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エアマジック・エンジェルズ  作者: 雨ヶ崎 創太郎
第1章 理想郷
11/15

-11- 戦い方

「狂化ですか?」


家に戻り、新しく追加されたステータスについてサヤに質問する。

 するとサヤは包丁をぐるっと回し、魚を両断する。

 その包丁の使い方はどうみても危ないだろう。


「ああ、それ固有ステータスですよ。あなたの装備にだけついている特性です」

「は?それいいのかよ……」

「はい、狂化って単純に強くなると思われがちですが……実際そのステータスは着用者の異常値をまとめて現しているだけですから」

「は?!」


それが上がったってことは俺が狂ってるってことかよ!ふざけるな!理性は至って健在だ!


「いい方が少し悪かったですね。まあ、ざっくりいうと脈拍とか呼吸...など正常値から離れる程上がるという仕様です。ざっくりというと興奮し過ぎということですね」

「興奮度……?あ…」


そういえば俺の装備は元々脈が早い人の為に作られたものだって言ってたな。

 そうか……それを見て自分で調整しろってことか。


「分かった……なんとなく必要な機能なのは分かった」


でも何で名前が狂化なんだよ!厨二か!


「で、どうでした?今日はアイテムを発現できました?」

「全く、煙はでるけど火はつかないって感じだ」

「そうですか……前から思っていたのですが、まあ、言ってあげましょう」


なんだ……まさか、前言った【今後に大きく影響する何か】のことか?

 あんなに沈黙を続けてたのに……何で今さら…


「あなた、出力が強すぎるんですよ」

「は?」

「ですから、スティックに合わせた調整をしてください。あなたはかなりの出力がありますから、スティックが受け入れ切れないんですよ」


何を言うかと思えば……でも肝に刻むべき言葉だな、出力が強すぎる……か。

 今まで力入れればなんとかなるもんだと思っていたが、そうでもないらしい。

 明日からはいろんな方法を試すしかないか……自分に一番合うアイテムの使い方(伝え方)。


「なあ、サヤ」

「はい?」

「お前ならアイテムとか、エアとかどう扱う?」

「そうですね……使う立場なら荒く、壊れるまでです」


こいつ、絶対パワハラ上司だ。


「何ですか、その私が悪い人みたいな目は」

「自分で考えろ。俺はもう疲れた」


でも一応の参考にはなったな。

 やっぱり人それぞれ扱い方が違う……明日朝練組と部長にも聞いてみるか。


※※※


夜が明け、朝早く家を出る。

 朝練組にゆっくり話聞きたいし……菫には悪いが一足早く学校の部室に向かった。


「失礼します――」

「お?」


俺より先に来て装備を調整していた春馬を発見、まあいい、こいつに先に聞くか。


「春馬、今いいか?」

「いいけど、今日は早いな。花島さんもか?」

「いや……菫は後から来る。今日はみんなに話を聞きたくってな」

「そうか、で、話ってなんだ?」

「前にも聞いたが……その……アイテムを使い方、春馬の場合を教えてくれ」

「ああー」


納得した表情の春馬は装備をサクッと調整して俺の前に立つ。

 そして、俺に練習用のボールを手渡す。


「まあ、一回体験した方がいいな」

「体験できるものなのか?」

「ああ、そうだ」

「……」


半信半疑だが、とりあえず春馬について体育館へ向かう。

 着いたあとは、春馬の指示通りフィールドの中に入って、ゴールの前に立つ。


「よし、それじゃあ3点取った方が勝ちな」

「は?ちょっ、俺装備ない――」


俺の言葉が終わるより早く春馬のシュートがゴールに炸裂する。

 おいおい……まじかよ。


「どうした!怖気づいたか!」

「……」


頭にきた。

 こいつ……こんな理不尽な試合をいきなり……くそ、やってやろうじゃないか!


