6話-魂石とインディリティとサブチャゲーター
「取れたての魂石を見たのは初めてだけど、いつも見るのと全く変わらんな」
「魂石に鮮度なんてないから当たり前だよ。石だよ石」
「石・・・とだけ言い切ってしまうのには語弊があるが、まぁ・・・それでいいか」
「む。なにさー。魂石。石って書くんだよ?」
地面に『魂石』と書き、石の部分を強調して説明をしている彼女はRitva・Sisko・Kilpivaara
先ほどゴーレムを倒したハルピューマの女性の名前である。
コスティ達一行は、残り半日でコルド村に着くといった所で野営中。リトヴァもコルド村へ一度帰るつもりでいた為、一緒に同行をしている。
そして、彼等はゴーレムから取れた魂石の話をしていた。
その魂石とは、リトヴァがゴーレムを倒した際に手に持っていたゼリー状の物体。その中心にあった直径10cmほどの球体の事である。
そう、魂石はキャンサーのコアであり心臓。キャンサーはこの魂石を破壊もしくは摘出することで、完全に行動不能にすることが出来る。
この時代を生きる人々には、魂石は命の塊と伝えられ、その命が燃え尽きるときに生命エネルギーが内包されると信じられている。
今回、リトヴァはゴーレムの外皮を自慢の大型ギールで砕き、コアである魂石を摘出してキャンサーを行動不能にしたことになる。
「さて、そろそろ日も沈むし、暗くなる前に飯でも作ってしまうか」
「おぉ。何を作るの? 肉焼くの?」
時刻は夕方17時過ぎ、辺りはオレンジ色になり、太陽も1時間ほどで沈みきろうとしていた。
「ケブーラから来たんだ。そんな火で焼けるような肉はさすがにない。乾燥野菜や干し肉なんかの保存食で我慢してくれ」
「そうかー。立派なトレーラーだったからつい・・・ニハハ。私も手伝うよ」
「おぅ。助かる」
火をおこし、ケブーラから持ってきたイモ類や根菜、乾燥野菜や乾燥肉など保存の効く食材ばかりだが、これでスープを作り、この日の二人の夕食となる。
ノイドの3名は食事も睡眠も必要はないが、各々不具合箇所のチェックなどを行いつつ辺りの警戒に当たっていた。
「コスティ。食事ガ終わったら、〈No.18912〉の脚回りヲ一緒に診てもらえマスカ。先ホドの全力走行で若干の歪みがでていマス」
「OK。分かった。なるべく急いで食べるよ」
「お願いしマス」
「ん? おじさん。ギディックか何か?」
「一応、ギディックで食っていってるよ。なんとかな。お兄さんだ」
「じゃぁ私のコレも見てくれない?」
リトヴァが見てほしいギールはもちろん自分の相棒。
戦闘用のギールは損耗も激しく、コストが掛かる上にリトヴァの使うウエポンギールは大きめで、掛かるコストも割り増しだ。
「見てもいいが、高いぞ?」
「んな。少しとはいえ、道中を共にするなかじゃないですか?」
「そうだな」
「仲間と思って、ちょっと見てくれるだけでぇ」
「甘えるな」
「ひぐぅっ」
リトヴァの相棒はコストが掛かる為、なかなかメンテナンスに出せておらず、リトヴァはココで見てもらえればラッキーと思ったのだろう。
しかし、ここはコスティに軍配があがった。
無料で修理をしてしまうのは技工士としての価値をゼロにするのと同じである。
一度でも許してしまい、その後も無料が当たり前になるのは良くないことだ。だが、意外なところからリトヴァに助け舟が入る。
「コスティ。見テヤル、ダケナラ、別ニイイダロウ」
「実際の修理とナルト費用は掛かるでショウが、現状そのギールはココでの修理は無理があるでショウ。ただ、見るだけナラ話は別デス」
「ゴーイさん!クーイさん!太っ腹です。さすがです!」
「んな。まてまて。俺だって生活がだな・・・」
