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4 あの女の変態信者ども



 アンヌは学園の3年生に進級し15歳になった。オレリアもである。

 この国では男女とも15歳で成人と認められる。故に、そろそろ王太子の正式な【婚約者】が発表されるのでは、と囁かれていた。もちろん多くの貴族が本命はオレリアだと思っている。

 それはアンヌの家族も同じで、父は

「正式にオレリア嬢が【婚約者】として発表される前に、我が家には残念通知が届くんじゃないかな? ほれ『バンザ~イ、無しよ!』的な」

 などと言っている。母も兄もウンウンと頷き

「早くはっきり落としてほしいわよね。アンヌちゃんの結婚相手だって探さなきゃだし」

「そうですよね。アンヌも15歳になって成人したのだから、いつまでも引っ張られても迷惑ですよね」

 などと話している。

 アンヌは腹立たしかった。

「お父様、お母様。お兄様まで。どうしてあの女が選ばれると決めつけるのです?! 諦めたらそこでゲームオーバーですわよ!【為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり】と申しますでしょ!」

 アンヌ自身は相変わらず王太子妃になる気満々だった。


「アンヌの前向きな姿勢は素晴らしいとは思うが……」

 普段からプリティな困り顔の父が、ますます困った顔をしながら言葉を濁す。

「アンヌちゃんのガッツは素敵だけれど……」

 アンヌによく似た童顔の母はそっと溜息を吐く。

「アンヌ。やる気だけで王太子妃になれる訳じゃないんだぞ」

 父に似たプリティ困り顔の兄も更に困った表情で、そんな酷い事を言う。

 家族はアンヌを愛してくれている。けれど、アンヌがオレリアを差し置いて王太子の婚約者に選ばれるとは、全く考えていない様子だ。

 アンヌは悔しくて仕方なかった。



 アンヌが成人を迎え暫くした後。王家からついにボージェ侯爵家に伝達があった。

 アンヌ以外の家族はもちろん「残念なお知らせ」だと思っていたのだが、使者から伝えられたのは「バンザ~イ、無しよ!」ではなく、なんと「アンヌ・ボージェ嬢は、来月以降、毎週末王宮に通い王妃教育を受けるように」という命だったのだ。

『『『ひぃっ~!?!?』』』

 父と母と兄は伝達を聞いて声にはならぬ声を上げた(使者の前なので叫べない)

 アンヌは心の中でガッツポーズを決める。

⦅よっしゃー! キタコレ!⦆ 

 ところがである。

「ただし」

 と使者は続けた。

「アシャール侯爵家のオレリア嬢も、アンヌ嬢と一緒に王妃教育を受けて頂く手筈になっております。そこのところをご承知おき下さい」

⦅あんだって?!⦆

 ムッとするアンヌ。


 父が使者に問う。

「という事は、うちのアンヌもオレリア嬢もどちらもまだ【婚約者候補】という立場のままなのでしょうか?」

「そういう事でございます」

『『『どこまで引っ張る気だよ! 王家!?』』』

 という両親と兄の心の声が聞こえたようで、王家の使者は、

「それでは(しか)とお伝え致しましたぞ」

 と言い、父に伝達文書を押し付けるように渡すと、そそくさと去って行った。



 アンヌとオレリアが共に王妃教育を受けることになったらしい――学園はその噂で持ち切りとなった。

 オレリアを「美の女神」と崇拝する信者どもが、教室で聞こえよがしに会話をする。

「なんでまだアンヌ嬢が候補に残ってるんだ? おかしいよな!」

「美しさ、気品、成績、その他全てにおいて圧倒的にまさってるオレリア様が王太子妃になるべきだ!」

「ボージェ侯爵家は一体どんな手を使ってるんだ?」

「ホント、頭に来るよな!」


「やっぱりアイツら、ぶっ飛ばしてやる!」

 アンヌがそう言ってオレリア信者の男子生徒達に向かって行こうとするのを、友人たちが必死に止める。

「アンヌちゃん、ここで騒ぎを起こしたら奴らの思う壺よ!」

「奴らはアンヌちゃんをわざと怒らせようとしてるのよ。のせられちゃダメ!」

「ぶっ飛ばす代わりに奴らの名前を例の【HAGEノート】に書こうよ、アンヌちゃん!」

「くぅっ~」

 拳を握り締めて堪えるアンヌ。

「アイツらの名前は既に【HAGEノート】に記入済みよ。仕方ない。新たに【METABOノート】を作ることにするわ」

「「「「「【METABOノート】???」」」」」

「そのノートに名前を書かれた者は腹囲が120㎝を超える、呪いのノートよ」

「「「「「120㎝!?」」」」」

「年老いてからメタボになっても意味が無いからね。婚姻前に腹囲が120cmオーバーになる呪いなの」

 得意そうに説明するアンヌ。

 友人たちがアンヌらしいと感心していると、突然、教室に凛とした美しい声が響いた。


「貴方達。何て失礼なのかしら? アンヌ様は侯爵家令嬢にして王太子殿下の婚約者候補なのですよ。貴方達は自分がどんな非礼な発言をしているか、分からないのですか?」

 良く通るその声は、自分の信者達を窘めるオレリアの声だった。

 オレリアに一喝されて、シュンとなりながらも何処か嬉しそうな信者達。大方オレリアから声を掛けてもらえた事が幸せなのだろう。変態どもめ!

 オレリアはそのままツカツカとアンヌの目の前まで歩んできた。

「アンヌ様、私の周囲の者達が失礼致しました。申し訳ありません」

 アンヌは仰天した。

 アンヌは昔から(と言ってもまだ15歳だが)オレリアに極力近付かないようにしている。何故なら嫌いだから。共に学園生徒会の書記になってからは仕事上仕方なく少し話をするようになったが、それも必要最低限の会話に留めているのだ。アンヌは感情が表に出る。なのでオレリアはアンヌが彼女を嫌っている事にもちろん気付いている。自分を嫌っている人物にわざわざ寄っていく者などいない。だからオレリアのほうも、普段からアンヌに話しかけてくることはなかった。それこそ生徒会の仕事上の話以外には。そのオレリアが教室でアンヌに話し掛けて来たのだ。アンヌが驚くのも無理はないと思う。


 だが、ここでビビッてはいかん! 一言物申してやらねば! アンヌは胸を張り、ツンとした表情で言ってやった。

「オレリア様。貴女の信者達は失礼過ぎますわ。キチンと躾をなさってくださいな」


 アンヌのその言葉に、オレリアの後ろから嬉しそうなざわめきが起きる。

「躾だって!?」

「俺達、オレリア様に躾てもらえるの!?」

「アンヌ嬢もイイこと言うじゃないか!」

「俺、ウンと厳しく躾けられたいよ~」

「はぁん。幸せ♡」

 

 このド変態どもが!!



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