うん、ちょっと難しいところがあってね……うん……ちょっと体育館で待機してもらえる?」

「は、はい……」


何で俺だけのけ者なんだ……?確かにケガしてるし、運動は当分控えるように言われてるけど……

 あれ……?そう言えば何で俺ケガしてるんだ?

 心停止はまあ、精神的なことだから理解できるにせよ手の軽い火傷みたいな傷は何なんだ?

 疑問を抱えながらも先に体育館に到着すると、バレーボールを練習していた部員の一人が俺を見てボールを落とす。

 おい、いくら何でもその反応は傷つくぞ。ため息をつきながら体育館の一角に腰かける。

 あ――なんか嫌なこと思い出しそう、元の世界でも俺はこうして一人で座っていた。

 位置も絶妙に似ている……ステージの左下の隅、壁を背にして体育座りで微妙に体が震えている。

 今何が怖いのか……何も怖がることなんてない。でも怖いんだ。全てが。

 トラウマってそういうものだと思う別にその状況と完全に一致せずとも、似た状況、思いだした時、その他様々な状況で自分を不安にさせる。

 人間が進化の途中で覚えた自己防衛らしいが……それはるか昔、石の槍を手に猛獣と戦っていた時代の話、現代社会ではただの足手まとい。

 この傷は一生消えない、ずっと抱えて歩かないといけない。でも……やっぱり一人で歩くのは無理がある。


「大丈夫か?」

「……」


顔を上げるとそこにはイケメンがいた。

 青い髪……俺の汚い白髪とは違い見るものをすがすがしい気分にさせる色に少し嫉妬を覚える。

 同性に全く興味がない……ってか、軽くトラウマを抱えているので逆に恐怖が増すだけ……


「大丈夫……」


なのに……何故かもう怖くない。

 怒りで恐怖を忘れているのだろうか?まあ、どっちでもいい……こいつに励まされるとは……腑に落ちないけどとりあえず。


「ありがとう」

「えっ……俺なんかしたか?」

「何も……」


春真が差し出した手を掴み立ち上がる。

 すると、春馬はニッコリ笑いながら俺の手を引っ張った。


「手、大丈夫か?」

「ビリっとするけど、我慢できないほどじゃあない」

「そうか。意外と丈夫なんだな……流石安全は徹底しているってことか」

「は…?」

「あ、これも覚えてないのか……実はお前がつけていた訓練用の装備が爆発したんだ」

「は……あ?」


爆発?何だよそれ、聞いたことない。ってか聞いても理解できない。

 爆発してこれで済むとかありえない話だがどうやら冗談でもないらしい。


「多分だけどな、エアの装備って色々と体内情報を得ているから……創が一瞬ありえないほど心拍数が上がって、膨大な量のデータが一気に集ったから訓練用の装備のスペックじゃあ許容できず、オーバーヒートして爆発ってことじゃあないか?って話になってる」


なるほど……やはりここは現実、ゲームの中みたいにその辺の設定を省くことはではない。

 そうか……エアの装備はそこまで精密な機械って設定になっているのか、これは一つ大きな学びだ。

 そんな精密な機械がスポーツ用品として存在するこの世界はかなり科学レベルが高く設定されているはず。元の世界とどのくらい違うのかは分からないけど、あとでサヤに聞いておこう。

 本当……ここまでなるとサヤの後ろにいる団体?が余計に気になる。聞いても絶対答えてくれないはずだけど。


「……え?ってことは俺がつけてたのって……壊れたのか?」

「ああ、でも大丈夫だ。部長も壊れたことに対しては気にしてなかったから」

「でも……」

「春真の言うとおり、弁償とかはいいぞ」


いきなり後ろから肩を捕まれる。

 振り向くとニコニコと笑ってこちらを見ている部長……表情がとても明るい、本当気にしていない様子だけど……逆に少しは気にしてほしい。


「どうせ安物の古い品だったからな、そろそろ廃棄とか考えてたし」

「そう……ですか?」

「ああ、弁償する金があるならそれで自分に合う装備を買うことだな。特注とかになったら金額跳ね上がるぞ...」


既製品で合わなければ特注って感じか...身体には個々人の差は大きいだろうし、そういうことも十分ありえるか。


「さてさて、女子たちは着替え中だし、この間に創のポジション希望を聞いておこうか」

「あ……はい」

「もちろん……」

「当然……」


まあ、これからの展開を踏まえて考えた。

 その答えは……


「「アタッカーだよな?」」「シールダーです」


ポジションを決めるって言ってもそれは一度決めたら変えられないとかではない。

 プロになると、絞ったポジション以外をすることはない…一つの刀を完成させるように。っと言っても違うポジションで試合が出来ないわけではない。

 つまり、シールダーというポジションは言葉のみ…ヒロインは全員アタッカーなんだ。

 今後のイベントのためにもシールダーして鍛える必要がある。


「た、確かに創はシールダーもいいと思うが……」

「勿体ないな...せっかくエアを変形できるのに」


 エアを変形させられる特性はかなり強いが…ヒロイン攻略のためにはシールダーに属する必要がある。

 アタッカーであるヒロインを守るイベントが多いのだ。


「当分は体力作りに専念します。春馬はシールダーですし学べることも多いかと」


2人はアタッカーとしての才能がある俺がシールダーを選択するのに不満げだが...納得してもらうしかないだろう。


「わかった。創の希望だし仕方ないか」

「ありがとうございます」

「それがいいな。もしきついと思ったらアタッカー一つになるのも手だ。せっかくの才能だ。俺も見たかった景色を間近でみてみたい」


春馬はアタッカー志望だったが、その辺の才能が全くなかったのでシールダーになることを決意した。

 まあ、それで全国3位まで登った強者だが……ほんと、勝ったのは奇跡だ。


「しばらくは軽くストレッチするぐらいで、お医者さんの判断に従って無理したらダメだからな」

「はい」

「俺は理屈とかじゃあないからよく説明できないが、実戦は任せておけ」

「「ありがとう、脳筋」」


部長と一緒に言うと春馬は何だが嬉しそうに親指を上げた。

 何だこいつ、Mなのか?

