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1話-修復不可

 太陽が真上に昇り、あたりにさんさんと陽光が降り注ぐ時刻。

 真っ白い切り立った崖が頭上に見え、足元は砂浜が広がり、打ち寄せる波と引いていく波の音が心地よく、疲れた体に潮風が優しく頬をなでる。


「んぁー。首がいてぇ。肩こったなぁ」


 やわらかい砂浜に足跡の残しながら、歩いている一人の人間の男がいた。

 中肉中背の体つきで黒いズボン、黒いシャツに明るい灰色のコーディガンを着て、足元は丈夫そうな革靴を履いている。

 黒髪のくせっ毛で少しウェーブのかかった頭をポリポリと掻きながら周りを眺めている彼の名前は、Kosti(コスティ)Atso(アッツォ)Lamminen(ランミネン)



 仕事を終え、暇を持て余し散歩をしていた彼は、進行方向にいつもは無い物が浜辺に打ち上げられている事に気がつく。

 垂れ目だが、気だるさは感じさせないその眼の視力はよく、わりと遠くのものをはっきりと見ることが出来る。


「なんだ、あのデカイ黒い物体は」


 近づいてみると浜に打ち上げられていた物体は、左右均等で角の丸い十字架のような形をしており、大きさも人一人が入れそうな棺おけのような形状にも見て取れる。

 均一に削られた凹凸や溝があり、人工物であることは一目でうかがえたが汚れと錆びがひどく腐敗もひどかった。


 「昨日まではなかったが、夜のうちに流れてきたのか。なにかの箱・・・だよな」


 コスティは、興味本位で更に箱に近づく。箱を良く見てみるが、汚れと錆が目立つだけでどこから開けるかもよく分からなかった。

 さび付いている割にはまだ強度はあり、硬い上に重たく、持ち運ぶとしても大人が一人が入れそうなほど大きく、とても人間が一人で運べるものではない。


「んー。抉じ開けるにしても道具がいるなぁこれは、すげぇかてぇ」


 そう言いつつ足で軽るく蹴ると、何かのセンサーに触れたのだろうか、空気が抜ける高い音と共に箱がゆっくりと付着していた錆を落としながら開いていく。


「ぉうわっ!」


 いきなり開いた箱にビックリしつつも、その動作が静止するとコスティは中をゆっくりとのぞいた。中をのぞくと一人の女性が寝ておりコスティは目を見開く。


「女?・・・いや、人じゃないな乳首がないし。人形でもなさそうだが、マタもつるつるだな」


 などと、まず胸に目線が行くのは男の性だが、マタにすぐに手を出したのはコスティの痴態っぷりが窺えた。


 見た目は人間の女性に近い。ただ人ではない。それは見て直ぐに分かった。

 髪は透き通るような薄い水色の髪で腰ほどまであり、肌は透けるように白く、細身の体型をしていたがコスティが言うように胸に乳首が無く生殖器もない。整った顔立ちはまるで人形のようだ。

 腕や足は一見アームガードやレッグガードなどの鎧をつけているように見えるが、体の一部として一体化していた。


「・・・ノイドか?しかしこんな「人族」じみたノイドなんて・・・しかも起動の仕方もわからねぇ。生きてるのか?」


 コスティはノイドと呼ばれる種族ではないかと思うが、ノイドはそもそも機械仕掛けの種族で、プログラムがプログラムを進化させ独自の機構を持っているとされており意思があるかのように稼動する。

 人型、動物型、植物型などいろいろあるが、その見た目はスケルフレームといわれる金属骨格とその周りを特殊な金属板で覆っている為、見た目はロボットそのものであり一見して人などの肌は本来持ち合わせていない。


