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ラくなきジれんまオとことヲんな  作者: Tsuyoshi&松山亮太
第一話『佐藤と美加』
7/10

#7

『・・・・・・アタシの・・・・・下して・・・・・・ザザッ』


 田中と五木がスピーカーの電源を見る。すると、先程の点検の際に田中が消していたはずの電源が点いていた。


「やだ、なにこれ。気持ち悪い」


 気味悪がりながら、五木が電源を切る。しかし電源を落とした傍からすぐに点く。そして再び鬱々とした声が再び流れ始めた。


「キャッ! なによ、これ。一体どうなってるの?」

「・・・・・・わかりません。でも何か話してませんか?」


 田中に言われ、五木が耳を澄ませてスピーカーの音をよく聴いてみると、男女の会話のようだった。しかし、痴情(ちじょう)のもつれとか、そういう雰囲気ではない。


『・・・・・・辞めたんなら、もういいじゃないか。僕は・・・・・・逃げたんだ』

『辞めても、辞めなくても・・・・・・・・・壊れてしまえば一緒よ』


 森の中で、佐藤は美加の手首から流れる血を無気力な目で、ただ呆然と眺めていた。


「・・・・・・壊れていまえば一緒・・・・・・・・・か」


 彼女の先程の言葉が、佐藤の中にすとんと落ちてきた。

 美加の言葉を受けて、彼の中でも一つの結論に達した。

 佐藤は膝に手を当て立ち上がり、木にかかっているロープに向かってよろめき躓きながら歩いていった。そんな彼の様子を美加は無気力な目で見ていた。

 佐藤は黙ったまま、ロープに手をかける。

 前の使用者は多分小柄な人だったのだろう。佐藤が背伸びしただけで、首に縄をかける事が出来る。ぐいっと無理矢理、首に縄をかけて足から力を抜く。佐藤の首にグッと食い込んだ。


「・・・・・・・・・ぐっ。・・・・・・・・・グググ・・・・・・カッ・・・・・・・・・かひゅっ・・・・・・・・・」


 だが、しっかりと頸動脈に縄が締まっておらず、気道を塞いでいるだけで、ただただ苦しいだけだった。苦しさで悶える佐藤は声も出せず、辛うじて息を漏らすだけだった。


 佐藤の苦しむ様子が音となり、イヤホンやスピーカーを通じて、様々な人の耳に強制的に届けられる。それを耳にした者の中には、突然の怪奇現象を気味悪がる者や生々しい息遣いに嫌悪感を抱く者、人の死の瞬間だと興奮を覚える者さえもいた。

 この佐藤の苦痛に悶える声は、スピーカー越しに五木や田中の耳にも届いていた。一連の流れを聞いていた二人は、これはただ事じゃないと判断した。


「ちょっと! 田中ちゃん、コレどこから流れてるか分からないの⁉」

「調べてみます!」

 

 田中は自身のタブレットとノートパソコンを開いて原因を探る。その間にもスピーカーから男の苦悶の音が流れていた。


「まだわからないの⁉ 早くしないとホントに死んじゃうわ!」


 五木がパソコンとタブレットを操作する田中を急かす。画面には難しいワードやよく分からない数字が並んでいる。


「・・・・・・原因がわかりました!」


 それまで集中していた田中が声を発した。


「さすが田中ちゃん!」

「・・・・・・・・・ただ、信じられない話かもしれませんが、何かがブルートゥースを搭載した機器をジャックしています」

「どういう事?」


 五木が訝しげな顔で尋ねる。


「・・・・・・正確には、スマホや音楽機器からブルートゥースに送られる周波を遮断して、何かが自身の周波を強制的に受信させていると言った方が正しいですね」


 田中は周波数をジャックしている原因の物がある場所の位置を逆探知で調べ始めた。今度は地図のような画面に切り替わる。田中は立ち上がり、タブレットを片手にその場で時計回りにゆっくりと回転する。

 スピーカーからは、山中と思われる音が鳴っていた。虫の鳴き声、枯れ葉ごと土を蹴る音。それに合わせて、漏れる吐息の風切り音。軋む縄や枝の音。何かを引っ掻くような音。しかしそれは徐々に、少しずつ、弱くなっていく。


「ママ! 発信源の位置がある程度分かりました!」


 田中が場所を推測した。ジャック周波の方向、環境音から、出所が車ならそう遠くない山の中であろう事が分かった。


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