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7話-コルド村

 この村は傾斜を利用して作られていた。

 背後には見上げるほどの絶壁がそびえ立ち、上流になる壁の洞窟から出てくる大量の水は、下流に向けて流れの速い川を作り、村の外周を囲う。

 背後の絶壁。正面の川。そして川岸に打ち付けられた杭によってキャンサーの進入を拒む。


 村の名前は『コルド村』

 ここは、ゆっくりとした時間が流れており、行きかう人々の顔には笑顔もみえる。

 村というほどに小規模でもなく、武器屋や服屋、食料品店など様々な店もあり、小さな宿場もある。村人は田畑や川に漁に出たりしており、この村にはキャンサーの被害が少ないことが伺える。

 川の流れを利用した水路は、斜面に広がる田畑へ流れ、石の住居が並ぶ区画の中心には、常に流れ続ける水場もあった。


「ここは、なぜかキャンサーが少ないから、不思議だよなぁ」

「地形的な事もありマスが、きっとMissキルピヴァーラのような討伐屋(サブヂャゲーター)の方々が度々訪れるからでショウ。私達もよく来る村デス」

「そうだよ。ここから北はサーバタウン。南はコンディ。東はケブーラ。北東はミット。西は遠いけどサークルランバートシティがあるからね。交通の中継地点として皆よく立ち寄る村だよ」


 村へ繋がる石橋を歩きながら話をしているコスティ達一行がいた。石橋から見る川は澄んでおり、流れの速い川の中でも泳いでいる魚が見える。

 この石橋は、上流と下流の二箇所に存在し、この村の重要な要所となる為、橋の入口には木と鉄で出来た櫓門が建設されていた。

 石橋から少し離れた場所では、川の水が岩に打ち付け、濁流となり轟々とした川の音が聞こえる。

 ケブーラの町もそうだったが、キャンサーがいるこの時代は、殆どの都市や町や村で天然の地形を利用した防衛策を講じており、大なり小なり要塞のようなっている。


「なるほどなぁ・・・リトヴァもそうなのか?」

「ううん。私は定住する場所がないから、いろんな所を回りながら暮らしてるだけ。コルド村には、半年くらいいるかなぁ。ニハハ」

「半年もいるのか。よく生活に困らないな。討伐屋(サブヂャゲーター)ってそんなに儲かるのか?」

「そんなに儲からないよー?でもね。この村から東側の半径60kmのキャンサーはいっぱい倒したよ!」


 リトヴァは自分が討伐屋(サブヂャゲーター)として、コルド村の東側周囲のキャンサーをかなりの数を倒したと自慢げに話す。

 討伐屋(サブヂャゲーター)は、キャンサーの討伐を生業とする人たちの事で、キャンサーそのものの討伐を報酬とする依頼を受け付けたり、魂石(コアードストーン)を売って生計を立てている。

 大きな都市などに行くと、討伐屋(サブヂャゲーター)を統括する組織などもあり、主要な都市や町、村などは討伐屋(サブヂャゲーター)の活躍によって比較的安全に暮らすことが出来ているという。


