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エアマジック・エンジェルズ  作者: 雨ヶ崎 創太郎
第1章 理想郷
10/15

-10- 正義ですの!

大事なことを忘れていた。

 正確には俺にとってはさほど大事ではない。

 だが、今後のエアマジック部を考えるととてもとても大事なことだ。

 イベントが発生するまで待つだけだったので、正直クリアした気分で居たのが一番の要因。


「創さんボーっとしてますね」

「あ、ご、ごめん……何の話してた?」


ふと思い出してしまったので話を途切れさせたかもしれない。

 まずい、マヤたんの前で何をしてるんだ俺は!

 頬を軽く叩いて気合を入れ直した俺が周りを見るとと菫と春真の姿がない。


「あれ……?菫と春真は?」

「二人なら職員室にノート提出しに行きましたよ」

「あ、そ、そうなんだ……」


一体どこの時点からボーっとしていたのだろう……取り返しがつかないことをしてしまった。


「創さん創さん」

「な、なに……?」

「創さんはわたしのこと嫌いですか?」

「え……え?!」


顔色一つ変えずに疑問をぶつけるマヤたんの言葉に致命傷レベルの痛みが走る。

 今のボーっとしていた一瞬で嫌われた?!そんな、こんなことなんて――


「あ、す、すみません。とくに深い意味はないですよ?ただ……創さんってわたしと視線合わせませんし……あと、妙に緊張してますから」

「あ……そ、その………お、女の子に免疫がなくって……井波さんすごく綺麗だから…………つい肩に力が入って……」


ありのままの事実を伝えると、マヤたんは照れつつも嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「そ、そんな綺麗だなんてーへへへー。私は怖くないのでお話しましょう!せっかくの二人ですから!」

「そ、そうだね……」


よし!ラッキーな展開になってきたぞ、このチャンス掴まずにはいられない。

 ここで確実に好感度を上げる!


「創さんは一人暮らしですよね?大変じゃあないですか?」

「お、お手伝いさんみたいに人がいるから……だ、大丈夫」


鬼か悪魔(お手伝い)だが事実ではある...少し苦い顔をしつつ答えると、マヤたんは興味深々なのかぐいっと顔を近づける。


「おお!メイドさんですか?!」

「ち、違う……」

「メイドさんではないんですね...創さんから質問はないですか?わたし、何でも答えますよ!NGはなしです!」


これこそゲームみたいに選択肢が欲しくなる。

 何で現実には選択肢が出てこないんだ……いや、そんなの嘆いてても時間の無駄だ。

 何の質問にする……知ってることばかりだけど、ここはマヤたんの気を引く質問をしないといけない。

 趣味を聞くか?好きな物?家族構成?いやそれはまずいか……う、うん……


「か、髪綺麗だけど……特別な手入れとかしてるの?」


迷っている間ふと思いついて話題はマヤたんの綺麗な髪についてだった。

 教室の窓から降り注ぐ光を反射するほど艶やかな髪、その髪は綺麗な夕日のような真っ赤で、髪型はお気に入りのツインテール。

 前居た世界で【ツインテールが似合うヒロイン】の中で何度も1位を獲得しただけあって、気を抜くと口元が緩みそうだ。

 いつも元気いっぱいで本当太陽のようなマヤたん……綺麗で優しいその人柄にも惚れ、俺はこの世界にやってきたんだ。


「どうしたのですか?いきなりガッツポーズして」

「あ、そ、その……女の子に質問できたから……成長したな……って思って」

「もうー創さんはクマさんみたいで可愛いです!」


どこから出てきたクマさんですかそれは。


「うーん、特別な手入れはないですよ?お母さん似です」

「そ、そうなんだ……」


この質問、結構ギリギリのラインを行ってしまった。

 まだマヤたんの過去には触れてはいけない、表情から察するに全く気にしていない様子だが……念のため確認しようか。


「で、でも誰かに似てるって言われるの大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ?創さんは嫌いですか?」

