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国同士の同盟は、加速しています。今では大きく四つの思想に分かれているだけです。
人はいつでも、過去を持ち出します。人種という区別はとうになくなっているため、過去の宗教を持ち出したのです。信じてもいなかった宗教を突然引っ張り出し、神と崇めているのです。
人種や民族の区別はなくなっているのですが、失われた歴史以前から受け継がれ続けているものが、三つあります。それは、その地域特有の言葉と文字、そして名前です。表向きには、言葉と文字は統一の英語を使っているのですが、地域の中ではその文字と言葉を受け継ぎ続けてきました。それは、変わらない文化ではなく、変えられない文化なのです。言葉や文字は、少しの変化をしながらも、消えることのない文化です。
国によって、過去の皇帝の名を持ち出し、実際には子孫でもなんでもないのに、ただその地域で生まれ、名前が似ているというだけの理由で国のシンボルとして祭り上げたりもしています。
人はなにか、特別な力を信じたがります。心の拠り所を探しているのです。僕やキースにとっては、それが音楽であり、ザ・ビートルズだったのかもしれません。どうせ宗教を作るのなら、ビートルズ教でも作ればいいと思っています。
引っ張り出された宗教は、キリスト教、仏教、イスラム教、ヒンドゥー教の四つでした。大きく分けると二つにすることが出来るのですが、両者ともに否定をしています。
一度生まれた思想の違いを埋めるのは、難しいことです。元々その国に根付いていた思想ではなくても、戦争の最中、不安な心に効く一番の薬が宗教でした。あっという間に広がり、今ではなによりも大事な心の支えになっています。
隣同士の国でも、思想の違いによって戦争は行われています。離れていても、同じ思想のため仲が良く、同盟を組んでいる国もあります。中には一つの国の中、複数の思想が持たれている国もあります。そんな国では、内戦が収まることなく続いています。
宗教思想の広がりには、失われた歴史以前の文化が影響されているようでした。全ての国ではないのですが、多くの国では、当時と同じ宗教を信じているのです。
ライク・ア・ローリングストーンは、基本的には同じ思想の国へ行き、ライブを行っています。同じ思想の国への行き来は、簡単です。以前戦争が始まったばかりはどの国に行くにも特別な許可が必要だったのですが、今は、国民の証となっているIDを示せばいいだけです。違う思想の国へ行くには、相変わらず許可を必要としています。
許可を取るのに難しい国があるのも事実で、ファンの声があってもなかなか簡単には行くことが出来ない国もあります。そんな国に対し、キースは直接その国の皇帝や政治のトップに連絡を取り、説得をしています。キースの強引さに敵う者は、この世界には誰もいません。強いて言うのなら、奥さんくらいのものでしょう。キースの奥さんは、とても綺麗ですが、とても怖いのです。