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「俺の身体はもう限界なんだ。まともにベースを弾くことも出来ないんだよ。ツアーに出るなんて、問題外だよ」
ビルは震えているその手を、僕に差し出しました。
「それにもう、十分やってきただろ? 目的はとうに果たしている」
僕はその言葉を勘違いしてしまいました。
「確かにビルは、金には困っていない。これからも、末代まで困ることはないだろうね」
僕のその言葉に、ビルの視線が痛く突き刺さりました。僕はそのまま、言葉を続けました。ビルは哀しそうな目をして僕の顔を見つめていました。
「それはキースたちも同じだ。それでもキースは、音楽を止めたりはしない」
ビルのこぼしたため息が、深かったのを覚えています。
「俺とキースは違うんだよ。それに俺は、金の話はしていない。金なんて、使えば消えてしまう。好きだけど、興味はないんだ」
「ビルの目的って、なんだい?」
「俺だけの目的じゃない。キースやミックも、同じ目的の元にバンドを続けてきたはずだよ。自由に生きていたい。世界中に音楽を溢れ出したい。それだけのために始めたことだろ?」
確かにその通りではありますが、目的はまだ、続いています。
「キースたちはまだ、満足していないだけだよ。あいつらはいつまでも転がり続けるんだ。けれど俺はもう、転がる元気を失ったんだ」
その時、ビルの座っていたソファーに孫娘が飛び乗りました。二歳になったばかりの、笑顔が可愛い子でした。ビルは孫娘を抱き抱え、その子とそっくりの笑顔を浮かべました。
ビルの笑顔が、答えになっていました。ビルは、本当の幸せを掴んでしまったようです。