「う、うん……俺は――両親はあまり好きじゃあないから」

「め!ですよ!両親そろっている時にちゃんとしないといけません!」

「まあ...うん。今はちょっとあれだけど」

「あ……す、すみません……」

「いや、大丈夫!亡くなったとかではないから!」


やばい、両方とも火傷を負ってしまった。

 確認するんじゃあなかった……ああ、もう!何でこんな時に選択ミスをやるんだ!何か楽しい話題に……


「創さん、わたしからもう一つ聞いてもいいですか?」

「あ、うん……いいよ」

「創さん髪が白ですけど……もしかして染めてます?」

「いや、ただのしらがなんだ。昔色々あって……元は黒だったんだけど……」

「そ、そうですか……」

「汚い髪でしょう…?よく言われてたから……」


容姿のことで悩んだことはもう数え切れないほどある。

 染めるにも手遅れだ。こんな一面白では染めた方が目立つ。

 実験用のマウスとか言われて色々されたな、それこそ実験のように。

 その度のしらがが増え、ある日起きるとこんな薄汚い灰色のような白髪になっていた。

 今までみんなが聞いてこないのが不思議でならなかったが……そこも気を遣ってくれていたのだろう。

 でも……この髪に羞恥心を覚えるのは止められない。


「そんなことないですぅ!えっと……は!白鳥さんみたいです!」

「白鳥の方が白だと思うけど……」

「え、えっと……それじゃあ真珠みたいです!」

「真珠って白なの?」

「あ、えっと……」


あ、つい面白くっていじってしまった。

 いけないいけない、これぐらいにして……


「うう、わたし頭悪いですから比喩とかできませんけど……それでも創さんの髪は汚くないです!白髪はいっぱい考えている人がなるってどっかで聞きました!創さんもいっぱい考えて頑張っている証拠ですからそれが汚いわけないですぅ!」


さっきも必死に綺麗な物に例えてくれたマヤたん。

 彼女はきっと俺を綺麗だと思ってくれているんだろう。

 実際がどうであれ、マヤたんは俺のことを真っ直ぐみてくれている。

 ゲームの時も今でも、だから俺は―――


「ありがとう…………」


泣かない、泣くのは恥ずかしくないけど……マヤたんの前であまり涙を見せたくない。


「ちゃんと伝わったですか?」

「うん、しっかり」


俺なりに精一杯笑ってみせたが、不器用な笑顔で俺の感謝は伝わっているだろうか?

 最近色々と心が揺れていたが……やっぱり俺が好きなのは……


「失礼しますわ!」


いい感じの雰囲気を破って教室に入ってくる問題イベント。

 またかですわ!お嬢様!何でお前はいい雰囲気とかいいタイミングを毎回壊すんだ!

 怒りを視線に乗せながらですわ!を睨むとですわ!もまた俺を睨んできた。


「ほお、戦意は十分そうですの。いくら子供のお遊びが競技だとしてもわたくしは負けませんのよ!」


だからババ抜きも立派な駆け引きだって、このお子ちゃまにはまだ分からないのか?

 まあいい、せっかくいい雰囲気を壊してくれたんだ。不本意ながら本気で勝ちにいく。

 俺が忘れていたこと。それはこのですわとの対決、もう勝ったも同然だったので気にもしていなかったが……2回もチャンスを崩されてはこっちも腹が立つ。

 性格悪いかもしれないが、八つ当たりに付き合ってもらおう。


「今日のお昼休み、特設の部屋を用意しましの!後で迎えを出しすまが、絶対に不正はできまんわよ!腹をくくっていただきますの!」

「分かった。俺も本気で行く」

「ふん、せいぜい短い学園生活を楽しんでくださいまし!それでは失礼しましたの!」


またも丁寧に会釈して帰るお嬢様だが……あいつ、毎回名乗るの忘れてないか?


