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それではお楽しみ下さい。
真夜中の山中。木に吊るされたロープに月明りが照らす。木の下には古いラジオが捨て置かれていた。土埃で薄汚れている。
生気を失った少女が果物ナイフを片手に山の中を徘徊していた。その瞳には光が無く、焦点の合わない目で静かに暗い木々の間を歩く。
ふと、少女は一本の木の前で立ち止まった。月明りに妖しく照らされたモノに惹かれたのか、少女はその場から動かなかった。彼女は無気力で不気味な表情のまま黙って俯いた。
翌朝、オフィス街の一角にあるビル。入口の看板には手を取り合うイメージのロゴと「わかちあい生命」と書かれている。
営業課のオフィス内では、簾のような髪型をした中年男性の黒崎が営業課の社員達の前に立って朝礼をしていた。彼の背後には営業成績が棒線で表されたグラフが貼られていた。
黒崎はこの課の課長で、営業成績の良い社員を表彰していた。機嫌良くその社員の肩を叩きながら、他社員に見習うようにと話をする。
「次、佐藤」
黒崎は佐藤という名前を不機嫌で怒号に近い声で呼んだ。営業成績のグラフの下には名前が書かれており、佐藤の棒線だけ、周りに比べて著しく短い。
呼ばれた佐藤は見るからに気弱そうな三十半ばといった瘦せ型の男だった。彼は怯えるような震えた声で返事をし、社員達の前に出る。
「佐藤・・・・・・何で呼ばれたか分かってるよな⁉」
「はい・・・・・・・・・」
佐藤は俯きがちな姿勢で弱々しく返す。
「何だ、その態度は‼ お前舐めてんのか⁉」
「い、いえ・・・・・・黒崎課長。そんな事は・・・・・・」
佐藤の態度が気に喰わないのか、黒崎の圧が更に強くなる。
「そんなとこで突っ立ってないで、さっさと謝れよ!」
黒崎は佐藤の肩を掴み、強く下に押しやる。佐藤もなすがままに正座をさせられる。
「・・・・・・も、申し訳ありませんでした!」
佐藤は正座のまま頭を下げて、震える声を張り上げて謝罪の言葉を口にした。
しかし、黒崎は気に入らないのか、
「お前、もっと他に言う事ないのか。え? それに、何だ。それで謝ってるつもりか。いい歳して謝罪の仕方も分からんのか、お前は」
黒崎は佐藤の腕を掴んで、彼の手の平を床につける。彼の暴言や行動に、佐藤は顔がカーっと熱くなり、動悸が激しくなる。身体の震えが止まらなかった。