と、威勢よく突進したはいいが、結果は3対0……俺の完敗だ。

 装備もつけてないのに勝てるはずがない、イライラしながら春馬に近づくと……


「どうだ?悔しいだろう」

「当たり前だ。こんな理不尽なこと突きつけやがって……」

「悪かったよ。で?今胸が熱くないか?」

「まあ……ちょっと腹立ってるから」

「そうか……まあ、俺はこの場合、なんか胸が熱くなるんだ。その感覚と似た感じでアイテムに伝えてる」


つまり…悔しさに似た熱量を伝える。

 それにしてはいつも、いつも驚くほど冷静だな……あくまで悔しいわけではなく、その熱さが似ているってことか。


「……熱さ、つまり熱意か」


俺には大分足りない物かもしれない。

 俺は……今まで何かに熱くなったことがない、そんな俺が急に春馬のような熱意を持つことはできない。

 でも、大分参考にはなったかな……


「ありがとう。それじゃあ、練習頑張れよ」

「ああ、これからどこ行くんだ?」

「井波さんに聞きに行く」

「それなら体育館の裏だな、朝練する前にそこでストレッチしてるって言ってたし」

「そうか……ありがとう」


体育館の裏……確か芝生の運動場になっていたはずだ。

 ゲームでマヤたんが毎回朝練に少し遅れる理由がわかったな。


体育館の裏、整理された芝が綺麗に広がる運動場。

 サッカー部の練習場所に指定されているが、時間外なら誰が使ってもいいことになっている。

 それもそうだ、こんな綺麗な芝生の運動場を独り占めとか……ずるいだろう。

 一角には木造の解放感溢れる休憩所があり、そこから眺める景色はこの学校の隠れ絶景スポットだ。

 サッカー部の練習場にしてはかなり広い運動場……その広大な眺めをマヤたんは微笑みながら見ていた。


「い、井波さん……」

「あ!創さん!どうしたのですか!」


俺を見たマヤたんはニコニコと笑いながら駆け寄ってくる。

 と、次の瞬間―-足がもつれたのかいきなり前に思いっきり転倒する。


「あぶっ!」

「い、井波さん?!」

「は、ははは…大丈夫ですよ!」


まるで何もなかったかのように立ち上がるそのポジティブさ……俺も見習たい。


「どうされました?」

「あ、そ、その……今日は話があって……いい?」

「はい!あそこのベンチに行きましょう!」


マヤたんはさっきまで自分がいた休憩所に俺を案内した。

 自然とマヤたんのとなりに座るが……中々いい。

 そうだ、俺の今の限界は隣に座るぐらい、この程度のイベントが俺はちょうどいい!

めちゃくちゃ幸せだ。罰があたりそう。


「それで、話ってなにですか?」

「あ……うん。その前にも聞いたけど……井波さんのアイテムの伝え方、教えてほしいんだ」

「伝え方ですか?うーん……そうですね。ビビッ――」

「できればそれ以外で詳しく……」


前回の説明では全く理解できなかったが、また聞いて理解できるはずもない。

 マヤたんには少し難しいと思うが、そこは頑張ってほしい。


「うーん……そうですね。私はただ魔法が使いたいだけです」

「魔法……?」

「昔、魔法少女のアニメが流行って……わたしもすっごく好きだったんですよ」

「へ、へえ……」


やばい、過去の話が絡んできた。

 さすがに全部話すとは思わないが……適当なところで切らないとフラグに影響する。

 ――――いや、待てよ。ここはゲームでは滅多に出てこない場所で、このイベントも元々無いものだ。

 ならば……この二人だけの秘密にすれば大丈夫じゃあないか?思わぬところでマヤたんの好感度を上げるチャンスが来たな。

 話には気をつけつつ、このまま進めよう。


「でも、何度も魔法を使おうとしても無理でした。でもわたしは魔法があると思います!絶対するはずです!………そう思っていたら、エアマジックに出会えました」


マヤたんは満面の笑み浮かべ俺の顔をひょこっと覗く。


「わたしはすっごく楽しいです。競技をしてる時もその気持ちで一杯です。創さんは真剣にやっていまいけど……わたしはもうちょっと楽しんでいいと思いますよ?」


楽しんでやる……確かに俺はずっとみんなに追いつかないといけない、その一心でやってきた。

 俺は……エアマジックを楽しんでいたか?分からない……だから俺は進めなかったのか?