「ご、ごめんなさい創さん……またも雰囲気に圧倒されて何も言えませんでした……」

「い、いいよ……春馬と同じ正義バカは頭に血が登ったら言う事聞かないから」

「あ、それすごく分かる気がします!昔そうでしたから!」


さすがのマヤたんも分かるか……まあ、幼なじみだったし、当たり前か。

 あの正義バカは本当に正しいことなら頼れるが……拗れるとものすごく面倒だ。


「えくし!何だ……急にくしゃみが……創、さっき青泉さん?が通ったけど、大丈夫だったか?」


噂をすれば……春馬は俺の隣に自然と立つ。

 すると、俺とマヤたんは同時に……


「お帰り、正義バカ」「お帰りなさい正義バカさん!」

「何だそれ……それより青泉さん、なって言ってた?」

「決闘の場所の指定にきました。とくせつ?とか言ってました!」

「げっ、そういえば昨日から部室の一つが工事してるとか聞いてたけど……まさか」


多分当たってるぞ春馬、青泉の財力は法則を無視するからな。

 特設……まあ、多分お嬢様専属の駄目メイドが何か仕込んであると思うが……毎回残念なことしかしてこないから無視していいだろう。


「で、勝ち目はあるのか?せっかく一緒にエアマジックできるのにいなくなるとか俺泣くぞ」


気持ちは分かるが、なんか変な方向に行ってないか春真。


「わたしも泣きますよ!」


マヤたんに関しては本気で泣きそうだから落ち着いてほしいところだ。


「お、落ち着いて……勝ち目はあるから……」

「まあ、ダメだった時の保険は任せておけ」

「わたしも頼ってもいいですよ!菫さんみたいにしっかりとはしてませんが……ははは……」


その言葉だけでも十分俺は頑張れる。あれ?そういえば……


「菫は?一緒じゃあなかったのか?」

「ああ……なんか先生と話があるみたいで先に帰らされた」

「そう……」


先生と話...この時期だと先のイベント予告的なシーン、おそらく菫の家族関係の話だとは思う。

 気になるけど下手にフラグを踏むわけには――


「あ、そうだ…創、あれから発現はできたか?」

「コイン以外は全く……」


話が大きく変わるが、今日のプチ朝練で俺はアイテムを使うことができなかった。

 アイテムを使えない、これはもうエアマジックを辞めるべきレベルだ。

 だが、初心者にはよくあるらしいので一応諦めないで頑張っているが……挫けそうにはなる。

 何でダメなんだ…?サルでもできるぐらいの難易度なのに……


「アドバイスとかないか?」

「うん……想いだな、自分の想いを伝えるんだ」

「ビビッとくるものがあるのでそれにビビッ!と答えればいいです!」


ダメだ……この二人口で説明できる人じゃあなかった。

 アイテムもエア同様、人によって感覚が違う。

 多分この二人の感覚はほぼ一致しているが、俺にはさっぱりだ。


「私は違うかな?ちゃんと話せば分かってくれるよ?」


菫は笑みを浮かべながら会話に入ってきた。


「お、お帰り……大丈夫だった?」

「うん。大したことじゃあなかったし。それよりも創くんの話だよ。ペアだからしっかりしてほしいな」

「は、はい……」


これもプチ朝練で決まったことだが、俺と菫、そしてマヤたんと春馬がペアになった。

 残念ながらマヤたんとペアになるには主人公である必要があるみたいで、くじ引きだから「もしや?」と思ったが、やはりゲーム通りの編成になってしまった。

 一応臨時なので、次の時は主人公バフを上回る何かが必要だが……当分それは用意できそうにない。

 まあ……菫との相性もみてみたいし、今回は大人しくしていよう。


「まあ、いきなり何もかもできないからな。一つずつやっていけばいい」

「一緒に頑張りましょう!」

「私はちょっと厳しくいくよ?二人には負けたくないから」


一応1週間後に対抗戦を入れているが……それまでにスティックでいいから使えるようになりたい。


※※※


4時限目の終わり、お昼休みを知らせるチャイムが鳴り響く。

 今まで自分のことを劣等生だと思っていたけど...自分でもびっくりする程授業が理解できる。

 この世界の医療と科学技術は前居た世界を軽く凌駕している。

 教育の水準も高く、一般常識のレベルも高い。

 小テストで赤点だったマヤたんだって前の世界では中の上ぐらいに位置する。

 でもそれって、この青泉高校のレベルが高いだけなのか?


『両方ですね。この世界はあなたが居た世界の日本より高いですし、青泉はこの辺の高校ではトップクラスです』


姿は見えないが、声がはっきりと聞こえる……マジでいるのか……ちょっと怖いな。

 一応見渡してサヤに姿を確認するが、鼻で笑われてしまったので諦める。


「お腹空きました………うう」


周りを少し警戒しながら朝練組のところへ向かう。

 すると、マヤたんが一発殴られたかのように完全にダウンしていた。

 先ほどの授業でショートしてしまったのだろう。


「お疲れ……大丈夫?」

「は、はい……なんとか……」


声からしてあまり大丈夫そうではないが……まあ、ケガしたわけじゃあないし、ご飯食べて休めばなんとかなりそうだ。

 と、心配しながらマヤたんを眺めていると……春馬が納得したように頷いた。


「やっぱり頭の良さとエアを扱う能力は関係ないんだな……」

「お、おい……失礼だぞ」

「あ、わ、悪いマヤ、そういう意味じゃあないんだ」

「いいえ、大丈夫です。頭悪いのは事実ですし!」


何でそう誇らしく言えるのか……俺には理解できないな。

 頭悪いって、普通に気分悪い言葉だと思う。

 こっちだって精一杯考えてるのに……目標に達していないからって過程まで否定するとかひどいだろう。……うん?待て、今こいつなんて言った?


