表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/75

     補足 ④

     補足 ④


 世界の終りは、予言通りとはいきませんでした。ライク・ア・ローリングストーンのライブをのぞけば、まるで普段と変わらない一日でした。ライブ会場以外、夜の街に灯りはなく、全ての人が眠りについていました。

 年末には多くの人が死にました。世界の終わりを信じ、迫りくる恐怖から逃れようとしたのです。

 年始にも、多くの人が死にました。世界の終わりを信じ、私財を使い果たしてしまい、生きる術をなくし、失望のままに死を選びました。

 世紀末後、世界は変化へと突き進みました。表向きには反抗勢力による会社の倒産となっていますが、現実はただの内部抗争の末の権力の後退でしかありません。

 ただ、それまで世界が一つに統一されていたのが、倒産を機に、バラバラになってしまいました。

 そして世界中に、国が建ちました。

 無意味な戦いが続き、若者たちが立ち上がりました。会社の姿が完全に消えることになり、階級社会のない、本物の国に生まれ変わりました。

 若者たちの行動は、革命と呼ばれています。世界中でほぼ同時に、この革命が起きました。これにより以前までの階級が無意味なものになり、平等な生活が始まりました。

 平等とは、不平等なものです。誰にでもなにをする権利がありますが、そう簡単なものではありません。どんな社会になったとしても、権力と金を握ったものだけが、なにをすることも許されるのです。

 結局、階級制度がなくなったものの、人によって暮らしの差が埋まることはありません。

 国同士の戦争は、国民を不安にさせるだけで、なにも利益を生み出しません。ただ戦い、領土を奪うだけの戦争は、国民の反感を買うだけでした。

 そこで国は、国民のためにと、大昔の宗教を引っ張り出しました。神を信じることは、不安を心から取り除きます。

 それだけでは不安を感じた国もあり、国の象徴となる皇帝を生み出しました。それもまた大昔の借りものであり、実際には血縁関係もなく、ただ名前が似ている、金があり権力があるというだけの理由で選び出されました。

 皇帝と言いましても、名前だけで、実際に国を動かしているものではありません。

 若者たちの力により、国は政府を作り出し、国民の意思を汲んだ活動をしています。と言うのは建前で、結局はその若者たちの、権力者たちの好き勝手な社会を作ろうとしているのです。

 しかしそれも、悪くはありません。

 若者たちは、自身の理想に向かって必死になっています。その理想が正しいかどうかは、今の僕には判断できませんが、本人たちが真剣によりよい国を作り出そうとしていることだけは、うなずけます。

 ライク・ア・ローリングストーンが今の世界になっても世界中を周るツアーが許されているのは、そんな若者たちに支持をされているからです。ある国の若者は、革命が起きたのをライク・ア・ローリングストーンの影響だと言っています。

 宗教と言っても、心から信じているのは一般の国民だけです。国を動かしている若者たちの多くは、ライク・ア・ローリングストーン信者であると言っても過言ではありません。キースの言葉を信じ、そのままの行動をすることも、珍しくはありません。

 そんな国の権力者たちがなにを争い戦争をしているのか、僕には謎です。どの国でも、どの宗教にも、ライク・ア・ローリングストーンは受け入れられています。たまに発するその問題発言も、国民の怒りを買うことはあっても、国そのものは容認をしています。

 しかし僕が不思議なのは、その後に彼らが殺されてしまってからのことです。突然乗り換えた飛行機だったため、彼らが乗っていることは、その国の政府も知らなかったこととは思います。仕方のない事故だと片付けてしまった気持ちも、わからなくはありません。しかし、彼らが死んだことへの、哀しみの言葉も、後悔の言葉も、どこの国からも、政府の言葉としては発しませんでした。僕がインタビューをして、数少ない言葉を得ることに成功できただけです。多くの権力者は、口を閉ざしてしまっているのです。

 彼らの死を暗殺だという噂も流れましたが、それはないと思います。ただ、政府の人間たちがなにかを企んでいることは確かのようです。僕の考えでは、恐れているのかもしれません。各国の権力者たちは、いわばライク・ア・ローリングストーン教の信者なのです。その思想が、国民全体に広がることを、恐れているのかもしれません。それはあくまでも、僕個人の見解です。