「楽しむか……うん…そうだね」


春馬もそうだが、マヤたんも俺にはない物を持っている。

 それは今の俺が欲しがっても手に入らないもの、ならば俺は自分だけの感情を伝えなくてはいけない。

 それが何か……それは自分にしか分からない。


「菫さんとは上手くいってますか?」

「う、うん……なんとか」


正直よく分からない。

 俺は菫を信用しているが……菫はどうだろう。


「うーん……は!創さん創さん!いい方法がありますよ!」


曖昧な答えだったせいか、マヤたんは一つ案を考えてくれた。

 ありがたいが……何だろう、この不安感は………


「一緒にお風呂に入ればいいと思います!」

「……」


ツッコミも入れられねぇ……裸の付き合いってことか?

 いや…色々不味いだろう、相手女子ですよ?絶対にダメだろう。


「あ……でも色々ダメですね」


自分で気づいてくれたか……それはありがたい。


「それならわたしも一緒に!」

「悪化した?!」


何故その発想になった!他人がみると罵声と物理的な何かが飛んでくるぞ!


「え?ダメですか?」

「ダメに決まってる……菫も井波さんも女子なんだから……」

「うーん……何がダメですか?裸だからですか?」

「まあ……それが大きい」

「それじゃあ水着で!」

「ダメ……風紀的によくないから」


誰かさん(青泉さん)がみれば『ハレンチですわ!』とか言いそうだな。

 とにかく、この話を変えよう。


「井波さんこそ、春馬と上手くいってるの?」

「はい!」


迷い一つない笑みで答えるマヤたん。

 はあ……好感度はやっぱり春馬の方が断然高いな…これをどう逆転すればいいか……これから先少し不安になってきた。


「だって春馬と一緒にお風呂入りましたから!」


あ、それは昔ってことね…………あ、ちょっと待て、その事実を実際俺は知らないんだよな?

 マヤたんから何も聞かされてないし、ここはツッコミを入れよう。


「夢で?」

「いいえ!実際にです!」

「いやいや……………え、マジ?」

「はい!あれは確か5さ――あっ!」


ようやく気づいてくれたらしく、マヤたんは口を塞いで思いっきり言葉を飲み込んだ。


「うん?」

「い、いいえ!何でもないです!」

「そう……」


うん、これでいい。

 まだまだ早いイベントだ。発生させたらどんな不備があるか分からん。

 しかし……本人の口から直接言われると以外と腹立つものだな、春馬め……落雷でもくらいやがれ。


「お風呂に入る以外で腹割って話せる方法ってないかな?」

「えっと……一緒につり橋に行くとかですか?」


つり橋でちゃったよ。完全につり橋効果狙ってる……でもダメだろう。

 菫は肝が相当座っているからスカイダイビングで落下傘がないぐらいの事故じゃあないと同様しないだろうな。


「あ!」

「うん?」


マヤたんがいきなり立ち上がり、ニコニコと笑う。

…………悪い予感しかしない。


「菫さんの胸揉んでみたら――――」「するか!」


思わず全力でツッコミを入れた。

 もし本当の事故でも今度やったら切腹するわ!


「うん……難しいですね…女子は胸揉めるようになったら仲良しいですけど」

「性別違うから……」


マヤたんにまともな答えを求めるのは間違いだろうか……本人は真剣に考えてくれているのだろうが……発想が異次元過ぎてついていけない。

 はあ……でも、マヤたんと話して課題が増えたな。

 菫と呼吸を合わせる……それはアイテムを使うより大切なことかもしれない。


「俺も色々考えてみる……ありがとう井波さん」

「はい!またいつでもお話しましょう!」


俺の手をギュッと握って微笑むマヤたん。

 もう手を掴まれることにも大分慣れてきたな……菫のおかげだろうか。

 それとも……いや、俺に限ってないだろう。深く考えるのはやめよう。


マヤたんと別れた後、アイテムの練習をする為、装備を取りに部室へ向かっていると、後ろから強烈な視線を感じた。

 あ、そうだったな……まだ一人話を聞いていなかった。

 でもめんどいし、省略するか。


「おい!何故私を無視する!」


堪え切れなかったのか、いきなり部長が肩を掴んで俺を振り向かせる。

 はいはい……分かりましたよ。


「部長……部長のアイテム――」

「俺は熱い想いだ!心から湧き出る温泉のような熱い――」

「ありがとうございました」


頭を下げて部室のドアを掴む。

 だが……部長の手が俺の肩を離さない。


「聞いてくれ!お願いだ!!」

「いや……俺練習あるので、そっちの方に付き合ってくれませんか?」

「うう………」


いい歳して泣くなよ。ああ……どうしよう。


「分かりました……聞きますよ」

「ありがとう!」


嘘泣きかよ!演技上手いな!