「お、おい……春馬……今井波さんのこと……」

「あーペアだし、さんづけは辞めようってことになったんだ」


うらやましいな!くそ、ペアの特権強すぎるだろう!


「そろそろご飯食べに行きましょう……わたしお腹がペコペコしてます……」

「そうだな」「うん……」


はあ……俺も近いうちに必ず……当分の第一目標だな。


「よし、用事終わったけどみんな準備終わってる?」

「はい!」「ああ」「うん……」


自分の席で私事をしていた菫が合流し、いつもの屋上に向かう準備をする。

 教室のドアに部分にさしかかったあたりで、俺はいきなり筋肉ムキムキの男2名に両脇をガッチとガードされ、そのまま持ち上げられる。


「逃げるつもりですの?そうはいきませんわ!」

「……」


また忘れてた。

 目の前には金髪サイドテイルのですの!お嬢様がもう既に勝った表情を浮かべ、俺を見上げていた。

 こっちが浮かべる顔だ。全く……あの自信はどこから出てるんだ?


「ああ、創くん……」

「創さん!」

「おい、お前。創は逃げるんじゃあない。一緒にお昼を食べに行くんだ」

「ふん、騙されませんわ。わたくしバカではないですの!」


いや、バカだろう。

 全員の手にある弁当を見ても言い張るとかバカでしかない。


「はあ……まあ、いいだろう。お昼前の軽い運動だし」

「な、なんですの!その勝ったような言い方は!」


あんたの勝ったような表情よりましだとは思うが。


「それじゃあ行ってくるから先………」


と、言いかけたが既に全員一緒に来るみたいだ。まあ、その方が少し楽か……


「青泉さん、降ろして」

「嫌ですの、このまま連行しますわ!」


もうこれで罰だろう!恥ずかしいわ!!

 だが、どんなに力を入れても男共から逃れることはできない。

 俺が諦めた頃には既に改造された部室に到着していた。


「降ろしてもいいですわ」


お嬢様の命令で俺を降ろして筋肉男共は静かに部屋から退場した。

 部屋の中央に置かれた机以外とくに変わった様子はない。

 だが……絶対なんか仕掛けてある。


「あそこに座ったら競技スタートですわ。覚悟して――」


お嬢様の言葉を途中で無視して席に座る。

 めんどくさい……早く終わらせよう。


「なっ!くうぅ……いいですわ!」


途中で言葉を切られたお嬢様はお怒りの様子。

 はあ……またこの面倒くさいメンバーが加わるのか……世話がやける。


「で、カードはどこ?」

「今出しますわ」


お嬢様が後ろを見て頷くと左側の壁から機械の手が現れ、順番にカードを配る。

 確かに……これなら不正はできないな。でも……どんだけ金かけたんだよ…


「部屋には監視カメラもありますわ!不正したら即負けですの!」

「ああ、分かった。で、お前誰なんだ?」

「なっ!人の名前を聞いて………ああ!!」


こいつ今気づいたな、自分が一度も名乗ってないことに。


「まあ、いい。青泉 和さん。改めて俺は古山 創だ」

「なんでわたくしの名前を知っているのですか!」

「いいだろう……べつに……」

「よくないですわ!ま、まさか……す、ストーカー……」

「違うだろう」


学園内で自分の有名ぷりを知らないのも中々...

 ここまでのことをすれば嫌でも名前は広がるだろうに。


「自分が軽い有名人なのは忘れないようにな。青泉さん」

「うう……私が勝ったらどこで知ったかも教えてもらいますわ!」

「別にいいけど……」


多分あんたが勝つことはない。だから残念ながらこのまま迷宮入りだ。

 カードの配布が終わり、俺は素早くカードを選別して確認する。

 ジョーカーは……なしだな。ってことは……


「ぐぬぬ……」


本当分かりやすいな……試験の途中で難問に当たったような顔を浮かべている青泉さん、ポーカーフェイスなんて言葉、知らないだろうな。

 この分かりやすい表情変化こそが俺の勝利への自信、いくら実力が平凡でも相手が下手ならいくらでも勝てる。


「ささっと始めよう。最初はグ、じゃんけんポン」


軽くチョキを出してみせると相手は慌ててパーを出した。

 先攻……まあ後攻でも結果はあまり変わらない。


「それじゃあ俺から先に……」


カードをじっと見つめるふりをしたあとに適当に一枚、手を近づけてみせる。

 するとお嬢様の顔が晴れ、嬉しそうに笑った。これがジョーカーか。


「はい」

「ああ!」


その隣にあったカードを引いて自分のと合わせて出す。

 何故ジョーカーを引かなかったのか不満そうなお嬢様だが、とりあえずカードを引く。


「どうぞですわ」


さて、この次ぐらいからダメメイドの邪魔が入るだろうか?


