#2
「・・・・・・・・・い、いつも、皆様の足を引っ張ってしまって、申し訳ありませんでした! 私はっ、皆さまの、おか、お陰で、生活させて頂いております!」
興奮にも似た緊張状態のせいで上手く呂律が回らない。それでも佐藤は自分自身を卑下しながら、周りの社員達に謝罪の言葉を絞り出す。
「お前さぁ・・・・・・違うだろ? ご! め! ん! な! さ! い! だろ」
黒崎はそんな佐藤に追い打ちをするように叱責しながら、土下座する佐藤の髪を掴んで、六度、床に彼の額をぶつけ続けた。
「ノ・・・・・・ノルマ、を・・・・・・達成出来なくて、ごめんなさい!」
佐藤は唇を噛み締める。頭が真っ白になり、心臓が更に速くなるのを感じた。彼はこの屈辱に震えながら、謝罪と自身を卑下する言葉を吐き続けた。
「おい、お前。いつまでそうやって仕事サボってるつもりだ?」
「え・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
そんな黒崎の口振りに社員達は理不尽と感じながらも、誰も何も言わない。ノルマを達成出来なければ、自分も同じ目に遭うからだ。
佐藤はその理不尽な言葉に対して、苛立ちと安堵が入り混じった感情を抱えながら、自分のデスクに戻ろうと立ち上がった。
「佐藤。お前の携帯出せ。社用じゃなくてお前のだ」
黒崎が社員達の前で佐藤にプライベート用のスマートフォンを出すように要求した。
「・・・・・・はい・・・・・・」
佐藤は上司に言われるまま、渋々スマホを出す。それを見た黒崎は、佐藤に電話帳のページを表示させ、その中にある家族や友人、恩師にさえも営業をかけるように指示をした。
「お客サマはたくさんいるじゃないか・・・・・・お前、こいつらから契約取ってこい」
「い、いえ・・・・・・それは」
それには当然、嫌がる佐藤だったが、
「ああ? 今日中に残りのノルマを達成出来るのか?」
と、黒崎が鼻では笑いながら佐藤に憎たらしい邪悪な笑みで問いかける。佐藤はそれに対して何も言えず、ただ俯き震える事しか出来なかった。
佐藤は外回りをする為に会社を出る。
「こんにちは。わたくし、わかちあい生命の『サトウ』と申します。本日は保険の・・・・・・」
住宅地を訪れ、個人相手で営業をかけるが、保険の営業と言うだけで断られる。
何度も何度も・・・・・・しかし、少しでも契約を取って売り上げ伸ばさなければ、また黒崎の酷いパワハラが待っているのが容易に想像できた。
佐藤はついに自分のスマホを取り出し、震える指で友人に営業の電話をかける。