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記憶装置の使い方は様々です。当時は僕たち一般には知らされていなかったのですが、その記憶の全ては光を使って常時自動的に世界を支配していた会社に送られていたようです。つまりは、僕たちの考えていることが全て筒抜けだったのです。会社側は僕たちの考えを、把握しようとしていたのです。
結果としては失敗してしまったのですが、それにも理由があったそうです。僕たちが生まれた頃から、世界は少しばかり変調の兆しを見せていたらしいのです。世界中で会社同士の派閥争いが激化していたと言います。
キースだけでなく、僕たちの考えや言動は、確かに会社側に伝わっていました。しかし会社側として、当時は相手にしている余裕がなかったのです。キースの考えや行動が広く世間に伝わるとは考えてもいませんでした。そしてその脅威に気がついた時はもう、手遅れになってしまいました。彼らはデビューすると同時に世界的な地位と名声を手に入れてしまいました。しかし七枚目の作品にはさすがに驚きと危機を感じたようですが、どうすることも出来ませんでした。そしてその後の倒産への道を、この頃から静かに歩み出していたのです。
「いったいどうしてだ! 俺たちのライブを台無しにしてなにが楽しい! 最高の作品を生み出したっていうのに、それの演奏も出来ない! 俺たちは我慢をしてるっていうのに、普通に歌うことも出来ないのか!」
キースは事件によってライブが中止になったことに対し、相当な怒りを感じていました。その怒りを僕にぶつけました。僕は頬に、大きな青痣を頂戴しました。
「どうしてあの二人を殺したんだい? 犯人は、誰なんだ?」
「そんなの知るかよ! 人が人を殺すのに、理由なんてないだろ? 意味もなく殺し合う。それが人間の特性だ」
キースの言う通りだと、今では思います。今の世の中は、毎日のように殺し合いをしています。キースが死んでしまったのも、その一部にすぎません。しかし当時は、銃を使っての殺しは大変珍しい大事件だったのです。