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 最近になって、ソロでのライブをしようという話も浮上したのですが、結局は実現せずに終わってしまいました。ただ、キースは一度、僕の娘の結婚式の二次会で、作品の中から数曲を演奏してくれたことがありました。素晴らしい演奏だったと記憶しています。娘の結婚に舞い上がり、半分酔っぱらっていたことを後悔しています。

 キースがソロ作品を出すと、他のメンバーもすぐに後を追いました。キースの作品が世間からバッシングを受けていたにもかかわらず、メンバーたちにはやはり、素晴らしい作品に感じられていたようです。刺激を受け、自分もバンドとは違う表現をしたいと考えたのです。

 その結果、ソロ作品が一般常識になりました。今ではバンドからソロ作だけでなく、初めからソロとしてデビューしている歌手も多いのですが、その始まりは、ライク・ア・ローリングストーンのメンバーたちがソロ作品を立て続けに発表をしたからなのです。

 ミックの作品は、当然のように最高でした。しかし少し、つまらなく感じたのは僕だけなのかもしれません。当時のライク・ア・ローリングストーンの曲は、多くの曲でミックがその全体像を生み出していました。そのため、ミックのソロ作品は、ライク・ア・ローリングストーンに通ずる部分が多く、その歌声がキースでないことが、耳に妙な引っかかりを持たせてしまいました。決してミックの歌声が悪いわけではありませんが、ライク・ア・ローリングストーンの曲には、やはりキースの声が似合います。僕としては、ミックの違った一面を見たかったと、がっかりしてしまったのです。

 ビルの作品は、なんというか、不思議な味わいを持っていました。誰にも真似のできない自由な曲を作り、ライク・ア・ローリングストーンの作品の中でコーラスとして見せるその奇妙な歌声を前面に披露してくれています。ビルの歌声は甲高く、鼻づまりのようでもあり、聞いていると自然に笑顔がこぼれてしまいます。僕はその作品を、今でもよく聞いています。僕にとっての、笑顔の元になっています。

 チャーリーの作品が、一番の驚きでした。ブライアンの作品を含めた五作品の中で、一番の売り上げを見せています。再評価後には、世界一位の称号も得ているのです。

 チャーリーの歌声が、驚きの元でした。甘い歌声は、穏やかな気分を与えてくれます。今ではチャーリーの真似をした歌い方の歌手が多く存在しています。

 しかし驚きは、それだけではありませんでした。一番の売り上げを見せたのには、それなりの理由があったのです。他のメンバーの作品は、全て一人で曲作りをし、作品を仕上げたのですが、チャーリーの作品は違っていました。ライク・ア・ローリングストーンのメンバー全員が、協力をしていたのです。キースもミックも、ビルも曲を提供していました。全ての曲ではないのですが、演奏にも参加をしています。それに加え、ブライアンからの曲提供もあったのです。チャーリーの作品は、ソロ作品であるのと同時に、ライク・ア・ローリングストーンの新作としてとらえることも出来るような内容になっていたのです。歌声が違っていたのですが、そんな歌声も、好きだったのです。

 そしてもう一人、イアンもまた作品を発表しました。彼にとって、その時の作品がデビュー作です。後に自身のバンドでもデビューをしているのですが、あまり評価はされていません。今でこそイアンはライク・ア・ローリングストーンの第六のメンバーとして認知されているのですが、当時はただのサポート扱いであり、世間からはまるで注目を集めませんでした。


 ソロ作品が出揃ってからも、彼らはなかなか新作の準備に取り掛かろうとしませんでした。

「俺は少し、疲れてしまったな。新しいギタリストは、無理なのかもしれない」

「それならこのままでもいいんじゃないかい? 四人での演奏も、悪くはない」

 キースは眉間に皺を寄せ、腕を組み、じっと僕の腹部を見つめていました。

「・・・・そうなんだよな。四人でも悪くはない。けれど・・・・」

 キースはその続きを言いませんでしたが、僕には理解が出来ました。悪くないけれど、よくもないのです。

「・・・・少しだけ、心当たりがある」

「本当か? 誰だ! 俺は世界中のバンドを探したんだぞ!」

 キースは当時、知り合いのバンドに誰かいいギタリストはいないかと、やたら滅多に声をかけていました。答えはみんな、共通していました。いいギタリストはいても、暇なギタリストはいないと言うのです。ライク・ア・ローリングストーンのメンバーになれるようなギタリストは、難しかったのです。

 今の感覚では信じられないことです。今なら有名バンドのメンバーになれるといえば、誰もが喜んでなりたいというのですが、当時はそういうわけにもいきませんでした。簡単にバンドを乗り換えるわけにはいかなかったのです。それだけでなく、当時は今よりもライク・ア・ローリングストーンの存在が大きく、音楽の世界では神のような存在だったので、そのメンバーになるということは、畏れ多いことだともいわれていたようです。

 そんな中、僕には一人だけ、当てがありました。有名とは言い切れませんが、僕が好きなバンドでギターを弾いていました。そして彼は、そのバンドの正式メンバーではなく、イアンのようにサポートとして参加をしていたのです。そんなギタリストは他にもいるにはいたのですが、僕がいいと感じたのは一人だけでした。以前から知り合いで、何度か話をしたこともあり、そのギターの音色や演奏だけでなく、音楽に対する姿勢も、ライク・ア・ローリングストーンには上手くはまるような気がしていました。ブライアンとそっくりというわけではありませんが、雰囲気として、似ている部分もあります。しかしまさか、あれほどまでに上手くはまるとは思ってもしませんでした。

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