「うあ!また!」


カードを引くとお嬢様が声を上げる。

さっきとジョーカーの位置を変えたのか……でも表情で分かるので残念だったな。


「はい」

「うううぅぅ……」


お嬢様にしてみれば不思議でならないだろうな、ジョーカーを全然引かないんだから。

 自覚がないってこんなに恐ろしいことだとは……人の振り見て我が振り直せだな。


「今度こそ引かせて見せますわ!」

「……」


カードをシャッフルして俺に広げたお嬢様は自信に満ちた表情をする。


「それじゃあ……」


適当にカードに手をかける。するといきなり……


『そのカードはあなたに災いを与えます……右、右のカードを』

「……」


周りの反応から察するに俺にしか聞こえてない。

 すると今度は聞きなれた声が聞こえてくる。


『こっちの科学技術はあなたの居た世界より上です。似てるようでこういうところは違うので注意してください』


へえ……俺にだけ聞こえるようにするってことも普通にできると。

 でもそれならもっとすごいズルをしろ、本当ダメメイドだな。


「はい」

「うあ!」


さて……のんびり行きます……


『あなたは災いを受けるでしょう!その呪いを解くには次のカードでジョーカーを引かなくてはいけません!早く……さあ早く!』


なんだその詐欺サイトの会員登録を消すにはお金を払えみたいなやつ。

 強迫もダメダメだな……何でメイドやってるんだよ。


「ねえ、青泉さん」

「何ですの、今カードを選んでいますわ。急かさないでいただけますの?」

「いや、青泉さんところの使用人がうるさいからこっちにメッセージ送るの止めてほしいんだけど……」

「はい?」


お嬢様は後ろを向いて何かを睨む。

 と、思ったら席を立ち、壁にドーン!とパンチを飛ばす。


『ひぃ!』


小さな悲鳴と共にダメメイドの声は聞こえなくなった。やれやれ……


「すみません、うちの歌羽(うたは)が失礼をしましたわ」


ああ…確かそんな名前だったな。


「……あなた、本当に何者ですの?」

「え?」

「何故声だけ聞いてわたくしの使用人だとお分かりですの?」

「……」


やばい、お嬢様の顔が本気になってる。

 しまった。使用人だと判別までしてしまうと誤魔化すことも難しい。

 理由付けをしないと表情が読み難くなってしまう。


「俺の父と母は結構お偉いさんだった。だから青泉さんのこともその周りにいたメイドさんも知ってる。ひょっとしたら直接挨拶したかもしれない、覚えてないか?」

「え……はい...そうかもしれませんわね……あまり記憶にないのですみません……」

「いい、お互い数え切れないほど人に会って挨拶してるから、覚えてないのも当然だ。さあ、次のカードを」


そう、お嬢様は立場上いろんな人に挨拶する。

 俺とお嬢様は絶対に会ったことがない、だが……人は記憶を都合よく捻じ曲げる。だから勝手に『あの人かな?』と思ってくれるはずだ。

 初めて会った人が『お久しぶりです!』と言ったら勝手に合わせてしまうのと同じだ。

 後でどう思っても思いだせないものは思いだせない。ならそのまま迷宮入りだ。


「……」


お嬢様は気難しい顔をしながら

 カードを選んだ。よし、これで最後だな。


「それじゃあ俺の番だな」

「は、はい……」


 ここでジョーカーを回避して引くと俺の勝ちが確定。

 だが……表情が固まっていて完全に運試しになってしまった。

 もしかして、お嬢様の正義が揺らぎ始めたのか?