「ソウだったんですか。〈No.18912〉が昨夜、偵察と走行チェックを兼ねて出かけた時に、キャンサーが見当たらなかったのは、その為でスネ」

「ニハハー。そうかも?すごい?」

「*** ***」


 リトヴァは忙しなく歩く位置を変えながら、ナイフにしっかり討伐出来ていたかどうかを問うと、ナイフは頷いて肯定の意志を示す。

 リトヴァがいっぱい倒したと言っても、ヒュニティーはセンサーのような器官を持つわけではないので、目で見えたキャンサーを討伐したに過ぎない。

 彼女は、狩り残しはあるかもと考えていたが、ノイドが太鼓判を押すほど倒せていた事に安堵して笑顔を見せる。


「アナタのウエポンギールがあそこマデ酷使されていたのは納得がいきマシタ。一人で倒したのでショウ?」

「うん。殆ど一人だったよ。たまーに出くわした討伐屋(サブヂャゲーター)の人と共闘することはあったけど」

「出くわしたって、キャンサーみたいに言うなよな」

「にはは。たまにお会いしました!」


 コスティの突っ込みに翼をパタパタとさせながら苦笑いを見せ、言い直すリトヴァ。そして、クーイがリトヴァの様子を見ながら、一つの提案を出した。


「Missキルピヴァーラ。アナタのウエポンギール、クラッシュパンチャーの他にもう一つ、ギールを持ってみまセンカ?」


 思っても見ない提案にリトヴァは首をかしげているが、コスティとゴーイとナイフの3名は黙っていた。

 ゴーイとナイフはノイドなのでクーイが言わんとする事に察しがつくのだろう。コスティも長い付き合いの中で、クーイに何かしらの企みがあることはすぐに察した。


「もう一つのギール?ウエポンギール?」

「ソウです。アナタのクラッシュパンチャーはコストが掛かり過ぎる。故に貯まったお金はすぐに無くナリ、懐が常に寂シイ」

「う・・・その通りです・・・」


 懐事情が寂しいリトヴァは、クーイに話していないことを悟られて、うな垂れる。クーイお得意の予測演算による無意識のスピリチュアル攻撃だ。


「ソコデ、提案になりマス。もう少し、手ごろのウエポンギール。『インパクトナックル』を使いまセンカ?」

「イヤイヤいやムリムリむり!そんなお金ないし!」

「焦らないデ。私はアナタのインディリティにとても興味がありマス。是非サーバタウンまで同行してもらい、少し実験と研究ヲさせてホシイ」

「えぇ・・・?」


 彼女にとって自分のインディリティは物心付いたときから一緒にあったものだったはず。それが実験や研究の対象となるのは少し抵抗があるのだろう。


 (ノイドの人とあまり関わったことないから分からないけど、実験って痛いのかな。解剖とかあるんじゃ・・・それに『インパクトナックル』とどう繋がるの?)


 少し困惑顔のリトヴァは、クーイの顔と種族は違えど同じヒュニティーであるコスティの顔を交互に伺いながら、考えていた。


「その実験と研究の報酬が『インパクトナックル』って事だろう?協力したらもらえるんだし、いいんじゃないか?」

「えぇ・・・でも、痛いのは嫌だよ?」


 その様子を見かねたコスティがクーイの言葉に補足を入れた。

 クーイ(ノイド)は物事を合理的に考え、相互に不利益にならないように振舞っているつもりなのだが、ヒュニティーのように心がある訳ではないので、心情というものが分からない。

 コスティが補足を入れたのは、そこを理解していないクーイとリトヴァの双方を見かねての事だった。


「痛いのか?」

「イエ、痛くはないですよ。目の前でコチラが指定する条件でインディリティを使ってもらうだけデス。しいて言うなら『疲れる』くらいでショウカ」

「だ、そうだが・・・まぁそんなに深く考えなくても大丈夫だぞ。ノイド達の事あまり知らないみたいだけど、問題ないさ。危害を加えるわけじゃない」

「そ、そうなのかな。解剖もない?」

「アリマセン」

「んんー・・・」

「まぁそうだなぁ。クーイに関していえば、俺の師匠でもあるんだが、育ての親でもある。信頼はしていいぞ」

「そうなの?あ・・・そうなんだ。ゴメンネね?」

「お互い様さ、あまり気にするな。ハルピューマの、しかも若いお前がこんな所に居るのも、似たような事情があるんだろう?」


 ―――師匠であり育ての親。

 コスティはノイドに育てられている。これはコスティに限らず、あまり珍しいことではない。

 キャンサーのいる今の時代はもちろん孤児も多く、旅の途中や村や町がキャンサーに襲われればそういった事もある。

 コスティに関して言えば幼少期にクーイに拾われ、育てられ、そしてギディックとしての才もあった為、鍛えられた。ゴーイともその頃からの付き合いになる。

 ハルピューマは、南の方面にある森林地帯や山の高所に集落を作る種族で、リトヴァのように平地で、しかもキャンサーが多いこの一帯に来ることはほとんどない。

 彼女のインディリティの能力もあり平地での生活も問題無いなのだろうが、それでもこのような場所にいる事実は、多少なりと不運な過去を持つことは想像できた。


「それに30歳にもなったらそんな事は気にしちゃいない。昔の事なんて忘れてしまう」

「にははー。まぁそうだよね。私もね。8年前、10歳のときに両親が帰ってこなかったんだ」

「そうか。良くある話だが、つらかったな」

「ううん。今はもう全然大丈夫。むしろ、森を出ていろいろ見て回れるのは楽しいよ!命がけだけどね。ニハハ」


 この時代は生きること自体が命がけだ。一歩町の外を出れば、武器を携え、常に周囲を警戒し、キャンサーが現れれば倒すか、逃げる。それが出来なければ帰らぬ人となるだろう。

 町で暮らしていても、キャンサーの襲撃があれば、どんな人でも武器を持ち戦う事で町を守り、家族を守る。その戦う為の武器はギールであり、ギールはノイドがいなければ作られることはなかった。