 と、男子会が終わりを告げたのは女子二人の入場した。

 マヤたんと菫が楽しそうに話ながらこちらー向かってくる。


「楽しそうだなー」

「あはは、部長たちについて話していたんですよ」

「うんうん、創くん馴染めてよかったなーって」


まあ、部長や春真に対しての好感度は自分の中でかなり上がった方だ。

 ってか……別に俺は春真を妬んでいるわけで嫌っているわけじゃあない。……自分で言って少し変だが、とりあえず嫌ってはいない。

 もちろん主人公って立場にたっているこいつは嫌いだ。

 でも……まあ、普通に部員としては嫌いではない。


「昨日の敵は今日の友だからな」

「……」

「あれ……?」

「…?あ、俺か…?」

「ひどいな!まだ気にしてるのか?!」

「いや別に……」

「ならさっきの沈黙は何なんだ?!」

「ボーっとしてただけだ……」


あーあー……厄介なバグだな、本当どうにかしないといけない。

 悩むことが多くて困る……でも……嫌いじゃあないな。


※※※


部活が終わり家に戻ると、サヤが無言で俺をリビングに案内する。


「これが保険証のコピーになります。あと、携帯電話と、装備購入費用、お小遣いです」

「えっちょっ、ちょっと待て」


何で色々用意されているんだよ……まだ何も言ってないぞ。


「何ですか、その言ってもないのに用意してるのがおかしいと言わんばかりの目は」

「まさにそのとおりだよ...」

「私もあの場に居ましたから把握しています。何か不都合でも?」

「どこにいたんだよ」

「あなたの後ろですが」

「ストーカーかよ!全然気づかなかったぞ!」

「姿消してますから当たり前ですよ」


最近こいつボケが激しくないか?

 遊ばれているのか……どっちでもいい、まあ用意してくれたなら説明の手間がはぶけて助かる。

 よし、この際だ。ずっと疑問に思っていたことを聞いておこう。


「なあ、サヤ。お前って何者なんだ?」

「何者ですか……ふん、遅いですねその質問」

「答えてくれないって思ってたんだよ」

「決めつけはよくないですね」

「……で、何者だ?」

「教える義務がありません」

「さっきの言葉は何なんだよ!」


全力で突っ込みを入れると、サヤは「ふっ」と鼻笑いする。

 こいつ腹立つ!!


「まあ、少しは知っておいた方がいいですね。いいでしょう。教えます」


そういうとサヤは俺に座るように勧め自分は向かい側に座りポケットから淹れたてのコーヒーを取り出す。

 ああ、もう考えるのやめよう。


「まず私は人間ではありません」

「だろうな」

「では、何だと思いますか?」

「……悪魔」

「何ですか、私が残虐非道のように聞こえますね」

「胸に手当ててもう一回言ってみろ!」


サヤは自分の胸に手を当てて目をつぶる。

 そして……


「何ですか、私が残虐非道のように聞こえますね」

「またかよ!もういい、次に進めてくれ」

「そうですか、まあ、悪魔ではありません。私はそうですね……幽霊に近い存在です」


幽霊ってこんな万能なのか……?

 と、半分呆れているとサヤは追加で説明する。


「幽霊に近い存在です。幽霊ではないですよ。まあ…簡単に言うと私は死人です」

「死んでるってことか…?何で……」

「前味わったはずですが?」

「多過ぎて覚えてな………あ」


そう言えば最後に強烈なのを食らったな。

 餓死……つまり餓えて死んだってことか…詳しく聞きたいが、サヤがその暇を与えず。


「で、私が所属してする機関は世界を管理している神のような組織です。私はその中の下っ端です」

「ふーん、で?その神のような機関の下っ端さんが何の為にこの世界を作ったんだ?」

「上司からの命令です。機関は様々な社会問題に取り組んでいて、その中のヒキコモリザ・ゴミニートの部門であなたが選ばれたのでこの世界を作りました。【整った環境ならヒキコモリザ・ゴミニートはどうなるのか?】が研究テーマです」


何だよそれ、まるで人をモルモットみたいに扱って…………ってあれ…?


「おい、じゃあ研究が終わればこの世界はなくなるってことか?!」

「いえ、今言ったこと全部嘘なんでそんなことはないです」

「よくそんなスラスラと嘘つけたな」


まともに教えてくれる気がないってことはよくわかった。

 でも、サヤは何かしら超人的な存在で...何かの目的があってこの世界を作って俺を転生させた。

 実験とか研究とかもあながち間違いではないのかもしれない。


「何ですか、そのありえないことでも聞いたような目は」

「正解だ、ニャルラトホテプ」

「失礼ですね、あそこまでグロくないです」


あそこまでって...正体をみたら軽く精神に異常をきたす存在ではあるのか?


「まあ、とりあえず話せるのはここまでです。これからもよろしくお願いします」

「わかった...」


詮索するなと言わんばかりに話を切り上げるサヤ。

 謎は多いが今後も強力してくれるなら文句をいうことはやめようと思った。

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