#4
ホームの異変に気付いた電車が警笛を鳴らす。
しかし彼はそれすら聞こえていない様子で、白線を越える。
耳をつんざくようなブレーキの金属音が構内に響く。
(これで楽になれる・・・・・・・・・)
佐藤の体が線路上に飛び出そうになった瞬間、急に誰かに手を引かれ、生に引き戻される。
彼を引っ張った手の主は、女装をした中年男性だった。彼の表情は驚いているような、怒っ
ているような顔をしていた。
「・・・・・・・・・‼ ・・・・・・・・・‼」
女装の中年男性は佐藤の両肩を掴んで、彼の目をしっかり見据えて怒っていた。しかし茫然自失になっている佐藤には、彼が何を言っていたのか理解出来なかった。
佐藤は彼の手をほどき、無言のまま駅のホームを去っていった。
あてもなく夜の街を歩いて行く佐藤。
この日、佐藤は会社にも自宅にも戻る事はなかった。
夜の繁華街を歩く佐藤の後ろ姿は、どんどん人気の無い方へ向かって行く。
街には無いキーンとした肌寒い空気、枯れ葉を踏む音、湿った土のにおい。
木々が生い茂り、月の光もあまり届かない山中で、佐藤はあてもなく彷徨っていた。
ふと、古いラジオとロープが掛かった木が月明りに照らされているのが彼の目に入る。まるで何かに導かれるように、佐藤は木に近づく。そのまま縄に手を伸ばそうとした。
その時、背後から自分に近づく足音があることに気が付いた。佐藤はゆっくりと振り返る。
彼の背後には、血に塗れた果物ナイフを持った少女が立っていた。
少女を見ると、髪は脂ぎってボサボサ、服も薄汚れて、痩せこけていた。枯れ木のような細い腕には、赤い横筋があり、そこから痛々しく血が流れてポタポタと落ちていた。
「・・・・・・ねぇ、私と一緒に死んでくれる?」
少女がか細い声で佐藤に声を掛けた。
「・・・・・・・・・君は?」
「・・・・・・美加・・・・・・・・・」
二人の傍らで、古いラジオが小さくジジッと音を立てて電源が入った。