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 僕はすぐにその彼に連絡を取りました。彼が言うには、すぐには無理だそうなのです。つまりは、すぐにでなければ、無理ではないということです。その意思があって彼がそういう言い方をしたのかは別として、僕はそうとらえたのです。そしてその言葉を聞いた次の日に、彼の自宅を訊ねました。その日彼が自宅にいることは、リサーチ済みでした。

 二千九百四十八年一月十七日、キース・テイラーはこの世に生まれました。偶然にも、キースと同じ名前だったので、みんなからはテイラーと呼ばれていました。

 彼らの生まれた地域では、キースという名前は珍しいものではありませんでした。昔からよくある、平凡な名前です。

 テイラーは、ビルと同じように下流階級の貧しい境遇の中で育ちました。ギタリストではありましたが、ビルのことを尊敬し、その影響を受けていると言っています。僕が聞いた感じでは、まるでそんな影響を感じられませんでした。テイラーのギターは、案外ときっちりしていたのです。

 案外なんていう言葉を使ったのは、ブライアンと比べれば少し、自由な演奏をしているからです。キースとブライアンを足して二で割り、そこにほんの少しのスパイスを利かせたようなギタリストが、テイラーなのです。

「俺を誘うつもり? 昨日も話したろ? 今すぐは、無理なんだよ。わざわざ来てもらって悪いけど、帰ってくれないか?」

 テイラーは僕のことをまるで新聞の勧誘とでも勘違いしているかのように、煙たがり、追い払おうとしていました。

「そんなに必死にならなくてもいいじゃないか? そんなに僕が、恐いのかい?」

 テイラーは驚いた顔を僕に投げかけました。僕にはその理由がわかります。テイラーは、本音では今すぐにでもライク・ア・ローリングストーンのメンバーになりたいと、もしくはなってもいいと考えていたのです。しかし、それは難しい話でした。その当時のバンドとの契約があり、身勝手なことは許されなかったのです。それでも僕に勧められれば心が緩んでしまうと考えたのでしょう。僕とは話がしたくないようでした。僕の目を、意識して見ようとはしませんでした。

「・・・・そんなことはない」

 なんだか僕は、テイラーをいじめているような気分になっていました。テイラーは、子猫以上に瞳をプルプルとさせていました。

「僕はただ、君と話がしたいだけだ。ただ、それだけだ」

 その言葉は、大ウソでした。僕は初めから最後まで、テイラーを説得するつもりでいたのです。

「君のギターは、素晴らしいと思うよ。それは僕だけでなく、きっとキースやミックも感じている。君にブライアンの代わりが務まらないのはわかっている。僕はそんなつもりは全くないからね。ただ、君のギターと、ミックのギターが重なり合う姿を見てみたい。君たちの背中にはチャーリーがいて、ビルもいる。そして全ての上を、自由にキースが舞い踊る。想像しただけでも感動的だよ」

 僕の言葉を聞いている最中に、テイラーはその表情をわかりやすく変化させました。僕が話し終えた時には、満面の微笑になっていました。

「キースがそう言ったのか?」

「これはあくまでも、僕の勝手な意見だよ。キースもミックもまだ、僕が君を誘っていることを知らない。僕はキースたちにただ、いいギタリストがいるからと、話しただけだ。今度連れて行くと約束をした。けれど安心していい。君がその気なら、間違いなくみんなは君を気にいるよ」

「・・・・俺はどうすればいい? バンドとの契約が残っているのは事実だ」

 それがテイラーの答えでした。つまりは、契約さえ切れれば、メンバーになりたいということです。僕はすぐに、テイラーのいたバンドに連絡を取りました。話はとても簡単でした。バンド側は、金さえ払ってくれればすぐにでも契約を解除すると言ったのです。

 僕はすぐ、キースに全てを話しました。キースは即答で、金なら払うと言いました。まだテイラーと顔も合わせておらず、そのギターも聞いていないのにです。キースは完全に、僕を信頼してくれていました。それは他のメンバーも同じようでした。僕が新メンバーであるテイラーを連れてくると、その日を楽しみに待ってくれていたのです。

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