「インパクトナックルかぁ。クラッシュパンチャーより破壊力は落ちるけど、小型だから取り回しはよさそうだよね」

「小型・・・っつーサイズでもないと思うが、中型くらいじゃないか?クラッシュパンチャーが大きすぎるんだよ」

「にははー。そうかも」

「気になってたんだが、インパクトナックルより、クラッシュパンチャーの方が遥かに高額だと思うんだが・・・なんで持ってるんだ?」

「あぁ。それはね。売り残りが叩き売りされてたのを買ったの。それはもう格安だったよ激安!2000L(リーリル)くらいだった」

「やっすいなおい。お店の人は何で仕入れたんだろうな・・・」

「恐らく、中古の買取が売レ残ったのでショウ」

「そうなのかな。結構、傷ついてるもんね」

「いや、それはお前が・・・」


 メンテナンスをサボるからだ。と言いかけたコスティだったが、話が終わらないので言葉を飲み込む。


「ところで、クーイさん達は、いつ村を出るの?」

「私達は、2日後の早朝に出発ヲしマス」

「そっか、分かった。私も暫く村の外には出ないから、探せばまたあえるね。『インパクトナックル』の件も前向きに考えるよ」


 リトヴァにとっては、実験と研究がメインではなく『インパクトナックル』のギールが貰えるかどうか。そこがやはり重要なのだろう。前向きに検討する方向が少しだけズレている。


「Missキルピヴァーラは宿場を借りるのですか?」

「うん。宿場に行くつもり。今日はもう行くよ」

「ワカリマシタ。またお会いしまショウ」

「うん。それじゃぁね!」


 リトヴァはクラッシュパンチャーを装備した大きい手を振りながら、駆けていく。その様子を見ながらコスティが思ったことをクーイに聞いてみた。


「クーイにしては結構強引に勧誘したな。そんなに気になるのか?あいつのインディリティは」

「えぇ。彼女のインディリティは稀少デス。研究ヲする価値はアル」

「どんな能力か検討はついてるんだろ?本人はあまり自分の能力は分かってないみたいだったが・・・」

「推測の域ヲ出まセンが、恐らく『自分に触れているモノの重力関連の何かを操れる』インディリティです」

「重力??質量を変化させるとか、そんなのじゃなくてか??」

「ソレも考えましたが、ソレだとゴーレムを殴った際に、クラッシュパンチャーが『直ぐに破損する』ハズです。質量が変わり『軽くなる』ということは、物体固有の量そのもののが少なくなり、軽くなっているはずデスカラ」

「・・・それと重力とだと、どう違うんだ・・・」

「触れているソノモノに掛かる重力の影響を操作できるのダトしたら、クラッシュパンチャーの質量ヲ変えずに持て、殴っても『直ぐに破損はしない』」

「な、なるほど?でもなぜ、そこに行きついたんだ?」


 クーイはこれでもコスティが分かるように説明しているのだが、コスティは話を聞いていると、段々分からなくなって首を傾げ始める。


「ソレは、Missキルピヴァーラとコスティが一緒にクラッシュパンチャーのチェックをしていた時デス」

「あの時か・・・」

「あの時、Missキルピヴァーラは『軽くなれ』と言ってクラッシュパンチャーを持ち上げましたが、アナタは持てなかった」

「・・・確かに」

「質量そのものが変わってイタラ、恐らくアナタでも持てたでショウ。ただ、重力でも疑問が残りマスガ・・・」

「なるほど・・・?」


 クーイの言いたいことが分かってきた。モノの質量が変われば、中身がスカスカになり直ぐに壊れる。

 しかし、重力が影響するだけなら質量が全く変わらずにそのまま殴れる。そしてリトヴァが持てて、コスティが持てなかったのは、コスティには重力の変化が影響されていなかったから。

 コスティは頭の中で復唱しながら考えをまとめた。


「だいたい分かった。クーイは重力が操れるギールが作れるようになったら色々と便利だ。そういうことだろ?」

「えぇ。まさにソノ通りデス」

「その顔は悪いことを計算してそうな顔だな・・・」


 ノイドに表情はないが、言葉の反応からコスティはクーイの悪い顔が見えた気がした。


「話ハ終ワッタカ、ソロソロ資材ノ調達ニ、行コウ」

「あぁそうだな。しっかり準備して、この山を登らなきゃな・・・」


 そう言って見上げる視線の先には、村の背後にそびえ立つ絶壁。コスティはこの絶壁を見ながら深い溜息をついた。






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