「最近はもう、音楽を楽しむ時間が減っている。以前のように街に音楽が溢れることはなくなってしまった」

 哀しいことですが、それは事実でした。以前は当たり前のようにどこにいても音楽を楽しむことが出来ました。自分で作品を買わなくても、どこにいても、好きな音楽が聴き放題でした。

「光の箱は今でも売れている。どうして自由に聴こうとしないんだ?」

 特別に音楽を外では聞いていけないという法律はありません。ただ、音楽の趣味も種類も多様化した結果、自分の好みの音楽を聴くため、自分の耳だけに音楽を届ける機械が売り出され、大ヒットしたのです。

 その機械は始め、家の中や学校など、表に音を出しては迷惑になる時にも好きな音楽を楽しむためにと売り出されました。

 そのきっかけがなかったわけではありません。街に溢れ出した音楽は、好みが合わずに喧嘩の原因になることが多々ありました。それがエスカレートをし、殴り合いに発展することもありました。

 そして時代が変わり、戦争が当たり前になったこの時代、殴り合いだけで済むはずもなく、殺し合いにまで発展してしまいました。余計な危険を避けるため、多くの人がその機械を使って音楽を聴くようになったのです。

「音楽は耳だけで聴くものじゃない。身体全体で感じるものなんだ。それをまるでわかっていない。おかげで以前に比べてバンドの数まで減ってしまった」

 バンドの数が減ったのは、若者が戦争に駆り出されているからでもありました。新しいバンドが、なかなか表に現れません。そして以前の大物も、姿を消しています。戦争に巻き込まれてしまった者も多いのですが、時代から追い出されてしまった者も多くいます。時代に関係なく受け入れられ続けているバンドは、ライク・ア・ローリングストーンの他にはいません。

 音楽が街で聴かれなくなった理由には、もう一つあります。街中は、いつでも騒音が流れているからです。

「平気で銃を撃つ。その気持ちが俺にはわからない」

 キースの歌声とその言葉はよく、銃弾に例えられることがあります。言葉の暴力だと非難されたこともあります。

「俺の言葉で人は死なない。俺の言葉は、人を生かしている」

 ライク・ア・ローリングストーンが世の中に登場しなければ、今の世界がないのは隠しようのない事実です。キース本人が否定をしても、会社が倒産し、若者たちが国を作ったのは、明らかにキースの言葉の影響です。ただ少し、僕としては時間がかかり過ぎたと思うほどです。

 キースの言葉は、確かに人を生かしています。それは、活かす、という言葉を使うべでしょう。キースの言葉により、人々の生きる目的が生まれ、その瞳が活き活きとします。しかし現実としては、キースの言葉によって世界が変わり、戦争が起き、多くの人が死んでいるのです。

「この作品を最後にするつもりはない。けれど正直、最後でもいいのかもしれない。そんなことを本気で思える作品は、これが初めてだ」

 キースはいつも、新しい作品を最高だと言います。これ以上を作り出すのは難しいと言うこともありました。しかしそれは、明らかなリップサービスでした。僕にとって、あまりいいとは思えない作品でも、キースは常に強気の発言をします。たった一枚、例外はありますが、あれは僕の責任なので、キースに責任はありません。

「この作品で世界が動かないのなら、俺はこれまでの人生を否定されることになる。この作品は、それほどに特別なんだ。受け入れられなければ、ライク・ア・ローリングストーンは初めて停止をすることになるな」

 この言葉を僕は、一度も記事には載せませんでした。キースらしい言葉ではあるのですが、現実になっては困ると、余計な心配をしたからです。

「この世界に不満はない。どんな世界にも、俺は不満を言わない。不満なんて言うだけ無駄だろ? 俺は世界がどんなことになっても、自由を求める。それが俺の生き方なんだよ。今回俺が世界を動かしたいのは、なにも政治の話をしているわけじゃない。わかるだろ? 俺はまた、以前のように音楽で街を溢れさせたい。それが俺の望みだよ。今回の作品には、間違いなくその力がある」

 音楽を聴いていて興奮をすることはよくあります。感動をすることもよくあります。人生を考えたり、その後の道を左右されることもあります。しかし僕は、その新しい作品を聴き、言葉を失いました。そしてただ、身体が動き出しました。僕はその場で、意味もわからずに踊ってしまいました。頭の中が、真っ白になりました。そんな音楽は、初めてです。

「新しい時代が始まると思うだろ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