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エアマジック・エンジェルズ  作者: 雨ヶ崎 創太郎
第1章 理想郷
14/15

-13.5- 思い

サヤがいなくなって今日で3日目。

 1日目までは見えないだけだと思っていたが、どうやら本当にいないらしい。

 変な気分だな……いつもいる人が居ないって。


「はい、タクミ今日のお弁当ですよ」

「……」


今日もコンビニ弁当じゃあない。

 しかも3段重ね……スターニアさんは料理が好きらしく、サヤと違ってかなり丹精込めて作ってくれる。

 正直嬉しいが...なんというか...

 

「どうかされました?」

「い、いええ……行ってきます」


スターニアさんは基本的に家にいる。

 サヤは正式なガイドだから付き添うが、スターニアさんは過剰に関わることはダメらしい。

 しかもサヤみたいに透明化もできないそうなので「そっと見守りますよ?」という提案を断った。

 あの恰好でそっと見守りは無理だろう。


「あ、そうでした。タクミ、親善試合が近いですけど、何か手伝うことはないですか?」

「手伝うこと…?」

「はい、例えばずっと体力を回復してあげるとか……」


そういえば前一回だけしてもらったな。

 でも、それ以降は「私あまり関われないので」と断れっていたが……スターニアさんはできるんだ。


「いいえ、いりません。スターニアさんの力を借りるのは...違うので。俺は自分の力でやってみます」

「そうですか。ふふふ、サヤが言ったとおりですね。もし力を借りると言ったらぶっ飛ばしておけって言われてたんです」


あいつ……帰ったら覚えておけよ。


「そ、それじゃあ……」

「はい、いってらっしゃい」


いつもの厳しい口調でなく柔らかい笑顔と声で見送りされる。

 なんか...ほんとに調子が狂う。


※※※


「サヤ、定時連絡です」


創が学校に行っている間、家で待機しているスターニアは携帯を片手に取り、液晶パネルに膨大に表示されているデータを確認していた。


『そちらに何か動きはないですか?』

「いえ、特には。頼まれたデータも確認していますが...そうですね」


スターニアは手を止めると、いくつかのデータをサヤに送信した。


「やはり気になるのは菫さんと和さんのデータでしょうか。改ざんされた痕跡はないですが、明らかに存在しない数値があります」

『それは創がこの世界に降り立った影響と考えるのは?』

「シミュレーション結果では12.7%の確率で起こりうる現象です...正直どちらでも言い訳が出来るかと」

『トリガーが創と言われれば言い逃れされそうではありますね』


電話越しでもサヤが難しそうな顔をしていることを知ったスターニア。

 彼女の願いを叶えてあげたい...そう心から思っている彼女だからこそ、自分が出来ることの少なさに心を痛めている。


「引き続きチェックは続けます。何か気づいたことがあれば連絡しますので」

『お願いします。邪魔してこない人達ではないので...絶対何かあるはずです』


サヤ、スターニアが懸念している自分たち以外の勢力がこの世界に干渉している疑惑。

 それは彼女たちにとって最も恐れるべき事態である。


「尻尾を隠すのはお手の物ですから...中々痕跡は見つけられませんが、焦っているのは確かです」

『でしょうね...そしてこのタイミングで私が呼び出されるのもそうでしょう』

「こちらも十分気を付けます。何があっても創さんだけは...」

『頼みました。ではまた定時に』


電話を終えると、スターニアは席を立ちカーテンを開ける。

 視線の先には青泉高校があり、スターニアには創が授業を受けている姿が見えていた。


「サヤ...私はあなたの大切なものを必ず守りますよ」


拳を強く握りしめ、決意を言葉にするスターニア。

 その後ろではテレビにニュース速報が写っている。


『昨夜、青崎高校で窓ガラスが割られているのが発見され、今朝から警察が周辺捜査をしています。なお、校内から盗まれたものはなく、誰かが侵入した形跡もないそうです――』


※※※


夕食時になり、創が帰ってくる頃に作業を中断し料理を作るスターニア。

 玄関の鍵が開いてリビングにタクミが入ってくると、火を止めて近づく。


「おかえりなさい。お風呂も沸いてますよ」

「あ、うん...スターニアさん。訓練所使いたいんだけど」

「分かりましたいつもの部屋につなげておきますね」


訓練所...それはサヤと特訓した時からある特定の部屋に入ると繋がるようになっている場所。

 ゲームでも自主練習できる機能があるため、一応特典として創に与えられている。

 親善試合が明日に迫っている中、タクミは気合を入れて練習に励んでいる。

 訓練所と現実との時間をギリギリまで延長させ、帰宅後夕食を食べるまでみっちりと練習...

 多少の無茶は目をつむるように言われているスターニアは何も言わず創の意思を尊重している。


「いつもどおり利用時間は現実時間で2時間。時間になった呼びにいきますので」

「ありがとう。行ってきます」


サヤと過ごしている間もずっとこの調子だと聞くが...正直体力が持つか心配なところ。

 千里眼で覗いた時に創はサヤからもらったトレーニングメニューを確認して適度に休憩をしているのは把握出来ている。

 スターニアにとってサヤはかけがえのない友人...その友人が全てを捧げる大切な存在がどんな人なのかずっと興味はあった。


「ふふ...あなたが居ないのにずっとあなたと過ごしている気分です。サヤ」


創が訓練所に入った後、夕食の準備を一通り終えたスターニアは謎の端末を開いてデータの確認を開始する。

 この世界はエアマジック・エンジェルズの世界を現実として再現した。

 その際不足部分はゲームに違和感がないように設定を追加している。

 もし改変される余地があるとすればその部分...スターニアはデータを全て確認し、改変されている可能性を探っている。


「キュイ」


データを確認しているスターニアの足元に突然真っ白いウサギが現れる。

 スターニアはウサギを抱きかかえると、頭を撫でながら笑う。


「おかえりなさい。報告をお願いします」

「キュイ」


ウサギはゆっくり目を閉じて額をスターニアと重ねる。

 しばらくした後、スターニアは気難しい表情をしつつウサギを床に放した。


「ありがとうございます。引き続き調査を」

「キュイ」


ウサギはスターニアの命令を聞いてぴょんとひとっ飛びすると忽然と姿を消した。

 少し頭を抱えてため息をつくスターニア...彼女がふと顔を上げると、そこにはタオルを持って驚いている創の姿があった。


「あら、創さん何かございました?」

「いや水持ってくるの忘れてたから...ってさっきのウサギなんだよ?!」

「見られてしまいましたが...簡単にいうと私の部下です」

「部下...?」

「ええ、式神とか使い魔とか...そういう類だと思って頂ければ」

「あんたも何でもありなんだな...」


呆れつつも創は冷蔵庫からスポーツドリンクを取って再び訓練所に向かう。

 その途中、ふと足を止めてスターニアを見つめると――


「あんま無理しないでくださいね」


その言葉にスターニアは自分の表情が曇っていたことに気づいた。

 妙なことだ...サヤにかけられた最初の言葉と重なってしまう。


「はい、創さんも無理は禁物ですよ」


親善試合は明日...使い魔からの情報では相手高校に侵入した痕跡は見つけられなかった。

 後手にまわるしかない現状でも出来ることはある...改めて決意を固めたスターニアは両手を合わせて祈りを捧げた。

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