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グッドモーニング③

エース〇ンバットっぽい感じで書いていきます!

 音越えを達成した日から数週間後、基地内に警鐘が鳴り響いた。続いて、基地に設置されたあらゆる中継器から、伝達魔法によって発信された声が響き渡る。その声音は、とても穏やかさからは程遠い。


「全空中騎兵に告げる。ウラシアナの騎士団が、コップロフトへ攻めてきた。各員は管制官よりブリーフィングを受け、速やかに出動せよ」


 そして今度は、専従管制官であるクインが、通信魔法で直接語り掛けてきた。


『聞いたなヒラガナ、緊急出動だ。格納庫に行って、今すぐ装備を受け取れ』

「了解」

『その間に作戦内容を伝えるが、簡易的なメモも用意しておく。それも格納庫で受け取れ』

「心得た」


 緊急出動時の手順に沿って、俺は既に格納庫へと向かっていた。格納庫へ着くと、ドラグーンとなったことで分隊長へと昇格した俺に宛がわれた僚騎りょうきつまりバディであるうら若い空騎が一人、既に地上支援班から装備を引き渡されている最中だった。


「おはようございます、隊長」


 凛とした立ち姿で、支援班による装備着装を受けるのは、鳥人族ハーピー種の獣人ユリーカだった。俺と同じく元奴隷だが、彼女が軍に引き取られた後すぐ、義母になりたいという軍人が現れ、彼女はその女性と共に外で暮らすようになった。そのため、俺がユリーカと顔を合わせることは、訓練のとき以外滅多になかった。今日ここであったのも、数日前の定期訓練のとき以来である。


「ああ、おはよう」

「隊長も確か、今日が初陣でしたよね」

「まあな、お前もそうだろ」

「ええ、しかし初陣で分隊長とは、立派でございます」


 正直言って、俺はこの子が苦手だ。まるで彫刻の様に()()()()ではあるが、その表情も同様に固く、あまり感情を表に出さないタイプなのである。少しくらい笑ってくれれば接しやすいのだが、今しがた言われた嫌みの様な発言のせいで、それもまた遠のいたことを感じた。しかしまあ、俺の方が格上なのだから、話を振るならこちらからだろう。


「なあユリーカ」

「は」

「お前は、鏡の前で笑ってみたことはあるか?」

「いえ、ありませんが」

「ならよかった」

「なぜですか?」

「お前が鏡の前で笑ったら、温度差に耐えられず、鏡が割れるだろうからな」


 少し皮肉も織り交ぜたジョークを言ってみたが、どうやら皮肉の割合が強めだったらしく、彼女は俺の言葉に対し無視を決め込んだ様子だった。きっと、ユリーカを笑わせるよりも、微笑んだ女神像を作る方が簡単だろう。


『おいヒラガナ、会話の途中で悪いが、今回の作戦内容を伝えるぞ』

「あ、ああ、すまん、頼む」


 クインの通信でハッとした俺は、装備の着装を黙々と行う支援班の一人から渡されたメモを眺めながら、彼の説明を聞くことにした。姉さんの買い物リストみたいに簡潔なメモより、もっと詳細な内容を聞けることを願って。


『まず今回の作戦だが、至って簡単、寒冷地コップロフトへ向けて進軍する、ウラシアナ軍の邀撃だ』

「つまり防衛戦って訳か」

『そうだ。やつらは平均標高1500メートルの山脈を乗り越えてくるから、下山してくる騎士団を少しでも多く殲滅し、陸騎兵の負担を減らすことが本作戦の目的になる』

「逆にコップロフトを奪われれば、こちらが自然要塞を失うことになるわけか」

『ああ、簡単な任務だが、最重要作戦となる。初陣だからないと思うが、くれぐれも気を抜かないように』

「了解、で、敵の情報はどれだけ分かってる?」

『哨戒騎兵の情報によると、数はおよそ7千とのこと。こちらはコップロフト駐屯基地の軍隊と合わせて延べ1万。数ではこちらが有利だが、やつらの魔術師は粒ぞろいだ。こちらに制空権があるとはいえ、地上の戦いは恐らく泥沼化する』

「爆薬がふんだんに必要となるな」

『だが奴らも地対空魔法(GAM)で応戦してくるだろうから、先ずはそこから叩け』


 グラウンド(G)・ツー・エア(A)マジック(M)か、厄介だが、有効な回避行動は幾つかある。GAMは対象から漏れ出る僅かな魔力を検知して追尾してくる攻撃魔法であるため、自身の魔力を一時的に遮断、抑制すれば、GAMの追尾を避けられる。その間飛行することはできないが、擬似魔力源デコイと並行して使用すれば、先ず当たることは無いだろう。


『次に細々とした情報だが、ここまでは大丈夫そうか?』

「ああ、意外とメモ上手なところに驚いたよ」

『了解、それじゃあ通信手段だが、本作戦における周波数は317.000DAfに設定、敵通信との混信を確認した場合、適宜変更を推奨するが、まあこの辺は分かってるな?』

「大丈夫だ」


 敵との混信は基本的にそのままでいいと、先輩方から教わった。戦闘中に周波数を合わせるなんて面倒なことは出来ないし、何より傍受されても問題がないよう、こちらも敵もコードを使用するのだから、基本なに言ってるか分からん、らしい。


『OK、それじゃあ作戦空域までの飛行ルートだが、こちらは無指定、高度制限についても無制限になる。交戦規則は敵を確認次第交戦せよ、とのこと。あと緊急手順だが、これは訓練通りだ』


 クインによるブリーフィングが終り、重要事項について書き留められたメモの余白に、補足も書き込んだ。その間に支援班による装備装着も完了。クインの眼になるストーム種の鷹も到着した。つまり、出撃準備完了という訳だ。


