雨空カーテン
窓辺でギターを弾く花のおもちゃが歌を歌っている。
今日の天気は曇り。
どんよりとして、今にも雨が降り出しそうである。
私の名前は、陽呼子。
大学生でバンドをしている。
担当は、ギター兼ボーカルである。
今日は空と同様、どんよりとした気持ちになっていた。
なぜなら、最近、自分がボーカルを務めるバンドのライブでうまく演奏ができないためである。
さらに、バンドメンバーではないが、他のバンドの人から
「陽呼子ちゃんの新曲、暗いよね。私はあんまり暗い歌は好きじゃないんだけどね。」
と言われたからである。
分かってはいるけど、悔しかった。
悩んでいてもしかたないとは思っているが、どうしても悩んでしまう性格であった。
陽呼子は、悲しげにじっと窓辺においたギターを弾く花のおもちゃを見つめていた。
「タイヨウ」という名前をつけたお気に入りの黄色い花のおもちゃである。
陽呼子は、考え事をしていた。
「黄色いお花のタイヨウ。
幼い時に両親から誕生日にもらったタイヨウ。
とても大切にしているタイヨウ。
タイヨウはいつも窓辺でギターを演奏しているなぁ・・
晴れた日も、曇りの日も、雨の日も、雪の日も。
まるで、窓から見える風景も自分のステージの一部にしているみたい・・
青空、雨、雪、雷、星、街、木々、花、鳥、風、月。
あらゆる天気や景色を演出に変えて、そのステージでギターを演奏しているなぁ・・
今日はどうだろう?
どんよりとした曇り。
タイヨウも、この曇り空のような気持ちを歌っているのかな?」
すると、遠くの方で雨が降り出した。
遠くの方で空が泣いていた。
遠くで降る雨の流れは、まるで白いカーテンのようにゆらゆらと揺れていて、なんだか幻想的であった。
陽呼子は、その白いカーテンをぼんやりと見ていた。
「遠くで降る雨が白いカーテンのようにゆらゆら揺れる。
名付けるなら、『雨空カーテン』かな・・」
しばらくすると、今度は雲間から太陽の光がゆらゆらと照らし始めた。
その太陽の光線は、雨空カーテンを超えてこちらの方を照らしだした。
タイヨウも、太陽の光で照らされていた。
「まるで、太陽の光線がタイヨウへのスポットライトみたい・・」
陽呼子は何かを悟ったように感じた。
「きっと、雨空カーテンを開くと、そこにはステージが広がっているんだなぁ。
そして、太陽というスポットライトがそのステージを照らしてくれるんだなぁ。
タイヨウは今、そのスポットライトに照らされ、そのステージの上で演奏をしている。
その姿は、とても輝いて見える。
私もタイヨウのようにステージの上で輝きたいなぁ・・
いや、私もきっと輝けるはず。
たぶん、雨空カーテンは涙のカーテン。
太陽の光は、笑顔の輝き。
涙を流すようなつらいことがあっても、その涙のカーテンを開けて、笑顔になれば、きっと自分のステージが現れる。
そして、そのステージで自分を表現すれば、きっと輝くことができるんだ!
なんだか、無理矢理だけど・・きっとそう!
そう信じてまた頑張ってみよう!」
そう思っていると、なんだか笑顔になれた。
陽呼子は、タイヨウに「ありがとう」というと、「よし!頑張ろう!」とギターの練習を始めた。
空には、ステージに華を添えるように虹がかかっていた。
(おわり)