「それでは俺の成り立ちから……」

「いや……何でそこからですか」

「うん?俺の武勇伝が聞きたいんだろう?」

「違います。忠犬に聞かせても寝ると思いますので止めてください」

「ぐはっ……そのずっしり来る言葉の刺!70点だな!」

「Mかよ!」


はあ……この人とまともな会話をしたことがあまりない。

 どうしよう。これ以上は時間の無駄な気がする。


「アイテムの使い方だったよな?個人差が激しいから俺からは何とも言えんが……とりあえず肩を力抜いてやってみたらどうだ?」


あれ……何でいきなり真面目部長になったんだ?


「あ、ありがとうございます……」

「先輩だからな!これぐらい当たり前だ!」


俺の肩を軽く叩いて体育館に向かう部長。

 なんだよ……結構カッコイイじゃあないか――――が、しかしふと後ろを振り向くと……テニス部の美人たちが汗を拭きながらこちらへ向かって歩いていた。

 好感度マイナスだこのエロ部長!!


※※※


朝練が終わり教室の自分の席に座る。

 菫はまだ……朝練組はシャワーを浴びに行っている。

 アイテムはまだ使えぬまま、対抗戦は間近に迫っているのに……このまま俺のエアマジック人生は終わるのか?


「ふ、古山さん」

「…?」


いきなりクラスの女子が俺を呼ぶ。

 普通に視線を向けると、分かりやすく視線をそらす。

 なんだよ……俺は何もしてないって。


「何……」

「あの人が古山さんを呼んでほしいって……」

「あ……」


女子が指さす先には青泉さんが立っていた。

 登校は早めなんだな…


「ありがとう……」


会釈をして青泉さんのところへ向かうと、青泉さんは軽く頭を下げた。


「あ、あの……先日はすみませんでしたの」

「いいよ……過ぎた事だし」

「で、でも……お、お気分相当害したと思いますわ……今も大分お暗い表情ですわ」

「いや……これは違うから。ただ悩み事。もちろん青泉さんとは関係ない」

「そう…ですの……」


かなり反省しているのか、完全に落ち込んでいて表情が暗い。

 しかも昨夜の苦悩の痕跡が目元にくっきりと残っている。こりゃあ徹夜したレベルだな。

 はあ……春馬のバグも解決してないのに、新たなバグができてしまった。

 どうにか……


「……青泉さん、時間ある?」


俺は学校が嫌いだった。

 もちろん青泉さんは嫌いでも好きでもないだろう。でも……こんな時の学校はとても辛い。

 環境に左右されるな……なんて、鉄人じゃあないと出来ない。

 俺は鉄人じゃあない、青泉さんだってそうだ。だから……


「ちょっと行きたいところがある。付き合ってくれ」


俺は青泉さんの手を掴んでそのまま歩きだした。

 青泉さんが色々パニックになっているが、とりあえず無視して歩く。

 ごめん……俺も大胆過ぎる行動で軽くフリーズしているから後でお願い。


俺と青泉さんは1時間目のチャイムが鳴った頃に目的地を到着した。

 携帯を取り出して春馬に【俺1時間目サボるからそう伝えて】と送った後に電源を切る。

 青泉さんの方はダメメイドにメールを送り、電源を切る。


「ふ、不良みたいですわ……」

「まあ……本当はいけないけど、何とかなる」


あのまま教室に戻っても辛いだけだろう。

 ここ、第7校舎の裏側の花畑でも見て落ち着くのが一番だ。

 しかし……この学校バカ広いな、ゲームより大きく感じるぞ?


