補足②
補足 ②
ライターとしての僕の仕事は、半分は創作活動でした。キースたちはまともにインタビューなど受けてはくれません。
「お前は俺たちのことをよく知っているんだ。適当にそれらしく書いてくれればいい。足りない情報は、質問してくれたら答えるよ」
記憶装置からキースたちの普段の言葉を聞き直し、その時の空気を思い出しながらインタビュー記事を書いていました。雑誌会社の要望を聞き、それに合わせた質問を考え、キースたちが言いそうな言葉を探し出し、当てはめていました。中にはその言葉を創造することもあります。キースたちならこう言うだろうということは、普段の付き合いから想像がつくのです。
「上手いもんだよな。まるで本当に俺たちが喋っているようだ。これからも頼むな」
僕の書いた記事について、彼らからの文句は一度もありませんでした。
記憶装置は、全ての人に埋め込まれていました。当時世界を支配していた会社が権力を持っていた時代に生まれた者はみんな、誕生と共に脳に植え付けられていたのです。小さなもので、脳を傷つけることもなく、成長の妨げにもなりません。記憶装置には、生まれてからの全ての会話が記録されています。本人の声だけでなく、話し相手の声も全てです。心の中の声もまた、記憶されるのです。
その記憶装置はそのままIDにもなっています。クレジットカードの役割も担っていました。銀行の光装置に金を入れておけば、その情報が記憶装置に送られるのです。銀行に金が入っていれば、現金を必要としません。便利ではありますが、つい無駄遣いをしてしまうのが難点でした。しかし当時世界を支配していた会社が倒産してしまってからは、IDやクレジットとしての機能は失われています。ただ、記憶装置としては今でも使用することが出来ています。この伝記本を書くにあたっても、その記憶が役に立っています。
インタビュー語録 ①
「俺はただ好きなように歌いたいだけだ。音楽は素晴らしい。俺の歌声を聞いてそう感じてもらえると嬉しいね」
「俺たちの出会いなんて、どうでもいいだろ? そんなのを聞いてどうする?」
「人気者になりたいわけじゃない。俺はただ、歌を歌いだけなんだよ」
「この騒ぎが俺たちのせいだっていうのか? それは違うだろ? 俺たちはただ、好きな音楽を楽しんでいるだけだ。周りもやっとそれに気がついたってだけだろ?」
「街中に音楽が溢れたことは、幸せなことじゃないのか? 違うのか?」
「いい迷惑をしているよ。俺は普段通りに生活をしているだけだっていうのに、周りが騒ぎ出す。俺なんかに付きまとってなにが楽しいのかね?」
「この作品の説明? そんなのは聞けばわかるだろ?」
「俺たちは一曲一曲に魂を込めている。それが伝わっているからこそ、こんな時代にも受け入れられたんじゃないのか?」
「曲作りにコツなんていらないね。感情を表に出せばいいだけだ。ミックとブライアンがギターを弾いて、ビルがベースを弾く、そしてチャーリーのドラムがあれば、俺の歌が自然に生まれるんだ」
「あのライブは最悪だった。周りはどうかしているな。あんなんでよくも楽しめたもんだよ。俺たちは全く楽しめなかった。金儲けをしただけだ」
「もう二度とライブはしたくない。その必要を感じない。大昔のビートルズと一緒だよ。意味のないことはしたくない」
「ビートルズを超えたかって? その判断はお前に任すよ」
「キリスト以上・・・・ そんな言葉、今の時代じゃ意味ないな。誰もキリストなんて知らない。俺もそうだ。ビートルズの資料で読んだだけだからな」
「今後のことなんてわからない。俺たちは自由に生きていくだけだ」
「マネージャーのことが聞きたいのか? そんなのを聞いてどうする? 俺たちの音楽とは関係のない話だ」
「もっと多くの音楽を届けたいと考えてはいるな。これからきっと、俺たちの真似をする奴らが現れるだろうな。音楽が文化として認められる日は、もうすぐだよ」
「俺は別に話すことがない」
「曲作りには関わっている。俺とキースの表記になっているけど、実際はみんなで作っているんだ。キースや俺が持ちよせた曲を、みんなでいじって作り上げている」
「いい作品が出来たとは思っている。地下での音楽に比べれば、圧倒的だな」
「ライブの時代はまだ、遠い。客はみんな、俺たちの姿を見に来ているだけだ」
「音楽は家で聴けばいいとでも思っているんだろ? 今はまだ、それでもいい。その内みんなも気がつくだろう」
「俺は一生音楽を楽しむって決めてあるんだよ」
「そうなんだよ。僕がリーダーってことにはなってるんだ。けれど現実、キースとミックがいなければ、このバンドは成立しない」
「確かにそうさ。キースとは義兄弟だよ。けれどそれが音楽となんの関係があるっていうんだ?」
「僕たちの今後がどうなるかって? バンド名を見ればわかるだろ?」
「俺は落ちこぼれさ。そういう家庭に育ったんだからな。けれど別に、拗ねてなんていない。生まれがどうであれ、そんなことは二の次だ。本人次第でなんとでもなるんだよ。俺はそうやって這い上がってきた」
「このバンドには俺のような存在が必要なんだ」
「僕はそうだね、この騒ぎを楽しむことにしている」
「父親の話が聞きたいのかい? それを記事にすると、社会問題に発展するよ」
「けれど知らなかったよ。みんながこんなに音楽に飢えていたなんてね」