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初めはよかったのです。七枚目以前は、ブライアンの新しい楽器演奏がその曲にインパクトを与え、新しい音を生み出していました。しかしライブを再開してからは、それらの演奏が邪魔になることが多く、結果として、ブライアンの演奏するギターの音さえ邪魔となってしまっていたのです。
「それでも俺は、ブライアンを必要としている」
「それは僕だってそうだ。誰がなにをいっても、ライク・ア・ローリングストーンには、イアンと僕を含めた七人が必要なんだよ」
「・・・・? お前も入るのか?」
僕とキースは、ブライアンの自宅を訪ねることになりました。キースが一人で話すのは気が重たいと言ったので、僕がついていくことになったのです。僕が行くよりも、本当はミックが行くべきだと思っていました。後で聞いたところによると、ミックもそのつもりでいたそうなのですが、キースはなぜだか僕を指名しました。僕もブライアンと話をしたいと思っていたので、断る理由がなくついていくことになりました。しかし、その判断が間違っていたと、すぐに後悔をしました。その後悔はあっという間に大きく成長をし、いまだに悔やみきれないでいます。無理にでもミックを連れていけば、結果が変わっていたのかもしれないと思うと、後の原因が僕にあるように感じてならないのです。
「どうして俺になんの相談もしなかった? 俺たちは、家族だろ?」
ブライアンはバンド脱退の報告を、当時のマネージャーに伝えただけでした。メンバーにはなにも言わずに静かに去ろうと考えていたのです。キースの突然の訪問に、かなりの驚きを見せていました。
「そ、そそそそれとは違う問題だ」
どもるブライアンの姿を、初めて目にしました。
「ぼ、僕はもう、嫌なんだよ。バンドとしての行動は、共に出来ない。僕は、一人になりたいんだ」
ブライアンは少しずつ、冷静を取り戻しながら話をしていました。初めはそむけていたその視線を、しっかりとキースに向けていました。
「これからのことも、考えているんだ。僕は一人で、作品を作るよ。そのための曲はもう、ほとんど用意が出来ているんだ」
当時の考え方として、それはとても画期的なことでした。バンドを辞めること自体が信じられない行為だったのですが、そのバンドを辞めたギタリストが一人で作品を発表するなんて、誰が思いつくというのでしょうか? 一度辞めてしまえば、二度と元には戻れないというのが、なんに対してでも、世間一般の考えだったのです。バンドを辞めるということは、音楽を辞めるということです。音楽を続けた上で、一人でやり直そうという考え方は、あり得ませんでした。会社を辞めてしまい、同じ業界で一人立ちするというのと同じ考えです。そんなことは、当時はあり得ないことでした。ブライアンの行動を機に、一般として広がっていったのです。