「あ、あの…何故ここに……」


景色を眺めていると、後ろから小さな手がちょんちょんと背中を突く。

 ゆっくり振り向くと、青泉さんが怯えている子犬のようにおどおどしていた。


「青泉さんが暗い顔してたから……気分転換にって思って」

「わ、わたくしのために?そ、そんな……わたくしは……」


前に比べて声のトーンが全然違う……人って一夜にしてここまで落ち込むものなんだな。

 病む前にどうにか手を打ちたい。


「青泉さん、ここ座る?」

「は、はい…失礼しますわ」


ここは……一つ俺も嘘をつくか、大分心は痛むが…今はこれしか浮かばない。


「先日俺が青泉さんに会ったことがあるって言ったよね?」

「は、はい。わたくしはどうしても思い出せなくって……」

「いいよ……大分前だし、しかも直接挨拶したのはほんの数分だから。でも……俺はその数分が結構思い出として覚えてる」


平然と嘘がつけそうにないので俺は少し青泉さんから顔をそらす。

 あまり間が空かないように注意しながら呼吸を整えて……


「俺の両親……今はもういないけど、いた時には結構苦労したんだ」

「どのように……」

「まあ……俺の場合両親からの重すぎるプレッシャーと、イジメかな。それで崩れそうになった……いや、崩れた。結果はそうだけど……俺もまだ頑張ろうとした時があったから、その時なんだ。青泉さんに会ったのは」


そう……実際出会ったのは嘘だが。


「初めてみた時はただのお嬢様だと思ってたけど……俺よりも重いプレッシャーを背負ってるのに堂々と歩いているその姿に……自分が恥ずかしく見えたんだ。だから……俺は堂々としている青泉さんを見たい。あの時みたいにもう一度頑張りたいって思いたいから」


この想いは嘘じゃあない。

 俺は青泉さんをゲームで見て、一度は頑張る決心をした。

 まあ…結果は惨敗、再び引きこもりになっただけだが……今は違う。

 だから……ゲームで初めてみた時のような威勢を見せてほしい。


「俺も失敗する。同じ人間の青泉さんも失敗してもいいと思う」

「古山さん……」


あ……なんとか言いきった。恥ずかしい……穴があったら今すぐ入りたい。


「ありがとうございます。わたくし、少し元気が出ましたの!」


よかったです……本当、これで何もなかったら軽くトラウマだ。


「古山さんはお優しいのですね」

「……そんなことない」


俺が優しくするのは青泉さんがこれからのイベントに必要だから。

 いくら綺麗な言葉で飾っても根底にはそれがある。だから……俺は【優しい】って呼ばれる資格はない。

 俺は本物の優しさを知っているから……自分が優しくないことがよく分かる。

 所詮俺は自分のことしか考えられない偽善者だ。


「古山さん?」

「あ……何?」

「い、いええ、少しお顔を暗かったので」

「そう?」


あまり考えないようにしていたが、やっぱり思ってしまうな。

 こんな俺でマヤたんに似合うのか……って。

 先を知り、春馬からマヤたんを奪って……それでマヤたんは喜ぶのか?

 答えなんて……分からない。


「あ、そうでした……古山さん。いくつか報告がありますの」

「何?」

「まず、噂の件ですが新聞部は今日をもって廃部となりますわ。古山さんの件以外にもいくつかデマを流していたので。女性教師と生徒の恋愛報道とか……ホモ?がいるとか、生徒会を不正疑惑とか……」


