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ラくなきジれんまオとことヲんな  作者: Tsuyoshi&松山亮太
第一話『佐藤と美加』
8/10

#8

 森の中では、地面に落ちた佐藤のスマホが鳴っている。


「ゲホッ、ゲホッ・・・・・・ゴホッ! オエッ、ゴボッ」


 スマホの近くには切れた縄の端・・・・・・その側で大の字に倒れて、咳込んでいる佐藤がいた。彼の鬱血した紫の顔が、徐々に赤みに変わっていき、吐瀉物(としゃぶつ)も咳と一緒に吐き出す。

 その間も彼のスマホはずっと鳴り続けていた。美加は少々鬱陶(うっとう)しそうに顔をしかめて耳を塞いでいる。佐藤は回らない頭のまま、顔を横に向けてスマホを見やる。そこには母と表示されていた。力無く寝返りを打つように、スマホの画面をタップする。


「やっと繋がった! アンタ、一体何してるの!」


 触るところを間違えて、通話がスピーカーモードになっているようだった。佐藤の母親の声が静かな山中に響く。


「アンタの勤めてるわかちあい生命の課長さんから、アンタが無断欠勤していて連絡が取れないって電話があったわよ! せっかく苦労して、叔父さんのツテで入れたんじゃない・・・・・・会社に迷惑かけちゃダメじゃない!」

「・・・・・・・・・・・・」


 母親の言葉で佐藤の脳裏に、人を見下すような(いや)らしい笑みを浮かべた黒崎の顔がよぎる。佐藤の母親は彼を(とが)めるような話を続けていた。しかし、佐藤は途中から母親が何を言っているのか理解出来ない、いや、言葉そのものが理解出来ない状況に(おちい)ってしまっていた。

 ただ分かるのは自分の頬を涙が伝っている事だけだった。ずっと言葉すら発する事が出来ないでいた。最後に帰る事の出来る居場所すら、音を立てて瓦解(がかい)した気がした。


「もしもし、聞いてるの? 返事しなさい!」

「・・・・・・・・・・・・」


 佐藤は母親の言葉に、何か答えようと口を開けるが、言葉が出ない。


「か・・・・・・・・・母さん・・・・・・・・・ごめんなさい」


 掠れるような、絞り出すような声で佐藤は母に返事をする。

 この会話も当然、多くの他人達の耳にも届いていた。(あお)るような他人事を呟いていた者も、気持ち悪がっていた者も、気が付けば皆、この二人の会話を黙って聴きいっていた。


「・・・・・・なんかアンタ、声が変だけど風邪でもひいて」

 

 母親が話している途中だったが、佐藤の震えた指は、通話終了を押した。

 それから虚ろな瞳で佐藤は美加を見上げた。


「・・・・・・そのナイフ、貸してくれないか?」


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