壊れた歯車の行く末は-薄純の過去-
長々と続いた地獄の会議が終わり、他の連中が打ち上げだのの話を進める中、通路へ歩みを進める。
宇田川は陰鬱な顔で1人で帰っていた。
っへ、ざまあねえなw
俺も1人です。すみませんでした。
通路を抜け、少し広めのエレベータホールに出てくる。
ここには何年もいるが、大きな会議用のこのフロアにくる回数は極端に少ないので、妙な胸騒ぎを感じた。
そもそも、俺はこんな場所に入れるような人間ではないのである。
全国の6支部、関東の本部、各々の最高権限を持つ、司令官によって行われる『色彩』。
俺は本部の代表として出席した訳で、本来の出席者は水無月美久であるのだが、急用だがなんとか言って押し付けてきたわけだ。
まあ、いくら代理でも俺みたいな部外者が立ち入っていい場ではないはずなのだが。
...ったく、旅行でも行ってたら殴り殺してやろう。
エントランスまで降りてくると、受付の人に軽く会釈をして、建物を出る。
連日続く炎天下、流石にスーツは暑苦しい。
すぐに隣接した建物に入る。
本部に比べて一回り小さいが、ここは局員とその関係者の寮というわけだ。
局員は外部との接触を断たれ、身内もまとめてこの寮に住まわされる。
情報漏洩を防ぐためなのだろうが、局員をそれだけ信用していないともとれるだろう。
この牢獄に叩き込まれたその後の処置について詳しくは知らないが、半ば行方不明扱いにでもされるのだろう。
友人やその類には、手を触れることは愚か、顔を合わせることも許されない。
エレベーターから降り、「602」と書かれた部屋のインターホンを鳴らす。
ドドドドドドドド......
壮大な足音が徐々に扉に近づいてくる。
ここ、防音なはずなんだが.......。
「おかえり!!」
勢いよく扉を開け、出てきたのは、少しカーブの掛かった癖のある黒髪、黄色いTシャツにショートパンツ、かなりラフな格好をした我が妹、水無月蘭である。
「昼、何食った?」
蘭の後についていくように狭い廊下を通っていく。
「自炊したよ〜」
あの蘭が自炊.....!?
「カップラーメン!」
「ま、そんなことだろうと思いました。」
「なっ、失礼な!!こんなに家事のできる中学生はなかなかいませんよ?!蘭は将来、きっといいお嫁さんになります!」
「お...おう」
謎テンションの蘭から避けるように自室に入る。
扉を開け、まず視界に入ってくる1枚の写真立て。
自分の無力さを知らない、愚かで、気持ちの悪い少年と、それに幾度と殺された少女。
かつて、初めて『魔女』の存在が確認された事件、
1人の少女の自殺によって始まった悲劇。
それに深く関与する少年が1人。
名を、水無月裕也と言う。
少し過去の話をしよう―