ゲーム通りだからそれは構わないが……なんか結構えげつない噂流すな新聞部。


「それと……本当はこれ……お返ししようと思っていましたわ」


青泉さんの手には俺が渡した入部届があった。

内容は真っ白、何も書かれていない。


「ですが……さっきの古山さんの言葉で考え直しましたわ」


と、いきなりペンを取り出して入部届を作成し始める青泉さん。

 出来上がると、俺にそれを見せてニッコリ笑みを浮かべた。


「今日、両親の同意をもらって来ますので、一日待ってもらってもよろしいですか?あなたが一度憧れた姿、間近で見せて差し上げますわ!」


表情に明るさと気迫が戻ってる。

 一時はどうなるかと思ったが……上手くいってなによりだ。


2時間目のチャイムが鳴る前に校舎に戻る時、ふと立ち止まり青泉さんの背をみると――――後ろ姿からも気迫を感じるほど、堂々と歩いていた。

 それでこそ青泉さんだ……直接は伝えられないから心の中で刻むように想う、「ありがとう」って。

 そう想うと、青泉さんの小さな背中は誰よりも大きく感じた。


教室に戻ると、クラスの全員が俺に一度視線を向ける。

 なに……なんだよ。


「あぁぁ!!創!!」


視線に嫌気を覚えていると、春馬が俺の両肩を掴む。


「俺はお前を不良に育てた覚えはないぞ!」

「お前に育てにれた覚えもねぇよ」


何で俺がツッコミを……こいつ、どうしたんだ。


「お前がいなくって大変だったんだぞ」

「はい?何で……確かに迷惑かけたと思うけど……そんなに?」

「あれを見ろ」


春馬が視線を送る先にはカタカタと震え、姿勢を伸ばし、正しい椅子の座り方の模型みたいになっているマヤたんが見えた。


「ど、どうしたんだ……あれ」

「そりゃあもちろん――ひぃ!!」


いきなり春馬が女子みいたな悲鳴を上げて後ろに下がる。

 なんだ……後ろに何か……


「たーくーみくん。み・つ・け・た」


ゾッ。

 確かに肩は暖かい手が乗ったはずなのに……何故か全身が凍りつくように寒い。

 周りを見ると、全員視線をそらして怯えている。

 やばい……忘れてた……


「うんうん、5秒あげようかな?説明するのは十分だよね?」


説明じゃあなくって遺言になりそうなのは何故だろう。

 5秒って早すぎるだろう。ほぼ問答無用な気が……


「ご」

「ちょっと!」

「さん」


二秒飛んだ?!菫さん数飛んでる!!


「あ、青泉さんと一緒にいました!」

「……」


カウントが止まった……と、同時に肩に激痛を感じる。


「へーえー」


す、菫さん……め、目が死んでます……めちゃくちゃ怖いです。あと肩が粉々になりそうです。


「そ、その…朝訪ねてきた時に元気なかったから…俺のせいで落ち込んでると思って……」

「……はあ、本当、創くんは仕方ないな」


菫は手を離すと、俺をぐるりと回して両肩をがしっと掴む。


「でも、サボりはよくないよね?ね?」

「は、はい……」

「今回は許してあげるけど、次は私どうなるか分からないから……ね?」

「き、肝に銘じます……」


怖すぎる……手を離された瞬間、力が抜け後ろの席に座り込んだ。

 足が……ガタガタ震えて止まらない……菫ってこんなに怖かったっけ……あ、画面越しじゃあ怖さはあまり伝わらないか……


「でも、ちょっと悪い気持ちになっちゃうな……青泉さんってそんなに才能あるの?」

「い、いや……それは俺にも分からないけど……とにかく、部員は欲しくって」

「何でだ?今でも十分だろう」


おい、お前がそれ言ったらダメだろう。団体戦で泣いただろう!忘れたのか?!


「春馬……忘れたのか?高校生部門、団体戦の全国大会。出場資格は一校に3チームないといけないんだぞ」

「あ…そ、そうか!このままだと団体戦ができないんだった!」


まあ、本当の目的はそれではないが……

 高校生部門全国大会は団体戦と個人戦がある。

 個人戦は各地域の3位までの人が出場可能、団体戦はまた違う日に競技を行い、各地域3位までの高校が出れる。

 俺たちがそこまで行く道のりは…地区大会、県大会を勝ち抜かないと全国にはいけない。

ちなみにエアマジックは関西より関東の方が強い。

 ゲームでは王者は関東にいた……ゲームのシナリオライターが関東出身だったからそう書いたってインタビューで言ったけど、そのままなのか?


