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2話-ノイド

 小さな天窓から差し込む白い光は、まるで空気を切り裂くように真っ直ぐに地面に刺さる。

 その光の周りをキラキラと、とても小さな粒が輝いていた。それはまるで、白昼に輝く星・・・ではなく埃。

 夜が空け、外は明るく人々が活動を始める時刻になっても、工房で大の字になって眠っている男が一人。

 一夜漬けが堪え、睡魔に勝てるはずもなくコスティが眠っていると、玄関のほうからノックの音がけたたましく鳴った。


「・・・」


 コスティは薄ら目を開けるが睡眠を邪魔されたくない為に無言を貫くも、またしてもノックの音が部屋に響く。


「俺は今、人生を諦め(ノイドの修理を諦め)眠りについたところなんだ。起こさないでくれ」


 コスティ以外誰も居ない部屋で独り言をつぶやく。


「コス坊、いるんじゃろぉ。このギールを見てくれんか」


 ドア越しに、元気で大きい声だが少しかすれたお婆さんの声が聞こえる。

 コスティは、頭をかきながらムクリと起き上がりノブに手をかけた。


「ミク婆。また壊したの?」

「朝一番に『また』とは何じゃ。あいさつせんか。面倒くさい(ババア)とは何じゃ」

「だれも、超面倒くさい(ババア)とは言ってないよ。それにミク婆ほどギールの修理を持ち込む人はこの町にはいないよ。おはようございます」

「カーッ。生意気な。お世辞でも年上のお姉さんをおだてんかい」

「カーッとか言ってる時点でおばあちゃんでしょ。もういいから中入って、ギール見せて」


 コスティは欠伸をしながら、面倒臭そうにしつつもミク婆を工房に招き、子犬型ギールを受け取り机についてギールを見た。

 スイッチを入れてみると動かない。確かに何か不具合があるようだ。


「なんじゃぃこのバラバラになった遺体は―――」


 作業代の上にあるノイドと思われる物体をまじまじと見ながらミク婆が呟く。


「んな。人聞きの悪い。それは動かなくなったから修理中のノイドなの。遺体じゃないの」

「どうせ、直せなくなってそのままにしとんのじゃろ。遺体と変わらんわ」


 核心をつかれ気分がブルーになり机に突っ伏すコスティだったが気を取り直して話をそらした。


「そ、それより何をしてたら動かなくなったの?見た目どこも悪くないけど」

「急に動かなくなったんじゃよ。いつものやつさ」

「アード棒くらい自分で変えてよミク婆」


 アード棒とはギールを動かすためのエネルギーで、魂石(コアードストーン)と呼ばれる石を粉末状にして筒に入れたもの。ようは電池である。


「ふん。食うのに困っとろうと思ってわざと持ってくる婆の優しさに感謝せぇ」

「はいはい。アリガトウ御座います」


 コスティは、会話をしながらも手早くアード棒を新しいものと4本取替え、動作を確認する。起動させてみると途端にミク婆の足元に駆け寄っていった。

 この犬型のギールは簡易型のお世話ロボットで、掃除や物を取ってくれたり、周囲の警戒などをしてくれる。ペットとして愛玩にもなりお婆ちゃんには必要な一台だ。


「アード棒ならいつでも売るから、アード棒切れるたびに持ってこなくていいからね」

「ふん。面倒じゃわい」


 わざわざギールを持ち込むのも面倒だと思うが、おばあちゃんにはアード棒の交換のほうが面倒なのかもしれない。


「で、コス坊やあやつはどうするんじゃ」


 作業台にのったバラバラのノイドと思われる少女を眺めながらコスティになんとなく問うミク婆


「どうも、知らない技術が使われているみたいで直せないんだよね。もう諦めて師匠に土下座して見て貰うさ。ハハハ」


 若干、顔が青くなりながらも現状を伝えるコスティに、玄関の扉に手を掛けながら追い討ちをかける一言をミク婆は放った。


「そういえばコス坊、ノイドが数人町に来ておるそうじゃぞ」


 ミク婆がカカカと笑いながら部屋から出て行き、閉まったドアを見ながらコスティは、両手を頬に当て絶叫した。


「処理されるっっ!!!!・・・っつかお代払っていけ!」





 ケブーラの町を3名のノイドが訪れていた。


「この町には久々に来ましたがコスティは元気でしょうカ」


 そう声を発しているのは人間の女性の形をしたノイド。

 銀色のスケルフレームと外装でスラッとした人間の女性の形をしており、関節部分などの要所に白色や紫色のラインがはいっている。

 目にあたる箇所は赤色になっており、ぼんやりと光っている。口は無いが女性の声を発声しているあたり、スピーカーのようなもので発声を行っているのだろう。


「仕事、ハヤク スマソウ」


 片言に言葉を発しているノイドは、同じく人型で銀色のスケルフレームと外装だが体は人の倍はありとてもガッシリとした体躯をしている。

 下半身より上半身のほうが大きく、ゴリラのように腕を地面につけてバランスをとっていた。その腕はかなり太い。


「*** ***」


 無言でボルゾイという犬種に似た四速歩行の犬型ノイドが積荷を積んだ荷車を引きながら無言でついて来ており、こちらも銀色のスケルフレームと外装のみで部分部分にアクセントで赤色のラインが入っている。