「先ホド、助けられたではありまセンか。恩を返すと思ッテ見てあげるならアナタの矜持には触れないでショウ?」
「うっ。まぁ確かに助けられたしな・・・しかたない、見てやるよ」
「やったぁー!ありがとう、おじさんっ!」
「お兄さんだっ!ただし、ココではそんなたいした事できないし、パーツなんかの必要経費はもらうからな?」
「うんうん。それでいいよー!コスおじさんっ」
「キット、全部無償デ、修理シテヤッタラ、オジサンノ、称号ハ、トレルゾ」
ゴーイは核心を付いている。機械なのにコスティより女心が分かっているのだろうか。不思議である。
その証拠に、ゴーイとリトヴァはお互いにサムズアップしている。
「・・・はぁ。ナイフ、脚を見ようか」
「*** ***」
ゴーイとリトヴァのサムズアップを横目に、コスティは工具道具をトレーラーから持ってくるとクーイと共にナイフの脚まわりの調整に入る。
コスティは頭に取り付けるタイプの拡大鏡を被り、トレーラーの上部に明かりを取り付けるとナイフをコンテナの上に立たせて足回りを注視した。
「ここか。若干、関節部分が歪んでるな。少しバラすぞ」
「*** ***」
その歪みはごく軽微なもの、コルド村まで行く分でもまったく問題はないだろうが、いつ激しい戦闘になるか分からない現状は、ギディックとして少しの歪も見逃せない。
コスティはクーイと共に右前足を分解し始め、十数分後には一つのパーツを交換すると、手早く分解前の状態に戻していった。
「おぉ。すごいね。コスおじさん。修理するところを始めてみたけど、ノイドのパーツも直せるんだ?」
「コスティはコレでもギディックとしては、優秀なんでスヨ」
「ほぇー・・・」
リトヴァの言葉を聞き流しつつコスティはナイフの稼動チェックを行っていく。
「ナイフ、動かしてみた感じどうだ?」
「*** *** ***」
「問題ナイそうですヨ。」
「不具合があったら言ってくれ、すぐに診るからな」
ナイフは頷くと何処かへ駆けていく。しばらく偵察がてら脚のチェックも兼ねて、周りを見てくるようだ。
「ほれ、次はお前のだ」
「ん? おぉ。まっててね持ってくる」
リトヴァはトレーラーの傍に置いてあった自分の相棒を手に取るとすぐに戻ってくる。
コスティの元へクラッシュパンチャーをリトヴァが置いたときは、いかにも軽そうな動作で置いたが、コスティが手に取ってみるとかなり重く、持ち上げられない。
「これ、むちゃくちゃ重いじゃねぇか。なんで持てるんだよ」
「ニハハ。私のインディリティで、軽くしてあげると持てるようになるの」
「軽く? お前もさっきのゴーレムみたいに念動力を使うのか?」
「念動力とは違うんだけど。んー。なんかね『軽くなれー』って思ったら軽くなるんだよ。すごいでしょ?」
「思ったラ、軽くなるのデスカ。浮かせられたりは、しないという事でスネ?」
「浮かせるのは無理だね。あとね『重くなれー』って思ったら重くなるよ。そうだね・・・自分の触れているものなら、かな。あまり大きいものは無理なんだけど」
「まさか重さを自在にかえれるのか?」
「そんな感じなのかな?」
リトヴァ自体、自分の能力を完全に把握していないのか、質問に対しての返答が曖昧なうえに疑問形で返ってくる。
クーイも知らない能力のようだ。実際、インディリティは謎だらけで、良くみる能力もあれば滅多にない能力もあるし、いつ新しい能力を持ったヒュニティーが現れるか分からない。
これは、キャンサーにも言えることで、見たことない形や能力を使う新種のキャンサーは例年報告されている。
「そういえば、Missキルピヴァーラは空から降ってきまシタネ。あれもこのインディリティと関係ガあるのデスカ?」
「あれはねぇ。私の体を軽くして跳んだの!そして飛んだの!」