「なあ、春馬……王者って関東にいるよな?」

「ああ、関東はエアマジック強いからな……関西で強豪と言えば……この近くの青崎高校だな」


そこはゲームと一緒だな。

 と、なれば……近々練習試合イベントが発生する。

 対抗戦までにアイテムを使えるようにして…問題がさらに積もってきたが……とりあえずは。


「とにかく……青泉さんを誘ったのは団体戦に出る為が大きい。実力は……俺みたいに足を引っ張ることはないだろう」

「そんなことないぞ創」

「そうだよ、自責はダメ」


みんなにそう言われるが、その方が痛い。

 だって……未だにアイテムを使えない役立たずだし……


「創さん!創さんはエアを飛行機にしたんですから!絶対にできるはずです!」

「ああ、マヤの言うとおりだ。今日は気分転換にシールダーの練習をしてみないか?以外とそこから上手くいくかもしれないぞ?」

「焦らない、焦らない。こういうときほど回り道だよ?」


いつの間にかマヤたんまで加勢して俺を励ます。

 うっ……これ以上落ち込むわけにはいかないな、でも……何だか少し気持ちが軽くなった。


「ありがとう。頑張ってみる」


みんながいるなら諦めたりしない。そう決めたじゃあないか。

 俺はこの全員でエンディングを迎えるんだ。何があっても絶対に……


※※※


放課後、青泉さんが再び訪ねてきて見学を申し込んだ。

 もちろん俺は練習をしたいので対応はできないと説明し、部長に案内を任せた。

 なんかちょっとふくれ顔だったが、今日だけは無視しょう。


「で……春馬、シールダーの練習って言っても何をするんだ?」

「基本はバリアだ。前の試合の時にもみただろう?半透明な壁」

「ああ……あれってエアでしか破れないんだよな?」

「そう……だけど……まあ、菫さん並みの魔球じゃあないと難しいだろう。しかも俺はバリア苦手だからな……あんまり上手くない」


今のお前はな。

 後からは桁違いに強いバリアを張るが……まあそれはいい。


「まあ、イメージは簡単だ。そこに何かあると思えばいい」

「なるほど……」


イメージもしやすいな。

 これぐらいならさすがにできるだろう……


「そこに……何か……」


うん…?何だ……なんか手が微弱な振動に包まれた。


「お!!でき……た……な………」


春馬が俺の前を見ながら苦笑いする。

なんだよその微妙な反応は……できたならいい――


「小さっ!!」


俺の前には直径1cmほどの正方形が浮かんでいた。

 厚さは1mmほど……何だよこれ!何のやくにもたたねぇ!

 いや待てよ。最初はこんなものなのかもしれないぞ……これからだんだん大きく……


「春馬、最初はこんなもんだよな……?」

「い、いや……俺もそのサイズは初めてみた……これから大きくならかも分からない」


何だよ…それって…俺シールダーにも才能がないってことか?

 春馬が何て声をかけていいか分からないような表情をしている。

 多分何か励ましの言葉をかけてくれようとしているのだろうが……今はそれさえ激しく痛い。


「悪い春馬……ちょっと休ませてくれ」

「あ、お、おう……」


少し後ろで見守っていたマヤたんと菫も心配そうな表情を直視できず、目線をそらした。

 ごめん……今は一人になりたい。


休憩室のベンチにうずくまってため息をつく。

 アイテムは使えない、エアも変化できない……シールダーの才能もない。

 こんなの……こんなの!!


「ああぁ!!」


地面を思いっきり踏む。

 重い音とともに足が痺れるが、続けて踏む。

 痛いけど……腹が立ってこうしなくてはいけないと思ってしまう。

 上手くいかない……どうすればいいかもわからない。


『ピピ』


ステータス画面が勝手に表示され、狂化のとこが赤く点滅している。

 何だよ……興奮するなっていいたいのか?こういうところだけ上手く作られてるな。


「はあ………………落ち着け俺」


狂化の上がりを把握し、それをみると怒りが少し収まった。

 だが……ふと後ろを向いたところにサヤが注射器を持って立っていた。


「何してんだ」

「見ての通りですが?」

「俺は大丈夫だ。発作とかじゃあねぇよ」

「そうですか、でも物に八つ当たりはよんないですよ」

「分かってる……ちょっと興奮してた」


そう答えるとサヤは注射器を構え、首を傾げた。


「だから発作じゃあねぇよ!」

『ピピ』


お前のせいで狂化が上がったじゃあねぇかよ!