 ヒュニティーは皆、共通の敵『キャンサー』の存在が大きいためか、基本的に種族関係なく友好的な関係を築いており、物資の交換や調達などをする為に定期的に各町を訪れる事がよくある。

 今も人間族以外の種族がちらほらと見受けられるが、この町は他の都市から遠いため、他種族が少なくほとんどが人間族である。

 町中は皆一様に、荷車を引きどこかへ向かっていたり、露天で買い物をしていたりとせかせかと動いていた。

 

 彼等ノイド3名も例外ではなくこうして町を訪れ、物資を調達し友好を深める。

 ノイドたちは技術や自分達が作るギールを配り、変わりにフレームなどの素材となる鉱石などを主に調達していた。

 ノイドはとても高度な技術を有してはいるが、高度かつ精密な造りの体な為にその個体数は少ない。また、食料などを必要としない代わりに定期的なメンテナンスを行う必要がある為、長期間の遠征は出来ない種族でもある。

 その為か、自分達のみでは鉱石の発掘および採掘が間に合っておらず、こうしていろんな種族と取引を行っている。結果としては友好を深め協力関係を築けていけるので、良いことなのかもしれない。


「ノイドさん達や。久しぶりにきたのぉ。半年振り位かい?」


 3人が町中で要所要所のお店によりながら、この町での仕事をしていると一人のお婆さんから声を掛けられた。


「おや、これはMisミクお久しぶりデスネ。正確には189日と13時間25分10秒ぶりでス」

「カカカ。相変わらず細かいのぉ。お主らは。わし等にはそんな細かいことは分からんよ」

「私達は正確なのが性格のようなものデス。機械でスからネ」


 そもそもノイドには『性格』は存在しない。戦闘や防衛の為に作られたノイドは会話が片言だったり、人型でないノイドは発声をしないものも多い。かと思えば、この女性型ノイドのように積極的にコミュニケーションを取り情報を集めるタイプもいる。各個体の能力で出来る事、プログラムの違いが『性格のようなもの』を作り出しているので、ヒュニティー達からするとこの違いが性格の差異と感じてしまうことがある。


