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広告に使われる曲は、短いものです。一曲丸ごと流れるのではなく、ほんの数十秒だけが使われるのです。インパクトがあり、耳触りのよい曲が求められます。
それが間違いの始まりだったと、僕は感じています。広告に使うための、耳触りのよいだけの音楽が溢れてしまったのです。
「音楽の楽しみ方は様々だ。とっかえひっかえも悪くはないけど、意味がないのも確かだな」
ライク・ア・ローリングストーンが広告に曲を提供したのは、一度きりです。その後はいくら大金を積まれても、許可していません。
「俺たちの時代はもう、終わりなのかもしれないな」
「キースの時代は、永遠だよ」
「俺たちはただ、転がっていただけだ。もう限界なのかもしれないな。壁にぶつかり、勢いをなくしている」
「それは違う。今でもまだ、勢いは保っている。ただ少し、世界の考えが変わったのかもしれない」
「なんだ? それは? 世界なんて関係ないだろ? 俺たちはそんなものをぶっ壊しながら進んできたんだ」
それもまた、世界の答えなんだとは言えませんでした。ライク・ア・ローリングストーンが世界を変えることが出来たのは、キースの歌に力があったからだけではないのが現実です。世界がそれを求めていただけなのです。直接キースの歌を、音楽を求めていたとはいえませんが、世界を変える力のあるなにかを求めていたのは確かなことです。そこにタイミングよく、彼らが登場しました。実力だけで世界を変えるのは難しいのです。タイミングが合わなければ、ここまで偉大にはなっていなかったことでしょう。彼らがいなければ、他のなにかが代頭していたはずなのです。その時の時代が求めた答えが、ライク・ア・ローリングストーンだったのです。
「今が限界かもしれないと感じている。新しい波には、逆らえないからな。テイラーと一緒に色々と新しいことが出来たのは、楽しかった。テイラーがいなくなる今、その楽しみは幻だ」
僕はすぐに、キースのその言葉の意味を理解出来ませんでした。
「そんなことないさ。テイラーは素晴らしいギタリストで、作曲家だろ? 世間がなにを言おうとも、僕は今のライク・ア・ローリングストーンが好きだ。新しい音楽を吸収している。今はそう、勉強の時期なんだよ。これからが楽しみだ」
「お前はなにかを勘違いしているな。俺たちは今までの作品に満足している。世間がなんと言おうと、いいものはいいんだからな。テイラーのことも、最高だと思っている。だからこうして悩んでいるんだ」
僕はようやく、おやっ? と感じました。そしてしばらくの沈黙を作り、考えました。答えは、単純でした。
「テイラーが辞める?」
「・・・・そういうことだよ。バンドでの生活に疲れたそうだ」