 はあ…もう落ち着こう。狂化がこれ以上上がると本当に発作が起こる。


「はあ……ふう……」

「どうですか?気分はましになりましたか?」

「ああ」

「それでは一つお話があります」

「ああ……」

「このままじゃあ、エアマジックを続けられません」


知ってる……それは俺が一番分かってる。

 アタッカーも、シールダーもダメ……基礎体力しかなく、筋力も強くない。

 春馬みたいなスピードがあるわけでもない、マヤたんみたいな柔軟さがあるわけでもない、菫みたいな魔球があるわけでもない………みんなみたいな……熱意があるわけでもない……

 全部ないんだ。俺には……何もない……。


「何落ち込んでいるんですか」

「うっせえ」

「泣いてますか?」

「うっせえ……」


悔しい……自分に何もないことが悔しい。

 みんなのようにエアマジックがしたい、みんなのように……楽しくやりたい。


「このままだとです。誰も金輪際とは言っていません」

「はあ……?」

「一つだけ断言します。あなたは酷く勘違いをしています」

「何だよ……」

「他の人が持っているものを求めてどうするんですか?あなたはあなたです。春馬さんでも、マヤさんでも、菫さんでも、青泉さんでもありません。いいですか?あなたは古山 創です。あなたはあなたにしかできないことがあるじゃあないですか」

「エアは……変化できなかった」

「あなたをたった一回失敗したぐらいで諦める人間に育てた覚えはありませんが?」


お前はいつから俺の親なんだよ。


「諦めるつもりはねぇよ……でも……どうすればいいか分からない。最近なんかモヤモヤしてるんだよ」

「え……溜まってますか?」

「それはムラムラだろうが!人の悩みはちゃんと聞け!」

『ピピ』


ああ!また上がった!こいつに乗せられるな...ほんとに。


「ふう……」

「大分自分で制御できるようになりましたね」

「ふん、もういい。戻って練習する」

「待ってください」


サヤは俺の行く手に現れ行先を塞ぐ。

 テレポートとか……お前本当に何でもありなんだな。


「モヤモヤしてるっていいましたよね?」

「そうだけど?」

「それかもしれませんよ。エアとアイテムが使えない理由」

「は?なんで――あ……」


忘れていた。

 エア、アイテム共に心を読み取る物、一番邪魔になるのは……悩み。

 ある選手は言っていた。【悩みはエアとの間に壁を作る】と。

 そうか……俺はずっと悩んでいた。だから……壁を作ってしまったのか。

 でも、俺は悩まずにはいられない……これからやることは山ほどあるし、それに……


「今の状態でいいのかって思ってしまうんだよ」

「はい?」

「俺は未来を知っている……どうなるのか全部……でも……そうやってマヤたんを奪い撮ってもマヤたんを幸せにできるのか?マヤたんは俺で幸せになってくれるのか?春馬は正々堂々とやってるのに…俺は卑怯者に見える」

「……」


サヤは黙り込むと、いきなり笑みを浮かべる。

 そして、俺の肩を叩いて……


「それは、自分で探すものです。でも、それで自分を卑怯者扱いするのは間違いだと思います」

「何でだ……」

「春馬さんだって十分卑怯じゃあないですか、マヤさんと幼馴染で何もしなくっても結ばれる運命……十分チートじゃあないですか」

「いや…でもそれは……」

「いいですか?他人のいい部分は氷山の一角です。いいと思っても裏にはその人なりの莫大な苦労があったりもします。それに、他人のいい部分を欲しがっても手に入らないですし、自分にだっていい部分があると見つける方がいいです」


サヤは言葉の途中から俺の後ろに周り肩を揉む。


「春馬さんだって苦労してマヤさんと友達になりました。あなたは全てを投げ捨ててこの世界に来ました。そして、あなたは今悩み頑張って未来を勝ち取ろうとしているんです。その結果が誰かを不幸にしたって、あなたは自分の幸せを望んだんでしょう?なら突き進んでください」


明るい声で俺を励ましながら、サヤは背中を押した。

 振り向く俺に親指を上げて花のように笑う。


「大丈夫です。あなたはできます。もう以前のあなたとは違いますから」


……こいつに優しくされると変な気分になる。

 ふう……ちょっと調子は狂うが、またやってやるか……できないなら、できるまでやるだけだ!もう立ち止まらないって決めたからな!


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