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この時期のライク・ア・ローリングストーンは、オリジナルの作品を発表せずに何年間もひたすらにツアーを続けていました。ファンの要望により、途中でベスト作品やライブ作品の発表は行っていました。そんな彼らの作品は、いつの間にか、オリジナルと同じくらいの枚数のベストやライブ作品が発売されていました。どの作品も、オリジナル同様に売れています。
ライク・ア・ローリングストーンの魅力は、やはりライブにあるようで、その様子を勝手に録音した海賊版も多く世に出回っています。公式に発売されている作品の何倍もの海賊版があり、全てを集めることは不可能に近いでしょう。僕が把握しているだけで、三百枚は超えているのです。
この時期には、厳密にいうと一枚の企画作品と、オリジナルともいうべき作品が発表されてもいました。一枚はザ・ビートルズの曲や、彼らと同時期に活躍していたジョン・ディランやノーウェア・マンなどの曲をカバーし、集めたものです。その作品は後のカバーブームを生むことにもなりました。
もう一枚は、なんとも不思議な作品です。自作の曲が一曲もなく、タイトルだけを彼らが決め、様々なアーティストに曲作りを依頼したのです。そのタイトルは、失われた歴史以前からの曲から貰い受けたものばかりでした。
「楽しい作品だと思わないか? こういうのも、ありなんだよ」
その作品の意図はわかりませんでしたが、面白い作品でした。彼らの違う一面を見ることができ、改めて彼らの凄さを知ることが出来ました。
「俺たちはもう、止まらない。こういう時代に出来ることは、歌うことだけだ」
ライク・ア・ローリングストーンはイギリス国内だけでなく、海外へのツアーも積極的です。元々世界中で人気があったとはいえ、時代の変わってしまった今、海外へ行くには国境を越えなければなりません。それは、簡単なことではありません。
「許可を得るのが難しい国もある。けれど俺たちは、どこへでも向かう。要望があれば必ず行くしな、なくても俺たちが興味を持てば必ず行くことにしている。どんな手を使ってでも、伝えなくてはならないことがあるんだ」
時代は確実に、動いています。失われた歴史以後の数百年が嘘のようです。なんの変化もなく、ダラダラと続いていた時代は、はるか遠くに消えています。
「俺の歌にはまだ、力がある。俺はそう信じて歌い続けている。それしか俺には出来ないんだよ」
二百以上に分かれてしまった国を一手に相手にするのは、難しいことです。全ての国を敵に回してしまえば、生き残ることが出来ません。幾つかの国は、似たような思想の国と同盟を結び、異なる思想の国を相手に戦争を続けています。
「世界はまた、一つになるのかもしれないな。結びつきがなければ、生きてはいけないってことだ。けれどもう、あの頃には戻らないだろう。人間は、立ち止ることよりも、前に進むことを選んだんだ」