「ところで、どうかしたのデスか?トテモ『楽しそう』な顔をされていマスよ」

「いやいや、なに、コス坊が面白いものを拾っててなぁ。お主に伝えたら面白そうじゃと思うて」

「コスティですか。この後、訪問する予定デした。面白そうなものとは珍シイ。コスティは今、工房にいるのデスね」

「おや、この後コス坊のところにいくのかい?ならコレを渡しておいておくれ」


 そう言って渡されたのは、銀色の硬貨6枚。

 コスティたちが暮らす大陸のお金は硬貨が主流になっているが、紙幣はない。紙自体が無いわけではないが紙を大量に作れるほど、どの都市にも生産ラインは整っていない。

 その為、ノイドが提供するギールからほぼ同じ硬貨を生産できている。その生産量は各都市、町の代表があつまって行われる会議によって調整されている。


「ワカリマシタ、渡しておきマス。ところでMisミク、コスティは何を拾ったのデスカ?」

「行ってみれば直ぐにわかるじゃろうて。コス坊は今頃、白くなって寝てるじゃろう。カカカ」

「白く?コスティも面白いことになっているようデスネ」


 ミク婆はコスティの現状をとても『面白そう』に話し「カカカ」と笑い声を上げていた。楽しそうに話していると周りの人も集まってきて談笑しはじめた。

 この町の噂話の現況は大体このおばあちゃんである。





 工房の隅でコスティが小さくうずくまっていると、玄関のほうからノックの音が優しく響いた。


「俺は今、人生を諦め(修理を諦め)死を覚悟しているところなんだ。放って置いてくれないか」


 コスティ以外誰も居ない部屋で独り言をつぶやく。


「コスティ。居るのは分かってイマスよ。先ほどMisミクから聞きマシタ」


 ドア越しにノイドの声が聞こえると「あんの婆ぁぁっ」と思わず声が出た。


 扉が開き、ゆっくりと一人のノイドが入ってくる。その足音は、金属が木の板を踏みしめる少し甲高い音がする。


「ほら、居るではアリマセンか・・・Misミクをババぁなんて言ってはいけませんヨ。まだ92歳でス」

「まだ、って人族では十分過ぎる御高齢だよ。クーイ達と一緒にするんじゃない。この1,000歳モンスターめ」

「1,000歳とは失礼ナ。現時点で私は起動してからまだ997年10ヶ月15日と7時間32分49秒の時を刻んだだけです」

「・・・だけって・・・はぁ俺はまだ30年しか生きてないよ。お師匠様」


 コスティがクーイと呼ぶノイドは、人型で女性タイプのノイドでコスティにギディックとしての技術を叩き込んだ師匠でもある。コスティにとってはクーイの『正確さ』には慣れたものだ。

 そして、師匠としての怖さも弟子としてもちろん知っている。


「ところで、コスティ」

「っ!」


 コスティは身構えた。クーイがじっと目を見ていたのが分かったからだ。

 するとどうだろう、コスティが流れるような動作で両膝をつき両腕をピンっと天へ伸ばしたかと思えば、そのまま前へ倒れこむように地面に顔をこすり付け言葉をはなった。


「ワザとじゃワザとじゃないんだーっ。処理だけはーっ!」

「ナニを藪から坊に言っているのでス。Misミクから渡されたお金です。60リーリルデス。」

「あ、はい・・・60リーリルってアード棒2本の値段じゃねぇか。2本分足らねぇ・・・」


 両膝を着き正座の姿勢のままお金を受け取ると、クーイが続けざまにコスティの名前を呼んだ。


「それと、コスティ」

「っっ!?」


 コスティは身構えた。クーイがじっと作業台の上に置かれた少女を見ているのが分かったかだ。

 クーイが作業台に向かおうと体の向きを変えると退路を塞ぎ、流れるような動作で両膝をつき両腕をピンっと天へ伸ばしたかと思えば、そのまま前へ倒れこむように地面に顔をこすり付け言葉をはなった。


「ワザとじゃワザとじゃないんだーっ。処理だけはやめてっぇ」


 額をぐりぐりと地面に擦り付けながら、何かを訴えているコスティには目もくれずクーイは作業台に横たわる少女をジッと観察していた。


「ソレハ、もういいですよ。大方、どこかで拾った私達の仲間と思われるモノを修理しようとして壊したのでショウ?それに処理とハ・・・私はそんな野蛮ではありまセン。私達を直そうとしてくレていた心意気は分かっているつもりデスよ」

「何も言ってないのにこんなにも的確に当てられると胸を抉られるようだ・・・慣れているとはいえクルものがある」


 処理されないことに安堵しつつも全てを見抜かれていると分かったコスティは胸に手を当てながら目を逸らすしかなかった。

 そう、クーイの怖いところはその正確なまでの計算力と判断力と無意識なスピリチュアルアタック。

 ノイドが機械生命体なので正確なのは当たり前だが、コスティが伝えていないことを予測し、言う前に当てられるというのは、毎度毎度されるとクルものがある。


「いや、だってノイドなら起動さえしてしまえば、あとはどうすればいいか本人から聞けるじゃん?スイッチが分からないジャン?起動できなくて四苦八苦・・・ゴメンナサイ?」

「・・・そうでスカ。少し見てミテも?」


 溜息の出ないノイドから溜息が出ている気がした。

 会話をしながらも先程からクーイの視線は作業台に横たわる少女を見つめていたが、近くに寄ると少女のパーツを手にとって観察をし始めた。

 しばしの間、関節に使われていたであろう歯車(ギア)を手に取ってみたり、胸部に手を当てたりしているのを見るとコスティは聞かずにはいられなかった。


「なぁクーイ。これって、お前達の新型なのか?」

「・・・・・・」


 数秒、沈黙の時間が流れた。即答しないクーイを見たのは弟子になってから20年で初めての事で驚き、師匠の横顔を思わず見てしまう。


「コスティ。これは私達に似ていますが、私達ノイドとは同じものではアリマセン」

「ぇ?」

「ただ、トテモ近しいものでス。そして、とてもトテモ古い・・・私達の先祖、にあたる『ノイドの金型』デス」

「・・・はあ?」

「何処でコレを?」

「・・・・浜で?」


 ノイドじゃないという事実と祖先というワードにコスティは固まった。修理中に一度『ノイドじゃないかもしれない』と考えた瞬間はあった。

 だが、先祖などと考え付きもしなかった。そもそもコスティにとってはむしろ新しい技術体系のモノと考えていた為、言葉が詰まってしまうのは無理はなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえずまだまだ物語は始まったばかりというところですね。今夜はここまで。また明日から読ませていただきます。シェハルです。ものすごく丁寧ですね。
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