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ラくなきジれんまオとことヲんな  作者: Tsuyoshi&松山亮太
第一話『佐藤と美加』
5/10

#5

 空が白む早朝。サラリーマンの男が大きな欠伸をしながら歩いている。これから会社へ向かう彼は耳にワイヤレスイヤホンを着けて音楽を聴いている。

 突然、ブチッと音を立てて、それまで流れていた軽快な音楽が消えた。


「あれ、電池切れかな?」


 と片方のイヤホンを外して、バッテリー切れを疑うも、特に故障している訳でもなく、目立った異常はない。彼は(いぶか)しげな顔をして、もう片方も外そうとした時、耳に残るイヤホンから何かが聴こえてきた。


『い、ぎ・・・・・・ぐ・・・・・・が・・・・・・』


 男女ともつかない不気味なしゃがれ声で、人生を絶望した独り言のようなものが聞こえてくる。誰かに対する恨み辛みが聴こえてきたかと思うと、今度は急に沈黙が訪れた。

 しかし、声が聞こえていないだけで、風や草木の擦れる環境音は聴こえており、イヤホンの電源が落ちていない事が窺える。


「え? 一体何だったん・・・・・・」


 男がそう言いかけた時、彼の声に被せて、


『もう嫌だああああああああああああああああああ‼』


 突然、濁音にまみれた絶叫が彼の耳をつんざいた。


「うわっ!」


 男は不気味な絶叫に驚いて、耳のイヤホンを地面に勢いよく叩きつけた。アスファルトにカンッと音を立てて、地面を転がる。イヤホンからは苦しみ悶え、後悔する声が聞こえていた。


『あああぁあぐぁ・・・・・・ううああああ! イヤダあ、やっばり死にたくないいいいいい! イダイイダイイダイイダイ・・・・・・! たす・・・・・・助け・・・・・・だずげ』


 声の主が助けを求めている途中で、ブツッと音を立てて・・・・・・再び軽快な音楽が聴こえてきた。男は戦慄した表情で地面を転がるイヤホンを懐疑的に見つめていた。


 同時刻、駅のホームでは会社員や学生達がひしめき合っている。大勢の人の中には、イヤホンやヘッドホンを着けて音楽や動画を視聴する人も多く見られた。

 そんな人達にも先程のサラリーマンの時と同じような障害が起きていた。


「何この声? お前らも聞こえる?」

「え? 何が?」

「なんかさっきからじいさんみたいな声が聞こえるんだよ」

「俺も聴こえる・・・・・・あっ、声変わった」


 奇妙な会話が聴こえてくる。どうやらそれはワイヤレスのブルートゥースがついた物だけのようだった。彼らの耳に届いていたのは、はじめは老人の声だったのだが、途中で急に若い男女の話し声に切り替わる。まるでラジオのCMが途切れて、放送が始まるかのように。

 ひたすらに重たい空気の中、長い間を開けながら、男女が交互に呟く。内容も聞き取れるか聞き取れないようなか細い声で、ボソボソと何かを喋っていた。


 その頃、佐藤の勤める会社では、佐藤が無断欠勤をしている事に上司の黒崎は憤慨していた。彼の携帯に何度も電話するが、佐藤は全く通話に出ない。


「っの野郎! ふざけやがって!」


 彼がしつこく連絡するのには理由があった。今日は佐藤が受け持つ商談があり、その資料を彼が持っているからだ。佐藤に対する心配など微塵もしていない。黒崎は佐藤の安否よりも、商談をまとめる為の資料の方が重要なのだ。


 山奥では、木に背もたれて佐藤と美加が虚ろな目をして座っていた。

 佐藤のスマホがずっと鳴っている。古いラジオも同調するように小さな信号が点滅している。


「・・・・・・・・・でないの?」


 美加が少し怪訝(けげん)そうに眉をひそめて、佐藤に問いかける。

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