 しかし、独自に進化をさせていくノイドのことだから新しいタイプなのかもしれないとコスティは思った。


「とりあえず、工房に持って帰ってみるか。どのみち、アイツに知らせないといけないしな」


 コスティは、ノイドと思われる少女を持ち帰ろうと抱えようとしたが「重ぅもっ」と悲鳴を上げながらそのままその場に倒れこんだ。

 その後、コスティはどうやって少女を運ぶか四苦八苦することになる。





 砂浜から崖を沿うように上へ伸びる傾斜のきつい一本の坂道があり、その道を上まで登ると見えるのは、崖の斜面を削って作った住居が並ぶ。

 何か料理でも作っているのだろうか、斜面から四角い箱が飛び出たような住居の煙突からは所々白煙が上がっている。

 崖の下を覗くとはるか下には川が流れ海へと繋がり、所々木々も生えている。


 そして、住居以外に目に付くものが、人が通るには十分すぎるほどの大きな穴が壁面にあり、その穴を塞ぐように木と鉄で出来た扉が備え付けられていた。

 扉くぐると巨大な空洞が奥へ広がるここは、人工的に崖を掘って作られた『崖と洞窟の町 ケブーラ』


 巨大な洞窟の壁沿いには露店が立ち並び、所々に鉄のドアがある。このドアからは各住居に繋がっているようだ。洞窟の中は、薄暗いということは無く機械で作られた灯篭が掛けられ、それが壁のいたるところで灯り洞窟全体を明るくしていた。

 空気の流れも確保され、人が常時住んでいるためか洞窟特有のホコリっぽさはあまりない。むしろ木板や鉄板などで洞窟の壁面を覆い崩れを防止している為、洞窟というよりはトンネルや通路といった印象を受ける。

 ケブーラには砂浜からの一本道を登る意外には入れないような造りになっており、天然の要塞のようになっていた。


 日も沈み辺りも暗くなった頃、そのケブーラの巨大な穴の門扉に一人の少女を乗せた荷車が近づいてくる。

 息を切らし汗だくになりながら荷車を引いてきた男に、門扉に備え付けられていたカンテラが向けられると見張りをしていたガードナーが気付き、声をかける。


「よぉコスティ、何息をきらしてるんだ?暗い中おめぇさんがそんな汗を流してまで運動なんてめずらしぃじゃねぇの」

「う、うるせぇ。コイツを浜から引っ張って歩いてきたんだ。俺はお前みたいな肉体派じゃないんだ手を貸せっっ」

「嫌だね。俺は門番っていう重要な役目があるんだ」


 足を止められたコスティはドッと疲れて町の入口に座り込み休息をとる。座り込んだ時の勢いで、門扉に掛けてあるカンテラが揺れた。


 ガードナーは荷車を覗き込んで、少しだけ驚いたような表情しつつ「人間の女?お前どこで引っ掛けてきたんだよ。しかも年の差が10はありそうな子供に手を出すなんてっ」「お兄さん悲しいっ」などとわざとらしく茶化してくる。

 浜からは一本の坂道。荷車とはいえ傾斜のきつい上り坂を一人で引っ張るのはさすがに骨が折れたようだ。息が整わないコスティはガードナーのボケをジョークで返す余裕はなかった。


「浜で拾ったんだよ。人間じゃない」

「まぁそうだな。珍しい形だがノイドか?」


 ノイドと呼ばれる少女の頬をつつきながらガードナーが答えた。彼も一目見ただけで『人間ではない』と分かっていたようだ。


「わからん。そうだと思うけどそのまま放置も出来ないから、もって帰ってきた。ノイド関連のものならなおの事、放っておけないからな」

「だな、まぁそろそろアイツ等も来るころだろう。もしかしたら、そいつが来る予定のやつだったりしてな」

「冗談じゃない。アイツ等がそうそうやられるかよ」

「ま、それもそうだな」

「それよりも、今日は浜のほうはキャンサーはいなさそうだぞ」

「そうか、浜にいなきゃこっちにはこないからな。今日一日町は平和なものだったぞ」

「今日も平和でなによりだ」


 この町には海岸へ繋がる道しか入ることができない為、海岸にキャンサーが現れない限りは町に来る事もない。


 空を飛ぶキャンサーなら上空から進入を許すだろうがこの一帯に空を飛ぶキャンサーは生息していない為、この町はわりと平和な日が多い。町への侵入を許さないようこうやってまめにキャンサー出現の報告が行われている。