「青泉さん」

「な、何ですの?」

「今でも俺が頭おかしい変態だと思ってるか?」

「そ、それは……」


やっぱりか……俺は悪、その答えが疑問に変わっている。

 確立は50%だが、俺は確実に勝ちたい。このまま勝負を決めるにはリスクがある。

 ならば、ここは本来のルート通りの結果にすればいい。


「青泉さん、一つ提案をするけどどうする?」

「提案…?」

「ああ、ゲームはここでやめよう。ゲーム結果はドローにする」

「で、でも勝負ですのよ?」

「分かってる。ここまで来て悪いが、そもそも勝負するまでもないことだ。青泉さんもちょっと頭に血が登っていただけだろう?もし負けたら新聞部のいい餌食だぞ?」

「う、そ、それは……」


多分だけど、新聞部はこの話題は記載しない。

 何故なら、俺の噂をむちゃくちゃに広めたのは新聞部だ。

 マヤたんと春馬が話題を持ち込みして失敗したのも自分たちの精査ミスを隠したいからだな。

 だから、お嬢様が俺の勝負を挑んだけど、俺は全くの無罪でした。なんて記事を今更書くことができない。

 軽いハッタリだ。でもお嬢様には効くだろう。

 この提案での目標はゲームを終わらせてお嬢様に事情を聞かせる事、噂の消去は難しいが優先度が高いエアマジック部に入部させるは問題ないはず。


「ど、ドローにしたらどうなりますの?」

「青泉さんには一つ、話を聞いてもらう。それからは自由だ。話を聞いて俺を退学にしてもいいし、俺を助けてもいい」

「……わかり――」

「お嬢様ダメです!!」


いきなりお嬢様側の壁が開き、中からダメメイドが飛び出してきた。


「こいつは変態です!変質者です!露出教で、毎日お嬢様のことを考えて自家発電しているかもしれませんよ!」


何を言ってるんだこの間抜けは……全員キョトンとしている中、俺だけにサヤの笑い声が聞こえる……


「歌羽、気になったのですが……この人がそういう行為に及んだという証拠はどこですの?」

「ここにあります!」


ダメメイドが取り出したのは新聞部の記事……うわっ、めちゃくちゃひどいことが下手に書かれている……写真とか言って掲載してるの絵じゃないかよ、誰だこんなの信じるやつ。


「歌羽あなた……」

「ですからお嬢様!こいつは許してはいけないです!」


ゲームでは知らなかったが、お嬢様暴走の黒幕はこいつだったんだな。

 どうしょう、とりあえず殴ろうか?はあ……まあ、こっちの言い分も通しておこうか。


「井波さん……ちょっとお願い」

「は、はい!」


マヤたんを呼び俺が隣に立つ。

 そして……


「ちなみにこの人が誰か知ってる?」

「わかりませんわ……」「知りません!」

「……井波 マヤ、俺が事故で胸を触ってしまった人だ」

「「ええ?!」」


当然の反応だな。

 だって加害者と被害者が隣に居るのに何の反応も起きないから。


「井波さん、説明お願いできる?」

「は、はい!創さんの為に一肌……いえ、スッポンポンになります!」

「いや、そこは一肌だけにして……」


そして、数分かけてマヤたんと俺で説明をする。

 説明が大分終わる頃には二人の顔が青ざめ、特にダメメイドの方は緊急搬送されてるぐらい真っ青な顔をしていた。


「と、いうわけだ」

「そうでしたの……」


お嬢様は青い顔のまま頭を下げた。


「す、すみませんでした!」

「い、いや……その……」

「い、今土下座を――」

「い、いいから!顔上げて!」


お嬢様に土下座されたらこっちが困る!

