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ラくなきジれんまオとことヲんな  作者: Tsuyoshi&松山亮太
第一話『佐藤と美加』
4/10

#4

 ホームの異変に気付いた電車が警笛を鳴らす。

 しかし彼はそれすら聞こえていない様子で、白線を越える。

 耳をつんざくようなブレーキの金属音が構内に響く。


(これで楽になれる・・・・・・・・・)


 佐藤の体が線路上に飛び出そうになった瞬間、急に誰かに手を引かれ、生に引き戻される。

 彼を引っ張った手の主は、女装をした中年男性だった。彼の表情は驚いているような、怒っ

ているような顔をしていた。


「・・・・・・・・・‼ ・・・・・・・・・‼」


 女装の中年男性は佐藤の両肩を掴んで、彼の目をしっかり見据えて怒っていた。しかし茫然自失になっている佐藤には、彼が何を言っていたのか理解出来なかった。

佐藤は彼の手をほどき、無言のまま駅のホームを去っていった。

あてもなく夜の街を歩いて行く佐藤。


 この日、佐藤は会社にも自宅にも戻る事はなかった。

夜の繁華街を歩く佐藤の後ろ姿は、どんどん人気(ひとけ)の無い方へ向かって行く。


 街には無いキーンとした肌寒い空気、枯れ葉を踏む音、湿った土のにおい。

木々が生い茂り、月の光もあまり届かない山中で、佐藤はあてもなく彷徨っていた。

 ふと、古いラジオとロープが掛かった木が月明りに照らされているのが彼の目に入る。まるで何かに導かれるように、佐藤は木に近づく。そのまま縄に手を伸ばそうとした。

 その時、背後から自分に近づく足音があることに気が付いた。佐藤はゆっくりと振り返る。


 彼の背後には、血に塗れた果物ナイフを持った少女が立っていた。

 少女を見ると、髪は脂ぎってボサボサ、服も薄汚れて、痩せこけていた。枯れ木のような細い腕には、赤い横筋があり、そこから痛々しく血が流れてポタポタと落ちていた。


「・・・・・・ねぇ、私と一緒に死んでくれる?」

 

 少女がか細い声で佐藤に声を掛けた。


「・・・・・・・・・君は?」

「・・・・・・美加・・・・・・・・・」


 二人の(かたわ)らで、古いラジオが小さくジジッと音を立てて電源が入った。


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