「は?」
「こんな感じっ!」
そう言って急にジャンプしたかと思うと、はるか上空まで飛び、既に暗い空の闇に消えていった。
暫くすると、ゆっくりと羽ばたきながら降りてきたリトヴァは、地面に脚をつける前に、一度大きく羽ばたき、砂を巻き上げながら地に脚を着ける。
羽ばたいた風で焚き火が一瞬小さくなり揺れた後、元の大きさの火に戻っていく。
「ゴホッゴッホっ。ぉぃ。気をづけろ。もうちょっと向こうで降りてこいよ」
「驚きまシタ。もしかして、アナタ、空を飛べるのではないでスカ?」
「ニハハ。わりと長く飛べるよ。凄いでしょ」
ハルピューマは翼が背中から生えてはいるが、鳥のように自由に飛べるわけではない。
それは、体の重量が殆ど人間と同じで重い為、とてもじゃないが羽ばたいて空を飛び回ることは出来ない。
殆どのハルピューマは高所から飛び降り、グライダーのように滑空することは出来るのだが、リトヴァは自分の体を軽くし、跳び上がった後に羽ばたくことで、ある程度なら空を飛べるのだという。
普段、ハルピューマは高所の崖がある地域や高い木がある地域で集落を作り暮らしている。そういった事を考えると、こんな平地にいるリトヴァはかなり稀な存在といえた。
「そのインディリティがあるおかげで、こんな重いウエポンギールを扱えるわけか・・・空から現れたのも納得だ」
「えぇ。ホントウに。しかし、研究シガイのあるインディリティでスネ」
「・・・っひぃ。なにされるのっ」
リトヴァはクーイの言葉に冗談かと思うもクーイがじっと見てくるので、自分の腕と翼で体を抱き、引きつった表情を見せる。
「まぁ、ノイドだから珍しいインディリティは何かに使えるんじゃないかって考えるんだよ・・・いや計算するのか。こいつ等はそういう種族だ。気にするな」
「そ、そうなんだ・・・・」
「そんな事はアリマセンよ。稀少な能力は、ギールの発展に繋がりマス。機会があれば是非、色々と研究をさせてもらいたいものデス」
「そ、その機会があるときは、お手柔らかにお願いします・・・」
「珍しいインディリティを見ると、いつもの事だからあんまり気にするなって。ほら、そんなことより重くてどうしようも出来ないんだ。手伝ってくれ」
「うん。任せて!軽くなーれっ」
「おぉ・・・って全然重さが変わってねぇ」
「えぇ? そうなの? ほら」
コスティが、持ってみるも全く重さが変わったようには感じられなかった。だが、リトヴァ自身はいとも簡単に持ち上げてしまう。
「お前が、持ち上げないとダメみたいだな・・・」
「そうみたいだね。私も初めて知った」
「まぁいいや。そのまま指示するから、持っててくれ」
「うん。分かった」
リトヴァの助力を借りながら、コスティはクラッシュパンチャーの不具合箇所などをチェックしていく。
その手際は見事なもので拡大鏡から覗いて見える精細な構造箇所も確認し、あっという間に確認作業が終わった。
「お前、これ全然メンテナンスしてないだろ。わりとガタがきてるぞ」
「にははー。お金・・・少なくって・・・あ、でもちゃんとパーツ代くらいは払うよ?」
リトヴァは苦笑いをしながら、手をモジモジさせ懐具合の実情を吐露する。
「・・・まぁどの道、ココじゃ調整しかできない。必要なパーツはコルド村には・・・あるか分からないが、サーバタウンなら揃うだろう」
「サーバタウンまでいくの?!」
「言ってなかったか? サーバタウンじゃなきゃ修繕は出来ないだろうな」
「そっかぁ。どうしようかな。コルド村を離れるのも・・・」
「まぁ時間はあるし、コルド村についてから考えても遅くないだろ・・・そういえば、懐具合が寂しそうだが何で稼いでるんだ?」
「私はねぇ。討伐屋で稼いでるんだよ!」