 もうこれ以上攻めてくることはない、俺はそれで満足……これからも付き合っていかないといけないのに土下座なんてされたらどうすればいいんだよ……


「それで、なんだけど……二つほどお願いがある」

「な、何でもいいですわ……この身も捧げる覚悟ですの!」


だから気持ちが重いって……呆れ顔が出ないように注意しながら咳払いする。

 そして、当初の計画通りの願いを……


「一つはまあ、事故の件は納得してほしい。俺も井波さんに謝罪しているしお互い事故だったと納得しているから、これ以上蒸し返さないと約束してくれ」

「え……は、はい」


俺の言葉に拍子抜けした青泉さんは力が抜けたようにリラックスした。

 何かしら思うことはあると思うが、次の提案が聞き入れやすくなってと思えばいいか。


「あと一つ……これは本当、青泉さんの自由でいい。……エアマジック部に入ってくれないか?」

『え?』


誘い方として意味が分からないと思うが、俺には他のアイデアが無かった。

 お嬢様が入部しないとストーリーが思うように進まない。

 補足するか……何て言えばいいんだろう。普通に軽い感じなら……


「昔挨拶した時...今と同じ退屈そうな顔をしてたからちょっと考えておいて」

「わ、わたくしが……?」


家柄がいいことで苦労することは経験済みだ。

 意外と辛いものなんだ……自分を見てない人が周りに集まるというのは。


「青泉さんが満足するかも分からないけど……ただ、青泉さんと一緒にエアマジックがしてみたい」


本当なら春馬が言うセリフを引用して話す。

 【友達になるのに特別な理由はいらない】、俺が好きな言葉の一つを信じて押し切ってみる。

 もじもじと迷っている様子のお嬢様……いや、青泉さんは今日、答えが出せそうになかった。


「……はい、これ」


このイベントの為に持っていた入部届を青泉さんに渡す。


「答えは今じゃあなくっていいから、いつでも待ってる。嫌ならこの話は聞かなかったことにしてくれてもいい」

「……」


入部届をしっかり受け取った青泉さんは無言で頭を下げて急いで部屋を出た。


「お、お嬢様!あ……あ…う、し、失礼します!」


ダメメイドもすぐに後を追う。

 まあ、この先は運命(ルート)に任せるって感じだな。

 はあ……無理して平気なふれしてたけど……むちゃくちゃ疲れた……女性と対等に話すってこんなに疲れるものなのか?


「お疲れ、一軒落着だな」

「お疲れですぅ!」

「かっこよかったよ、創くん」


疲れ果てたところにみんなが駆け寄って言葉をかけてくれる。

 そうか……頑張れたのはみんなのおかげなんだな。


「ありがとう付き合ってくれて……」

「いいぞこれぐらい、しかし、ちゃっかり勧誘するなんて、さすがだな」

「はい!頼もしいです!」

「ちゃっかり勧誘までして、策士だな創くんは」


青泉さんはこの3人の足元に辛うじて及ぶぐらいだが、平均以上には成長する。

 というか...あんまり褒められると恥ずかしい。


※※※


放課後、部室に向かう準備をしているとマヤたんが机から生えて出た。


「創さん、創さん」

「なに?」


何故か菫がいる方向を気にしつつ声をかけてきたマヤたん。

 気まずそうにしつつも、決心したように話しだした。


「あのあの……敵っというか対抗戦の相手にこんなの聞くの場違いと思いますが……一つ教えてほしいですぅ…」

「いいよ、別に……ガチな試合でもないし」


1週間後に控えている俺と菫VS春馬、マヤたんの試合。

 軽い対抗戦だが、俺は勝ちたい。

 だけど……まあ、敵は強いほど燃える?って感じだろうか、別にマヤたんが成長することに対して何も懸念はない。


「わたしの能力、迷子(アリス)のことです。どうすれば上手く扱えるでしょう?」

「……そうだな」


マヤたんの能力迷子(アリス)はエアを投げるとランダムにある場所へワープする。

 出現時は「いきなりそこ?!」って感じなので敵だと厄介な能力だが、今のところ制御不可なので自分のゴールの手前に出たりもする。

 でも、この能力が進化するにはまだまだ早い。大きくヒントを与えることはできないけど……小さくなら問題ないか。


「不思議の国のアリスでいうと、井波さんがウサギになってあげればいいよ」

「ええ!それで終わりですか?!」


俺が与えられるギリギリのヒントをあげたのだが……マヤたんには難しかったか?

 これ以上ヒントはアウトコースだからいったん納得させてみんなの元へ向かう。

 マヤたんの成長もだが……今は俺が最優先だ。今日こそアイテムを使うぞ。


※※※


「はあ……はあ……」


必死に息をしながら四つん這いになっている俺。

 菫は心配そうに背中をさすってくれるが……本当、自分が情けなくって仕方ない。

 こんなにやってもアイテムが使えない……でも!


「もう…一回……」

「ダメ!ちゃんと休まないと。厳しく行くとは言ったけど……無理させるとは言ってないからね?」


情けない……あと少しのところで壁が出ない。

 火起こしで例えると煙は大量に出るが火が出ないって感じだ。

 ってか……何でアイテム使っただけなのにこんなに息が上がるんだ?


「大丈夫か創?」


息を荒くしている俺を心配して部長が近づいてくる。

 そして、俺の装備をいじってステータス画面を表示する。


「ふーん、疲労度がMAXだな。当分休まないとアイテムは使えないぞ?」

「ひ、疲労度?」

「ああ、ここ見えるか?」


ステータスの部分で今まで一度も見たことない項目が追加されている。

 体力の下……【疲労度】と書かれたところが100になっていた。

 初めてみるそれにキョトンとしていると、部長が親切に説明してくれた。


「アイテムを使えば疲労度が上がる。これが上がると体力に影響を及ぼすんだ。何もしなくても体力を削がれる。そして、見てのとおり体力もほぼゼロ、これだといくら練習してもアイテムは使えない」


どういうことだろう……俺が知っているエアマジックではSPという項目があり、それを消費することでスキルを使用できた。

 ここではSPがない代わりに疲労度というものが存在するのか……

 アイテムを使用する->疲労度が上がる->体力が減るってことか……つまりSPの変わりが体力ってことか?

