〜それぞれの思いと出会い〜
「 たくっ、おっさん人使い荒いったらありゃしねぇ」
ーーフィルメーシュで最も古い都市「古都 アスール」は100年前の人鬼戦争の跡が最も残る場所である
今では、他国から様々な種族が集まり、城下では毎日珍しい品物を運ぶ鳥獣が行き交い商人と買い手が親しげに品物を売買している。
「 夕方に間に合わねぇな…」
ひっきりなしに深々と降り続ける雪ではなく灰の粒
それをせっせと掃き掃除をする竜人族 グレン•ロウリエはギルド「月影」に所属するうちの1人の少年である
「月影」は武術に優れた物達が集まり人助け
魔獣との戦闘を主にしている6人しかいない小さなギルドだが依頼が絶えない。
「 グレン、こりゃ止みそうにない。一旦戻れ
鳥獣もこの灰じゃ動けそうにない。サリューさんに一報いれる。出払ってる奴らもそろそろ帰ってくる頃だろうし、昼飯にするぞ」
月影の長を務めているドワーフのガフィー
は空から降り続けている灰の粒を見て溜め息を吐く。今日の仕事は終いだとギルドに戻って行くのをげっそりとした顔で見るグレン。
「はぁ…..、明日もこの調子じゃ無理だろ…」
降り続ける灰色の空を見上げ、鉛のように重い溜め息を吐くと箒をしまいギルドの中に入っていく
道端に小さく咲いていた花は灰の粒に覆われ
崩れ落ちていた
ーーーーー
「ーー今まで見たこともない魔獣が現れたんだとよ!!隣国のマテリーア帝国軍でも拉致があかねぇって話だ。」
ガヤガヤと賑わいを見せる夜深い城下の酒場
「マテリア」
そこは数々の情報が溢れる場所でもある
隣国のマテリーアは戦線国として知られておりその力は一国を滅ぼす程。今は禁術と言われている「魔法」を使っているとも噂をされている国
ーー魔獣ねぇ…と聞き耳を立てるグレンは空になったグラスを店員の獣人の女の子におかわりと渡す。
「 なぁ、ガフィーさん。あの得体の知れない粒と魔獣、なんかしらの関係ありそうだよな
今は少しおとなしくしてる魔獣が暴れたり見たこともない奴らが溢れかえってるっておかしくね?」
「俺たちもカミラ大池付近で少し休憩していたら、見たこともない魔獣が現れて戦ったけど手も足も出なかった…。 それに依頼されていた大事な荷物を奪われちまった。」
肩を落としシュンとしているガフィーの息子であり弟子でもあるハクは今朝方起こったことをボソボソと話す
「巨人で翼が生えている魔獣、ツノの生えていら魔物も….。…あの御伽噺に出てくる悪鬼みたいなのもいたんだ。依頼されていた荷物にはテルマおばさんが作った魔獣除けの匂い袋も入っているからたぶん壊されてないと思うんだけど…、俺,怖くて….。」
「 逃げてきた、か…。 毎日鍛錬を行なったところで実力を発揮できないんじゃ失格だな…。明日、俺とグレンで外を見てくる。お前は待機だ。…いいな?」
「はい…」
ぐびぐびと葡萄酒を流し込むとドンと飲み干したグラスを置き外へ出ていくガフィー
「…..」
「 ガフィーさんも俺も魔獣が暴れてるって話を受けた時、駆けつけようとしたんだ。ガフィーさんは、顔真っ青にしてさ….。着の身着のまま飛び出したんだ。でも、外に出たらあの灰の粒で辺りが見えない、鳥獣も使えないほどだった….」
店員さんから受け取った蜂蜜ベリージュースを
ごくっと飲むとグレン
「…それと、何処からか情報が漏れたのか、魔獣が暴れてるって、噂を聞きつけた城下は逃げる人達で溢れかえってすぐに駆けつけることはできなかったんだ。ごめん…。」
「…ううん、俺がもっとちゃんとしていれば。荷物を奪われなくてすんだ。早く一報を入れればよかったんだ。そうしたら、被害も少しは抑えられたかもしれない。…ははっ、焦ると何もできなくなるのは良くないよな…」
じっと蜂蜜ベリーの入ったグラスを見つめる
ふわふわと甘ったるい蜂蜜の香り
ゆらゆらと揺れるその液体に自分の顔が写り情けない顔だと心で思うハク