「第27支援班、ソールだ。第三分隊の準備完了、いつでも出撃可能。離陸許可を願う」


 ここまで支援班を指揮していた男が、指令室へ通信を飛ばす。その声は司令部に届き、離陸許可が下りれば、各管制官を経由して空騎へと伝えられる。その流れはものの数秒で終わるため、長年の訓練期間で培った経験に頼れば、今、『ドラグーン、離陸許可が下りた。』そら、勘の通り、クインが俺に通信を入れてきた。


『お前の分隊はオーク隊に組み込まれる、コールサインはオーク3、オーク2の離陸を確認したのち、速やかに離陸しろ』

「ウィルコ」


 格納庫のシャッターが全開し、まぶしい日照りとともに外の景色が飛び込んでくる。青々とした芝生の上に数十名の空騎が立ち並び、続々と離陸しているのが認められる。俺が所属するオーク隊は、たった今、俺たちと同じタイミングで隣の格納庫から顔を出した。


「あーあー、聞こえるかドラグーン。今回お前たちを指揮するノイズだ、コールサインはオーク1。まさかお前の初陣を見届けられるとはな、ドラグーン、大先輩として、くそ嬉しいぜ!」


 このノイズという男は、俺の飛行訓練を20年にわたり指導してくれた頼もしい人だ。鳥人族イーグル種のため、身長は2メールを超えるが、その巨体に見合ない繊細な機動が得意な人だ。空中戦闘機動は、ほとんど彼から教わった。ノイズというコールサイン(非公式の方)は、ずっとしゃべり続けていることから名付けられたらしい。俺としても納得のいくコールサインである。


「ドラグーン、共に戦えることを嬉しく思う」


 彼はノイズの僚騎であり、ノイズ曰く、古くから戦場を共にした頼れるバディらしい。うるさいノイズとは正反対の性格故、ミュートと名付けられた。実際、通信魔法を切っていると勘違いするほど――――必要最低限のことは話すが――――無口である。彼もまた鳥人族であり、種はホークだ。


「皆さん、くれぐれも俺に置いてかれないように頼みます」

「だっはっはっはッ、ペーペーが大口叩きよるぜ!」

「せいぜい、開幕早々ダウンしないことを祈る」


 この二人は長年世話になっている先輩であるため、俺も冗談を言うことにためらいは無かった。それに先ほどの言葉は、俺自身の緊張感をほぐすために放った、いわばリラックス法でもある。ミュートの様に黙々と任務に従事することも大事だが、ノイズの様に喋りまくることもまた、大切なのだ。それに比べて…………。


「オーク4、大丈夫か?」


 俺の僚騎であるユリーカは、俺の呼びかけに答えず、まるで通信が聞こえていないかのように無口であった。というよりも、初陣に緊張して周りが見えていないよ様子。おまけに手足もがくがくと震えていると来た。


「オーク4、おい、ユリーカ!」

「は、はい!」


 再三の呼びかけで、ようやく彼女のフルフェイスアーマーがこちらを向いた。こいつのあだ名も考えてやらないとな。


「バイザーはまだ上げてろ」

「あ、すいません」

「大丈夫か?」

「はい、問題ありません」

「よし、じゃあ頑張ってこうな、()()()()()


 と、俺が肩を叩いて笑ってやれば、彼女は首をかしげて「シェイキー?」と聞き返してきた。だから俺が「お前のコールサインだ。非公式の方な。俺が考えてやった。」と言えば、彼女は俺の手を振り払い、「誰がシェイキーですか!」と、ようやく感情を面に出してきた。張り詰めた弦も少しは緩んだようだ。


「シェイキーか、悪くねえな! お前のネーミングセンスも磨きがかかって来たんじゃねえか? だが、俺の方がもっといいコールサインを思いついたぜ」

「どうせウェッティとかだろう?」

「おいミュートぉ、先に言うんじゃねえよ」

「安直なのがお前の悪い癖だ」


 コメディアンのようなオーク隊の通信を聞いていると、鼻を啜ったのか、もしくは吹き出したのか、まったく聞き取れなかったが、微かな息が聞こえてきた。「皆さん、お喋りはここまでです。そろそろ出発しましょう。」だが確かに、それはユリーカのもであったことは確かである。


「おう、行くぞテメーらッ」

「了解」

「オーク4、了解!」

「死ぬなよ新人」


 タッグを組んでいる別小隊のアンバー隊が離陸し、いよいよ我々オーク隊の番が回って来た。


 次、この離着陸場に足を着けるのは、一体いつになるのか、それは分からない。子供のお使いのように簡単な任務ではあるが、どんな戦でも、ひとたび行軍すれば最低でもひと月は帰れないと聞く。もしかしたら、もう二度と帰れないかもしれない。あまりに急な任務であるため、姉さんにお別れも言えなかった。こういう時に備えて、ベッドの下に遺書を隠しておいたが、果たして姉さんは見つけるだろうか。それとも、俺の帰りをいつまでも待って、俺の部屋には入らないかもしれない。それにあの遺書、やっぱりもう少し丁寧な字で書いておけばよかった。内容もだ、何年も前に認めたものだから、遺産も正確な額ではないし、もっと伝えたいこともあったはずだ。あー、よせよせ、何も考えるな!


 今だ、今の事だけを考えろ。そして楽しめ。我が家のモットーは、“何事も楽しむ”だろ? 敵を堕としまくって、貰ったボーナスで姉さんに高級な生地を買ってやるんだ、そうさ、行って堕として帰ってくるだけだろうが。


『よお相棒、晴れ舞台だ、華々しい初陣を飾ろうぜ』

「ああ、上がるぞクイン、戦場ステージへ!」

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