 ゲームでは体力とかなかったし……ここは現実向きに変更されたのか、ゲームみたいに技の連射とかは絶対無理だなこれ……

そうか、『エアマジックは体力勝負』って言ってた理由がやっとわかった。


「ひ、疲労度ってどれぐらいで回復するんですか?」

「人によって違うな、今のうちに自分の回復力をチャックしておくのもいいぞ」

「は、はい……」


あんまり回復力はよくないだろうな、そう思いながら俺はタイマーを持って隅に座った。


「それじゃあ創くん、私が練習するのダメ出ししてくれる?」


菫はアイテムを取り出してカードを除外する。

 だが……


「す、菫……今日はカード使ってみない?」

「え?でもカード一度もやったことないし……それにごくわずかな人しかできないんだよね?」

「う、うん……」

「創くんは使えるの?」

「む、無理……でも……なんとなく菫なら行けそうな気がして……」

「うーん……それじゃあやってみようかな?」


これだけははっきり覚えている。菫はカードを使える。

 エアマジック部で唯一カードに才能を見せ、一番アイテムの使いが上手い、隠れボス的な存在。

 ストーリー上、菫ルートを選択しない以上菫が競技に出ることはほとんどないが、菫が競技に出たイベントは一度の敗北もない。

 もちろん負けイベもある。が、負けイベを菫でクリアするって事件があったから、事実上菫の前に敵なしだ。


「うーん、普通にスティックみたいにやればいいのかな?」

「それよりも少し想像を広げる感じかな……カードは範囲が広いから」

「へえー、それじゃあもうちょっと優しくお願いする感じかな」


菫はカードをセットして目を閉じる。

 能力、開花は全てのアイテムに影響する。

 カードももちろん開花の影響受けるので……当然広がるのは……


「あれ?できちゃった」


菫の周りがコインを使用していないにも関わらず、広範囲にわたりお花畑となった。

 色とりどりの花たちは風に揺れているように優しくお辞儀をし、花びらが競技場一面に舞い踊る。

 舞い踊る花びら一つ一つが壁、アタッカーにしては絶対防御すぎる……カード+開花だからこんなことができる。


「満開の花園!技名は決まりだな!」


いきなり部長が俺の隣に現れ、痛々しいネーミングセンスを披露する。

 そうだ……この人迷子(アリス)とかつけた人だったな。


「うーん、それより花園(スミレ)の(in)女神(フローラ)とかはどうです?」

「おお!」「おお……」


部長よりちょっと痛々しい名前ではあるが、本来の名前ではある。

 なんでこういうネーミングセンスかというと。


「ふふ、下の子が今まさに中二病真っ盛りでね。ちょっとだけ付き合ったらこんな感じかな?って思っ試してみたの」


ただの優しい姉だからという...姉が付き合ってあげてるうちに卒業できるといいな。菫の弟よ。


「それにしても、まさかカードを使えるとは……」

「創くんが試してみたら?って言ったので」

「創が?おお!さすが軍師さんだな!才能を見抜く目!才認(さいにん)(がん)か?!」

「い、いや……」

「うんうん、さすが軍師創くん」


部長はガチだし、菫はからかってる……ううっ、何て説明しょう。

 ただ直感って言ったらまた『さすが軍師!』とか言われそうだ。

 あ、でもそれでいいか……それで納得してくれるなら多くを語る必要がないし。

 それより……


「あ、そうだ……部長、あっちには秘密ですよ。隠し刀にしたので」

「うお、俺は今回あくまでも中立だ。相手に情報を渡すようなことはしない」

「ありがとうございます……菫、それじゃあ菫はスティックの代わりにカードを練習しよう」

「うん、それがよさそうだね」


今回の対抗戦、勝てば何かが変わるはずだ。

 元のゲームでは、主体となるルートのヒロインが勝利する。

 だが……今主人公は事実上二人、ならば主人公決定戦になるかもしれない。

 それまでに絶対アイテムを使えるようにならなくてはいけない……諦めない、絶対、絶対に!

 燃える意思とともに立ち上がり、菫の元へ足を運ぶ。

 するといきなり装備が鳴り、ステータスに変化があることを知らせた。


「何だ……」


画面にはnewと書かれた項目が表示される。

 狂化10って……何だよこれ!!


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