〜眠る森 オワリノハジマリ〜
ーーーパチパチと草花が真っ赤に染まり、あたりの木々が倒れていく。アルフの森に住む動物達は逃げ場を失い、ある動物は倒れてきた木の下敷きになり動けず、親と逸れた動物もいる。
聞こえるのは動物達の歌声ではなく叫び声とアルフの森に住む木霊の子供達の声
「….なぁ,長老さんよ。本当は俺たちこんな事したくねぇんだよ。古代龍の居場所さえ教えてくれさえすれば俺たちは何もしない。こんなふうに、もう意地悪なんてしない。君たちの住む森が全部燃えちまう前に教えてよ」
「そうだ,なぁ君達。君達は知っているのかな?古代龍の居場所。…お兄さん達その古代龍に会いにきたんだ」
長老の背後に隠れている木霊の子供達に話しかける人族の2人。震え上がっている子供達には人族の声は届きはしなかった。戦う術を持たず、外の世界に一歩も出たことのない木霊の子供達は初めてみる赤い世界と人族に恐怖していた
「….すまないが、古代龍はここにはおらん、御伽噺の話をお主らは信じておるのか?血肉を求めて此処へきたのか?….見ての通り、ここには老いぼれと子供達しかおらん、ここから去れ。人の子よ」
落ち着いた口調で話をする長老に、大男が苛立ちを見せ舌打ちをするとゴオゴオと燃える音に負けじと声を張り上げる
「このガキ共でもいいんだぜ?俺らは。珍しい種族は高値で売れる」
「 ルノ、リコリス,コハク」
小さな声で長老が大男をじっと見つめながら
3人に語りかける気付かれないようにそっと
「わしの力では、皆を外に連れ出すことはできない 」
「ちょう、ろう…?」
「すまない…許しておくれ」
恐怖のあまり腰を抜かしている,朝には先ほど受けた火傷が痛々しく残っているルノとコハク
「ん?なんだ長老さん、やっと古代龍の居場所教えてくれ 」
ドサッと倒れる大男は何が起きているのかわかっていない様子で倒れている。片脚からは大量の紅い液体が流れでている。
パチッと音が鳴り響いた森の奥をみると紅く染まった森の奥からひたひたと歩く少女
ゴオゴオと燃え盛る音が響く中、辺りがシンッと静まり返ったような感覚に包まれる。
「 ルコア様」
ギラギラと人族を睨みつけながら歩く少女は無言でゆらゆらと歩いてくる
脚についていた枷が外れていた
足を片脚失った大男は苦痛な表情ではなく高々に笑いを浮かべる
「やっと,やっとみつけたっ!!!欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!!!欲しい!!!」
「」
「会えた,やっとやっと会えた….ずっと探していたんだ、古代龍の…君の血肉を 」
大男がルコアに這いつくばりながら近づくとピシリと音が鳴った、一瞬だった
大男が固まった、あの笑みはそのままで
周りにいた人族が青ざめる
「ひぃぃー!!!」
「化け物だ!!!!!!!」
ドンっと大きな地響きがすると背後の世界樹の枝が落ちている
人族は逃げようとするも辺りが焔に覆われ逃げ道がない
「ルノ!リコリス!コハク!!ルコア様の兄を探しておくれ…!お主達にしか頼めぬ!」
3人の胸元に小さく光る翠、それに長老が触れると3人の体が光に包まれる
「!!!」
光に包まれている3人の声は長老には届いていない、涙で頬を濡らしどんどんと光の壁を叩くも,その音さえも聴こえていない
「頼んじゃぞ」
ふわりと光は消え、それを見届けた長老は背後にいる怯える子供達を見つめる
「 皆、良いか…。ルコア様は怒りで自我を保てていない、そしてルコア様の魔力を封じていた足枷が外れておる。この森を、ルコア様をお救いするのだ….。あの子達が戻るまでだ…。マナをこれ以上失っては、世界が死へと向かってしまう…」
世界樹の枝が次々と燃えていく
轟々と辺りが紅に包まれる
「皆,仕事の時間じゃ….。この老いぼれに少しの力を貸しておくれ。ほんの少し森を眠らせるのだ….」
世界樹を母として生まれ落ちた木霊の子供達の足元は、世界樹が崩れかけてることによって石化していた
隣にいた家族同様の子供達は長老の言葉に頷き手を繋ぐと目を閉じ古代語を呟く
ーーーすまない、何もできないわしを許しておくれ。世界を救えるのは、君たちしかいないじゃ
「 ルコア様、すまない…..。わしは、あなたを救うことはできなかった….」
長老の足元も子供達同様に石化が始まっている
「 」
ゆらゆらと長老達に近づくルコア。長老の首に手をかける瞬間
「しばしの眠りに…」
長老の足元に古代文字が並ぶと同時に森全体が静寂に包まれる。紅く燃え上がっていた木々、草花、そして木霊の子供達、世界樹、ルコアもまた石化していた。
ざぁぁぁーーーーーーっと雨が降る
フルアの森全体を包む眠りの魔法はその雨を灰にし
ふわふわと雪のように森全体におちる
静寂に包まれた森はかつての翠を喪い、灰色の世界となった
ーーーーー
「 おいっしょ…..っと」
ドンっと大荷物を棚に載せる青年は、はぁとため息を吐く
「おーい!グレン!この荷物サリューさんに届けてくれ夕方までにだ」
この荷物と言われ目を向けると、大量の荷物が置かれていたそれを見た青年はゲッと嫌な顔をする
「 これ,俺全部1人で?」
「 仕方ないだろ。今、各国で魔獣が溢れ出ているって報告が山程ある。国の兵も他のギルドの人員も不足してるんだとよ。ほらほら,さっさとしないと夕方に間に合わないぞ。帰ってきたら、美味いもんご馳走してやるから、お前しか今空いてる奴がいないんだ」
2度目の今度はさらに深いため息を吐く青年は
観念したかのように頭を掻くと、荷物を乗せる鳥獣を連れてくる為外に出る
「 ん?雪…?」
今の季節ではあり得ないと、ふわふわと宙を舞うそれを手に取ると首を傾げる
「なんだこれ…」
手に取ったそれは雪ではなく灰色の小さな粒だった
あたりを見渡すと、都市全体がうっすら灰色の世界になっていた