第三章、1
第三章、二千九百六十九年~二千九百七十年
ブライアンが突然、バンドを辞めたいと言い出しました。インタビュー記事を書いていた僕にとっては、それほど意外なことではありませんでした。メンバーたちは驚いていました。その中でもキースの驚きようは、特別でした。
「どうしてなんだ? 俺には意味がわからない! ブライアンがいなければ、ライク・ア・ローリングストーンは成り立たないだろ!」
「そう思っていたのは、キースたちだけだったんだよ。ブライアンは、ずいぶん前から悩んでいた。僕はそれに、気がついていた」
「だったらなんで! 俺に知らせないんだ!」
「僕はブライアンの言葉を記事にしていたよ。けれどキースは、読まなかった。僕に出来るのは、そこまでなんだ。それ以上を伝えることは、出来ない。こういう問題は、本人の口から伝えるべきだ」
「これから俺は、どうすればいい? ブライアンなしに、ライク・ア・ローリングストーンの音楽はあり得ない」
「・・・・僕の書いた記事を読むといいよ。少しはブライアンの気持ちがわかるだろうから」
僕はキースに、ブライアンが今後のバンド活動についての悩みを語った記事が載っている雑誌を渡しました。キースはその場で箱を開き、読み始めました。
「これがブライアンの気持ちだよ。僕はこの言葉を個別に聞き出したわけじゃない。普段の会話の中から拾った言葉だよ。ブライアンはスタジオの中でも、悩みを吐き出していた」
ブライアンとミックは、そのギター演奏について揉めることが多くありました。正反対のスタイルを持つ二人ですから、当然のことともいえます。そんな二人をまとめていたのはキースでした。しかしそのキースも、七枚目以降から徐々にミックの意見を尊重するようになっていました。ブライアンの演奏を直接否定することすらありました。バンド内でのブライアンの役割は、傍目からも減っていたのがわかるほどでした。
その理由は、ブライアンの音楽性が徐々に傾き始めたからでもあります。ブライアンはツアーの合間や作品作りの合間に世界中の音楽を聞き集め、吸収していました。世界中から様々な楽器を集め、その演奏を楽しんでいました。その影響が、悪い方向に出始めていたのです。