「で、このノイド?どうするんだ。」

「工房でゆっくり調べてみるさ」

「お前はまた・・・ま、いいや。何か分かったら俺にも教えてくれよな」

「なにか含みのある言い方だな・・・何かわかったらな」


 そんなやり取りをすませ、コスティの背中を見送りながらガードナーは思う。


(あいつ、変なもの見つけたら壊すんだよなぁ)





 深夜、電灯が1つしかついていない薄暗い部屋の中でコスティが一人絶叫していた。


「うぅぉぉおおぉぉ!ダメだぁ!サッパリもどせねぇ」


 部屋の四方の壁には本棚や工具などの器具が所狭しと置かれ、天上からは赤や緑といった石が吊るされている。

 中央には長方形の作業台があり、その上には右肘から手が外れ、左膝から足が取れている少女の裸体が横たわっていた。

 傍からみれば、それは解剖や生贄をつかった儀式をしているようにも見えなくは無いが、彼はノイドと思われる少女の「起動」を試みて試行錯誤を繰り返していくうちに今度は元に戻せないことに気づき焦っていた。


「どうやったら動くんだよ。いや、そもそも起動するための機構はどこにあるんだ。いや、まずは元に戻せるのか・・・これ」


 コスティはこれでもギディックと呼ばれる『ギール』という道具を整備、修理する技工士である。

 ギールとは高度な技術をもつノイド達が作る道具であり、その道具の種類は武器や農具、家具、調理器具と多種多様。


 彼は普段ギディックとして壊れたギールを修理などしている為か、起動くらいは出来るだろうと踏んで怪しいところを手当りしだい弄っていくうちに、彼の知らない技術が使われている事に気付き、興奮して何故か手足を分解してしまっていた。


「通常、ノイドが作るギールにはスイッチの機構が備わっているはずなんだ。それはノイド達本体も変わらないはず・・・・音声認識か?」


 一度、起動さえさせてしまえば、ノイド本人からどのように直せばよいのか手ほどきを受けながら修理をすることができる。

 その為コスティはありとあらゆる起動方法を考えながら、起動のスイッチを探っていた。ノイド達そのものも含め、ギール全てに起動の為のスイッチがある。

 そのスイッチは形状や用途によって異なるが、物理的にONとOFFがあるものが主流だ。音声認識によるスイッチや決められた動作を行うことで起動するものもあるが、別段統一されているわけではない。

 音声認識なら、ギディックのコスティでもお手上げだが今までノイド本体が音声認識だったことはない。彼等は機会生命体に近い存在であり、ノイドたちの町の工場で生産され、そのまま起動にいたる。


「ん。待てよ。ノイドじゃないから起動の機構がないのか?じゃぁコイツは一体なんなんだ」


 コスティの手がふと止まった。ノイドに似ているがノイドではないためスイッチが見当たらない。そう逡巡するも直ぐに考えを改めた。


「いやいやまて、新型だから起動の為の機構が特殊なものへ変化したのかもしれない。あいつ等の事だ考えられる。しかしそうすると・・・やばいな。このまま壊してしまったままだとやばすぎる。あいつ等に〈処理〉されるっ!元に戻さなくてはっ!」


 別にコスティがノイドの修理が出来なかったからといって、殺されたり罰を受けるわけではないが、必死になってしまうのには理由があった。

 ヒュニティがギディックとして一人前になるには、一人のノイドに弟子入りするのが常なのだが、コスティは師匠にそれはもう可愛く育てられた為、この状況はコスティにとって恐怖の到来でしかない。

 自分が招いた結果に半泣き状態になりながらもノイドと思われる少女の裸体を再度観察、手を動かす。


「そもそも、最初から何もせずにあいつ等に知らせればよかった。好奇心に負けてしまった」


 情けないことを一人呟きながら手足をどうやって元に戻すか試行錯誤を再開した。もちろん少女の起動の方法を探るのも忘れない。

 そんなこんなをしていると夜が明け朝日が窓から差し込むとき、コスティは床に大の字で白けていた。


「よし、ノイドたちが今度、町に来たときに土下座して謝罪しよう。もしくは、壊れていたていで話をすすめよう。そして、クーイに直してもらおう」


 試行錯誤した結果、作業台の上には両手両足が外れさらにひどい状態にされた少女の裸体が横たわっていた。傍から見たらホラーである。





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