お姉さん、美味しかったと蜂蜜ベリーを飲み干し、立ち上がるとパチンッと自分の頬を叩く
「….よしっ!! グレン、俺ギルドに先に戻るよ。(このままじゃ,ダメだ。しっかりしないと)」
「…お、おう?」
ハクの顔は先ほどの落ち込んだ様子は見られずしっかりと前を向いて酒場を後にした
その表情を見たグレンは少し安心してまた店員のお姉さんに蜂蜜ベリージュースを頼む
「あんたはジュースの飲み過ぎ!明日も早いんだろ?帰りな!」
「あだっっ!!」
威勢のいい顔見知りのマテリアの店主のおばちゃんに頭をぱこんと叩かれブツブツ言いながら酒場を出て行ったグレンだった
ーーーーー
朝日が顔を覗かせる早朝
ギルド「月影」はいつもの朝より早く外に出る支度でガヤガヤとしていた。
「 ねみぃ…ぐっ!?」
クワァっと大きな欠伸をしながら装備を整えるグレンは眠い目を擦りながらうつらうつらとしていると、ごんっと頭から鈍い音がした
「っ〜〜〜!」
「これからいく場所はもっとも魔獣が目撃されてる場所だ。昨日帝国軍とも連絡を取り、カミラ大池で合流することになった。いくらお前が強くたって気を抜くな。大切なもん見つけだすまで、このギルドに入ったからには最後までやり通してもらう」
そろそろ行くぞ、とガフィーはギルドを出る
まだ、シンシンと降り続いている灰の粒
「 言われなくてもわかってる」
小さく呟いたそれは宙に溶け静かに消えていく
探しても探しても行方がわからない妹
国を飛び出して2年、いまだに情報が掴めていない。ここなら、….アスールなら何かしらの情報が掴めるだろうと、そう考えてやってきた。
「 グレン」
「ハル」
これ、と手に渡されたのはハルの祖国に伝統に伝わる御守りだった。
「これ、いいのか?」
「うん。お守りってなんか女々しいけど….。気をつけて、 俺は城下の灰を掃除するよ
じゃないと、依頼もこないし。鳥獣も動けない
いってらっしゃい」
にかっと人懐っこい笑みを浮かべるハル
それに、おう!とニッ!っと笑みを浮かべギルドを出るグレン
「無事で…..」
シンっと静まり返ったギルド、外は昨日とはうってかわって青く澄み渡り晴れ晴れとしていた。
いまだ灰の粒は振る中、ガフィーとグレンの背中を外に出て見守る。今はそれしか出来なかった
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「ちょっと待ってガフィーさん。あそこ….何かいる」
古都 アスールを出てから1時間ほどの事
外も灰の粒で覆われて足場が悪い。そのため鳥獣に乗ることができないため、カミル大池まであと2時間ほど歩かなければならない。
「….魔獣か?」
「ちょっと見てくる」
灰色の地面を警戒しながら歩きそれに近づく
剣を片手にゆっくりと歩くとそれがなんなのかはっきりとわかった
「……..こども….?」
灰色の粒に覆われていたのは、ぐったりとして倒れている子供だった。脚には大きな怪我,火傷の跡が痛々しく残っている
「 おい!おいって!!しっかりしろ!!」
「…….ぅっ」
抱き上げて呼吸をしているか確かめると苦痛の声が小さく聞こえた。他に何処か怪我をしているか確かめガフィーを呼ぶ
「なんだ,この子供….見たことのない種族だ….」
「そんな事より、こいつを早い所医者に診てもらわないと。…顔色も悪い、灰の粒もたくさん吸ってるはずだ
それにこの脚の火傷も治療しないと壊死しちまう」
未だにぐったりとして動かない緑髪の子供
呼吸も苦しそうで、顔を顰めている子供をグレンは応急処置で火傷の酷い箇所を水で洗い流し、布で優しく覆うと抱き上げる。服はボロボロ、脚の火傷といい。虐待も疑ったが今はそれどころじゃない。ここもいつ魔獣に遭遇するかわからない場所だ。一刻も安全な場所に避難させるのが優先だった
「この少し先にフィムの街がある。そこまで走るぞ」
今にも命が絶えそうな少年を抱えフィムの街へと走り出す。
先ほどまで降り続いていた灰の粒は止んでいた。