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「お前の勘が外れることもあるんだな!」
キースは大きなその口を、いつも以上に広げて笑っていました。
「・・・・彼が悪いとは言わないよ。けれどやっぱり、僕の好みじゃない」
二千九百四十七年六月一日、ロン・ベックはこの世に生まれました。中流階級の家庭に生まれ、音楽とは無縁の幼少生活を送っていました。
「僕はそうだね、ライク・ア・ローリングストーンを聴いて音楽を知ったんだ。僕だけじゃないか。当時は誰も、音楽なんて聴かなかった。ライク・ア・ローリングストーンがいなければ、今のような世界にはならなかったと思うよ。当然僕も、音楽なんて好きにはならなかった」
ロンはライク・ア・ローリングストーンの音楽を聴き、ミックのギターを聴いて音楽を始めました。ギタリストのスタートとしては、順調ではありませんでした。
「プロになるのは、難しかったよ。僕はあまりギターが上手じゃなかった。ただ好きで弾いていただけなんだ。ミックのようになりたい。ずっとそう思っていた。今でもそうだな。僕の憧れは、ミックなんだ」
ロンは地元の学生たちとバンドを組み、毎日のように演奏をしていたといいます。文化祭や学校の教室で、小さなライブを開いていました。
「ライク・ア・ローリングストーンの曲は全てカバーしていたよ。弾けない曲は一曲もないね。僕がバンドに入れたのは、その経験のおかげなんだ」
確かにキースは驚いていました。ロンの加入はテイラーの時とは違い、まずはスタジオで音合わせをし、その勢いのままにジャムセッションをし、加入が決定しました。その時に新曲のアイディアが生まれたと、キースは興奮気味に伝えてくれました。
「ロンのギターは普通だな。決してミックの邪魔をしない。それでいて、いなくなると寂しく感じる。不思議なプレイヤーだな。それにロンは、俺たちの曲を全て覚えている。ある意味では天才だな。一度弾いた曲は忘れることがないそうだ」
ロンの加入は、その日に決定されました。しかし当初、ロンは正式メンバーではなく、サポート扱いになっていました。現実はメンバーの一員として行動をし、レコードのクレジットにもメンバーとして名前が載っていました。ただ契約上、給料制になっていたのです。その契約は、五年間ほど続けられました。その後正式に、メンバーとしての契約を交わしました。
「またすぐにバンドを辞めたいと言われては困る。それだけの理由だよ。ロンは納得してくれた。問題はないだろ? 俺たちはロンを差別したりはしていない。メンバーとして扱っている。ロンは立派な、俺たちの家族だ」
ロンのギターの評判は学生の間では高い評判になり、いくつものバンドから誘われ、サポートとして活躍していました。
「僕はいつでも二番手だよ。ソロを弾くのは好きじゃない。サポートをするのが、僕には合っているんだ」
サイドギターとしてのロンは、人気が高く、特にミュージシャンたちから高く評価されています。一般的にはその知名度も含めてパッとしないのが現実なのですが、ロンのギターがないと、不思議と寂しさを感じてしまいます。ライク・ア・ローリングストーンは、わざとロンのギターを排除し、その独特の寂しさを演出することがあるほどです。
「今でもそうだけど、当時からバンドでの一番人気はギターだった。ギターを弾いていると、それだけで女の子にモテるんだよ。僕がギターを始めた理由は、それが一番だね。ミックのようになれば、きっとモテると考えたんだ。けれど現実は、そう上手くはいかなかった。僕のギターは今一つだからね。時にはベースを弾くこともあった。ベースは、人気がなかったんだ。僕はたまたまベースを一本持っていたから、よく弾かされたもんだよ。けれどその時の経験のおかげで、僕は音楽をやり続けることが出来た」
ギタリストとして音楽生活のキャリアをスタートさせたロンでしたが、本格的にデビューをしたのとは、ベーシストとしてでした。
「ジェフと僕は以前から友達だった。ジェフは当時から有名だったけれど、僕が演奏をしていたライブハウスによく顔を出していたんだ。どういう訳かジェフは、僕を気に入ってくれたんだ」
そしてロンは、ジェフのバンドに参加することになりました。
「嬉しい誘いだったよ。ジェフは僕にとって、ヒーローだったからね。ジェフのギターを聴いて衝撃を受けないギタリストなんていないだろ? けれどまさか、ベーシストとして誘われるとは思いもしなかったけれどね」
ジェフのバンドに参加したことにより、ロンの知名度は一気に上がりました。ロンはジェフのバンドでレコードデビューを果たしたのです。バンドは二枚のレコードを発表し活動停止してしまいましたが、その後にロンは自身のバンドを組み、人気を博していました。ロンの人気があったというよりも、ボーカリストに人気が集中していました。ジェフのバンドでも一緒だった、ロッド・マリオットがその人です。ロッドはその後ソロになり、大成功を収めました。
「僕はギタリストに戻ることができ、ホッとしたよ。今でもたまにベースを弾くことがある。ベースはベースで楽しい楽器だよ。けれど僕にとっての一番は、ギターなんだ。それにしても驚いたよ。僕をライク・ア・ローリングストーンに紹介してくれたのはジェフだろ? ジェフは僕をベーシストとして見ていると思っていたんだ。けれどジェフは、僕をギタリストとして紹介してくれた。これはとても誇り思うべきことだね」
ロンがライク・ア・ローリングストーンへの参加が決まるとすぐ、数ヶ月後には新しい作品が発表されました。