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「これからまたツアーに出るのかい?」

「俺たちにじっとしていろというのか? 世界が変わって一番の迷惑は、移動時間が増えたことだな。おかげで以前と同じ規模のツアーをすれば、倍も時間がかかってしまう」

 作品の発表後、ライク・ア・ローリングストーンはすぐにツアーを再開させました。いつものように大規模なもので、世界中を、全ての国を五年かけて周る予定になっていました。

「今回のツアーで、俺の夢が叶う」

 キースの夢がなんなのか、想像もつきませんでした。というよりも、キースに夢なんて、あるのだろうか? 常にやりたい放題生きていたキースに、夢という言葉は似合いません。

「お前は覚えてないのか? 俺は何度も言っているだろ? 俺には一つ、どうしても興味があることがある。俺は映画を作りたい。物語を、映像に残すんだよ」

 そんなことを言っていたのは覚えていましたが、そんなのは夢ではありません。不可能なことだと、僕は考えていました。

「映画なんて、過去の産物だろ? 誰も本物を見たことがない。どうやって作るというんだい? そういうのは夢とは言わない。無謀なだけだ」

「どんなものでも、初めはなにもない状態から作り上げているんだ。誰かが映画を作り出した。俺にだって出来るはずだろ? 映画がどういうものなのか、大体のことはわかっているんだ。映像に物語を乗せる。それだけのことだろ? 演劇の延長じゃないのか?」

 そんなに簡単なものだとは思えませんでした。僕も映画については少しの興味があり、失われた歴史以前の資料を集めています。しかしまるで想像がつきませんでした。どうやって物語を表現すればいいのか、わかりません。

 演劇のように一場面で表現する物語はあり、それはまた素晴らしい文化でもあります。しかしそれをただ映像にしても、映画とは呼べないと思います。

 僕は物語を書く時、その情景をイメージしながら書いています。しかしそのイメージをただ映像にしても、意味がないと思います。物語を読む側も、情景をイメージしながら読んでいます。それをただ映像にしたとして、なにが楽しいというのでしょうか? 自分でイメージを膨らませながら読んでいる方が、よほど楽しいと思います。

「それは俺にもわからない。けれどな、やってみなければなにも始まらないだろ? それにな、俺はただ、物語を映像にしようとは思っていない。俺が作るんだ。そんなのは意味がないだろ?」

 なにを言いたいのか、僕には理解が出来ません。

「簡単なことだ。俺は俺らしく、映画を作る」

 失われた歴史以前の映画は、現実の姿を映し出すモノや、非現実社会を作り出したりと、様々なものがあったようです。どの映画も二時間程度にまとめられているのですが、その構成が、資料を読んでいるだけでは見えてきません。もっと詳しく書かれた資料が、見つからないのです。

「昔の映画がどんなものだったのかなんて関係ないんだ。俺はただ、映画という手段を使って残したい映像があるだけだ。ライブをそのまま、映画にするつもりだ」

 それはまるで新しいアイディアのように思えました。後に色々と調べてみたところ、ザ・ローリング・ストーンズが幾つかのそのような映画を作っていたようです。ザ・ビートルズも映画を作っていましたが、音楽を多用してはいたものの、物語がメインの映画だったそうです。

「ただライブの様子を流すのかい?」

「それだけではつまらない。俺たちの真の姿を映し出したい」

 僕にはまるで想像がつきません。つまらないものになってしまうと、本気でそう思っていました。

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