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10 思いがけない重い愛



「アンヌ嬢。私と結婚してほしい」


 こだまでしょうか?

 幼馴染ジスランに求婚されてから、さして日も経たぬうちにまたもや求婚されたアンヌ。

 今度は2つ年上のビュシェルベルジェール公爵家の長男エドモン――そう、あの馬面の(元)生徒会副会長からの求婚である。顔も長いが家名も長い。


「先輩、やめてくださいよ。変な責任感で求婚されても全然嬉しくありませんから」

 改まった服装で何故か大きな花束を抱えボージェ侯爵家にやって来たエドモンを見て、嫌な予感がしたアンヌ。そして案の定の展開である。

 無駄に正義感と責任感の強いエドモンのことだ。今回の王家のやり口に憤慨し、ここは王家に連なる公爵家の跡取りである自分の出番だとクソ真面目に考えたに違いない。


「責任感?」

「先輩。いくらビュシェルベルジェール公爵家(噛まずに言えた!)が王家に連なる家であっても、さすがに先輩が責任を感じて私と結婚する必要は無いと思いますよ?」

「そういう理由で求婚している訳ではない」

「じゃあ、単純に【同情】ですか?」

「それも違う」

「じゃあ、何でです?」


「君のことが好きだからだ」

「またまたまた、ご冗談を。先輩ってば、そんな素振り全然なかったじゃないですか」

「隠していたからな。殿下は君を愛していた。だから私は自分の気持ちに蓋をしていたんだ。けれど殿下が君を手放すなら、もう遠慮する必要は無いと思ってね」

「……本当に?」

「本当だ」

「ホントにホント?」

「ホントにホントだ」

「嘘でしょ~?」

「嘘ではない」

「マジですか?」

「大マジだ」

 なかなかにしぶといエドモン。


「じゃあ、私のどんなところが好きか、言ってみてくださいよ」

 何故か偉そうにふんぞり返るアンヌ。


「まず、可愛い。物凄く可愛い。そして明るくて元気だ。ガッツがあるところもとても好ましい。毎日生徒会室に居残って、悔し涙を流しながら書類に嚙り付いていた事は知っている。負けず嫌いで、へこたれない精神はまるで一流のアスリートを思わせる。殿下を助けた勇気ある行動にも心を打たれた。もっとも、あんな危険な目にはもう二度と遭わせないがな。上位貴族も下位貴族も関係なく、友人として仲良く付き合う懐の深さも素晴らしいと思っている。何より、君と一緒にいると心が弾むんだ。ドキドキドキドキドキドキして、あ~これが恋なんだな~と、生まれて初めて実感した。夜、一人で君のことを想うと胸と下半身が熱くなる。私は君が好きだ。とても好きだ。愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくてたまらない。愛しさが止まらないんだ。君への愛はまさに無限。アンヌ嬢、私は君を心から愛している」


「……えっと。ありがとうございます?」

 予想外に愛が重そうなエドモンにアンヌはビビった。

⦅愛されてるのは分かったけど、嬉しいような怖いような……⦆


 エドモンは改めてアンヌと向き合い、真っ直ぐにアンヌの目を見て言った。

「受けてくれるな? 私の求婚を」

「ま、まぁ。そういう事でしたら、お受けします???」

「疑問形はやめてくれ。やり直し! もう一度いくぞ」

「はい?」

「受けてくれるな? 私の求婚を」

「(どうしても倒置法で言いたいの?)は、はい。お受けします」

「ありがとう! アンヌ嬢!」

 そう言いながら、突如アンヌを抱きしめるエドモン。

「ひゃぁっ!?」

 驚き、赤面するアンヌ。馬面VS赤面である。


「『アンヌ』と呼んでも?」

「ひゃい」

「私の事も『先輩』ではなく『エドモン」と呼んでくれ」

「えどょもょんしゃま」

 超展開に呂律の回らないアンヌ。

「アンヌ! 大丈夫か? 脳梗塞か!? すぐに医者を!!」

「ち、違います! エドモン様! 脳梗塞ではありませんから!」

 エドモンのとんでもない勘違いに焦るアンヌ。

「アンヌ、無事なのか? 良かった」

「私は無事です。大丈夫です。エドモン様のあまりに情熱的な求婚に感極まってしまっただけですわ」

「そうか。私の熱い想いを分かってくれたのだな?」

「ええ。それはもう充分に理解致しました」

「良かった。アンヌ、二人で幸せになろうな」

「はい……」


 エドモンの熱意と勢いに押し切られた感は否めないが、これで良かったのだとアンヌは思った。

 これ程までにアンヌを想ってくれる男性はそうそう現れないだろうし、何より常に公正で公平な生徒会副会長としてのエドモンを、アンヌはずっと尊敬していたのだ。

 尊敬に値する男がアンヌを愛し、夫になってくれると言うのである。

 女として、この上ない僥倖ではなかろうか。

 



 【デキる男】エドモンは、アンヌ本人に求婚する前に、全ての準備と根回しを終えていた。

 求婚の翌日の朝にはビュシェルベルジェール公爵家当主(エドモンの父)とボージェ侯爵家当主アンヌパパの署名入りの婚約届を王宮に提出し、エドモンとアンヌは晴れて正式な婚約者になったのである。既に結婚式の日取りまで決定していると聞かされて、アンヌは驚いた。

「さすがです! 先輩!」

「エ・ド・モ・ン!」

「さすがです! エドモン様!」

「ははは。愛の力さ。でもウェディングドレスだけはアンヌの希望通りのものにしたいから、まだ発注してないからね。費用はもちろん全額ビュシェルベルジェール公爵家が出す。どれだけ贅を尽くしても構わないから、アンヌの納得できるドレスを仕立てるといいよ」

「(マジで?)嬉しい! ありがとうございます!」

「はっはっは」


「でも、せん……じゃなかった。エドモン様。半年後に結婚式を挙げるのは少し早くないですか? 先輩、いえエドモン様は既に学園を卒業されてますけど、私はまだ4年生なんですよ? (結婚する)半年先には(最終学年)5年生になってますけど、それでも卒業まで8ヶ月ちょいありますし」

「学生結婚は別に珍しくも無いし、結婚後は公爵邸から学園に通えばいい。もちろん、学生の間は学業優先だ。私の妻としての社交や子作りは学園卒業後で構わない」

「私が学園を卒業する日まで白い結婚……という事ですか?」

「まさか! そんなに我慢できる訳ないだろう。きちんと避妊をするという意味だ」

「あ、なるほど。了解しました」


⦅半年後に結婚したら、先輩とあんなことやこんなことをするのね。そう言えば、馬面の男性はアレも馬並みに大きいって【月刊貴族令嬢】の特集記事で読んだことがあるけど本当かしら? いざとなって入らなかったらどうしよう? 前もってチョットだけ見せてもらえないかな?⦆

  

「アンヌ、どうした? そんな不安そうな顔をして。マリッジブルーかい? 心配な事があるなら何でも相談してくれ」

「大丈夫です……」


⦅さすがに言えない。入るかどうか不安だからチョイと見せて欲しいなんて!⦆

 いくらアンヌが雑な性格でも、貴族令嬢としてこれ以上はあかんという品性デッドラインくらい分かる。アレを見せて欲しいと頼むことは憚られた(当たり前である)

  



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