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ライブの開始は、午後十時からでした。待ちきれないファンたちは数日前から会場前に並び、寝泊りをしていました。本来ならば十二時過ぎの外出には特別な許可を必要とするのですが、暗黙のうちに了解され、前日には数十万人が会場の周りを取り囲み、不思議な興奮に包まれていました。
その光景こそが世界の終りだと言う大人たちもいました。
「こんなに盛り上がるとは思わなかったな。みんな楽しみにしているんだ。世界の終りがどうなるのかをな」
みんなバカです。僕はそう感じました。根拠のない戯言に、恐れているだけです。一人でその日の夜を過ごしたくはないと、集まっていただけです。
「世界は終わらないよ。この星は、そんなに弱くない。例えなにが起きても、この星は生き続ける」
「けれどな、人間は死ぬんだ。みんなが恐れているのはそれなんだよ。この星がどうなろうと関係ない。大事なのは、自分の命ってわけだ」
キースがそんな風に考えていることが、意外でした。
「不満そうな顔をするな。それが人間の心理なんだ。口ではなにを言っても、結局一番大事なのは自分の命だ。俺だってそうだな。自分がいなければ、なにも始まらないだろ? 死んじまったら、それこそお終いだ」
しかし現実では、ありもしない恐怖に怯え、耐えきれずに自らの死を選ぶ者が多くいました。
「あいつらこそイカレている。死を恐れる気持ちはわかるけどな、死から逃れるために、自分から死んでしまうなんておかしいだろう? どうせ死ぬとわかっているなら、その時まで精一杯生きるべきなんだ」
「死ぬのが怖い。キースはそう言いたいのかい?」
「当然だ! 俺は死にたくない! こんなところで終ってたまるか!」
「僕だって死にたくない。けれど・・・・ 僕は家族のためなら死んでもいい」
「本気でそんなことを思っているのか! お前がそんなバカだとは思わなかったな。どんなことがあっても、死んだら意味がない。その意味がわからないのか?」
家族のためなら、僕は死んでもいいと、当時は本気で思っていました。
「俺はな、家族のためにも生きていたい。出来れば永遠に、生きていたい。俺は生きて、家族を守りたい。永遠に一緒にいたいんだ。俺が死んだら、そこでお終いだろ?」
キースが死んでも、キースの心は生き続けます。
「俺以外の家族の人生は続いていくだろうな。けれどそこに、俺がいない。そんなのは嫌なんだよ。この世界はな、俺を中心に回っている。俺がいない世界なんて、寂しすぎるだろ?」
僕にはその言葉の真意がわかりませんでした。ただの自分勝手な発言にしか、当時は聞こえていませんでした。
「自分が生きていれば家族は死んでもいいっていうのかい?」
「それは違うんだ。お前はなにもわかっていない。家族は大事に決まってるだろ? けれど俺はな、偽善者じゃない。家族のためにと、自分の命を捨てたりはしない」
「見捨てるのというのか!」
「そう慌てるなよ。これは例えの話だろ? 俺はな、決して見捨てたりはしない。ただ、身代りに死のうなんて考えない。みんなが生きることを考えるんだ。俺自身も、家族も、全てを守ってみせるのさ」