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14話-ノディック

 卓上型の大きめのコンソールが段上に配置された一室には、研究員とノイドが十数名でなにかの作業を行おうとしていた。


 部屋の奥にはガラス越しに広い空間があり、あらゆる工具が先端に付いたアーム型の機械が天上から吊るされている。


 その空間の中央の台座には、薄い水色の髪をした少女型のノイドと思われるモノが、仰向けに寝かされていた。


 腕や脚は分解された状態で、パーツと思われる歯車(ギア)配線(コード)が置かれている。


「こんなノイドの形は見たことないわよね?」

「なんでも古いものらしい。〈No.91〉(クーイ)がコスティと持ってきたってさ」


 ガラス越しに少女型ノイドを見ながら、二人の男女が会話をしていた。

 ロングストレートの赤い髪をした気の強そうな人族の女性は、腕を組みながらコスティに愚痴の一つをこぼす。


「なによ。コスティの奴、戻ってきてたの?顔くらい見せなさいよ。あいつ」


 その隣に立つ、羊の角を頭にこさえた非常に小柄な『パック族』の男性がお茶を飲みながら、女性の気を宥めた。

 そのティーカップを持つ手は人族と同じだが、足の先は羊の蹄そのものの形をしている。


「まぁまぁ。コスティも昨日、着いたばっかりだっていうし、そのうち顔を出すさ」

「フン、だといいけど」


 コスティの知り合いのようだが、彼等は『ギディック』ではなく、主にノイド達の開発や整備をノイド達と共に行う『ノディック』である。


 『ノディック』もギディックと同じように、ノイドから様々な技術を学ぶことで就くことの出来る業種の一つ。

 彼等ノディックはサーバタウンの研究施設(ラボ)か整備場で働くものが多いが、他にも大きい街には、同じような設備や整備場があり、そこに従事するものもいる。


 ノイド達は自らを進化させてきたが、その全てが自身達だけの手によるものではなく、その影にはヒュニティーによる影響があることは間違いない。

 彼等ノディックのアイディアや一般市民の言葉を元に、長い年月を掛け今の形になっている。


「あのぉ。そろそろ、はじめませんかぁ?」


 コンソールの前に座っていたショートボブの茶髪の女性が、ずれたメガネを両手で直しながら二人に作業進行を促した。


「そうね。取り掛かりましょうか。皆、これから、あのノイドと思われるモノの調査と分析、修復を行い、起動を試みます」

「古いものらしいから、慎重に扱ってくれ。〈No.3601〉(サムレイ)、概要の説明を皆に頼むよ」

「ラジャー。〈No.91〉カラの要請で――」


 ガラスの上部に取り付けられたモニターに、現状で分かっている状況が表示されていきながら概要が話されて行く。


 コスティが少女型ノイドと思われるモノをケブーラの浜で見つけてから今までの経緯。


 そして、少女型ノイドが入っていた黒い箱も含め、クーイが考察した内容と共に順序立てて流れていった。


「大体わかったけど、こんな古いモノが、なんでまた今頃見つかったのかしらね?」

「ピグマーリ博士さん・・・ですかぁ。すごい方なんですねぇ。本当にいたんですかぁ?」

「記録にも残ってるみたいだし、その博士が実在したのは事実なのでしょうね」


 パック族の男性が、少し難しい顔をしながら、不安をこぼす。


「しかし、あのコスティが直せなかったのを俺達が直せるのか?」

「田舎の工房じゃ直せなかっただけでしょ。91番もそう判断してるじゃない」


 ケブーラの工房では確かに修復は不可能だった。

 だが、コスティが少女型ノイドの構造を理解できなかったのは分かっているのだろうが、赤い髪の女性はそれでも強気に答えた。

 それを見て、パック族の男性は肩をすくめた。


「当時の電気システムも調べないとな。〈No.91〉の考察を見る限りじゃ、起動にはコレが必要だろう?」

「私達モ、ソノヨウに判断しまス」

「そこら変も含めて、調査にあたっていきましょうか。まず、そうね。断定的に、この少女型ノイドの総称を91番の言うとおり『No.0』としましょう」


 この場にいるノイドを含めノディック達全員が、目線と沈黙で了承を返す。


「じゃぁナイルと〈No.3601〉(サムレイ)のチームは電気システムの解析を進めてちょうだい」

「電気に関シテは、サホド時間も掛カラナイでショウ」

「残りのチームは、調査と分析を進めるわよ。すごーい博士の事は、ノイド達のほうで資料を用意してもらいましょう」


 赤髪の女性研究員が人頭指揮をとっていき、作業分担が決まっていく。各々、さっそく資料集めや『No.0』の元へ行き、形状や修理方法の模索が始まった。

 これから、この研究施設(ラボ)の一角では、『No.0』の起動に向けて動き出す。





「って、いなーーーい! コスおじさん何処行ったのっ」


 現在、朝の10時を回ったところ、観光案内を頼もうとリトヴァはコスティを訪ねていたが見事に空振り。

 コスティの自室前にてインターホンを押すもまったく反応が無く、コスティが留守にしているのは明らかだった。

 一緒に同行していたであろうナイフも見当たらず、どうやらコスティと一緒に出かけたみたいだ。


「むむぅ。待つか、探すか・・・どうしよう」


 数秒の間、考えを巡らせるが、リトヴァの思考回路は至って単純だ。


「よし、行動あるのみ!」


 そう、彼女はじっとして待つよりは、体を動かして探すほうを選ぶ。


 やることが決まったら膳は急げ。

 出かけているであろうコスティとナイフを探しに一目散に街へと来た道をもどっていく。


 だが、リトヴァが廊下の角を曲がったとき、コスティは反対側の通路から、大量の荷物を積んだ台車をナイフと一緒に、運びながら帰って来ていたところだった。


「ん? ナイフ、さっきのあれはリトヴァか?」

「*** ***」


 リトヴァが角を曲がる一瞬を逃すことなく見ていたナイフは頷いて肯定した。


(なんか用でもあったのか? クーイに言えば連絡なら取れるのにな。ナイフを通して・・・ま、いいか)


 昨日、リトヴァがクーイに連絡手段を確認してはいた。

 だが、リトヴァが観光をするというキーワードをほのめかした事もあり、ガイドシートという回答になった事をコスティは終ぞ知らい。


 コスティは、リトヴァの訪問に気に留めることも無く、荷物を持って部屋の中へと入っていった。――



「んー。見当たらないなぁ。っというか広すぎて分からないや・・・」


 リトヴァは街の上空で羽ばたきながら、コスティやナイフの姿を探してみるが、もちろん見当たらなかった。

 ただ、いろんな方角を見渡してみると、見覚えのあるフォルムがそこにはあった。


「お、あれはゴーイ君だ。おーい、ゴーイくーん」


 ゴーイを見つけ、真っ直ぐにその元へ降りていき声をかけてみるが、振り返ったノイドの姿とその返答にリトヴァは驚く。


「イカガサレマシタカ」

「にはっ?! もしかして、ゴーイ君・・・じゃないの?」

「ワタシハ〈No.16428〉ニナリマス。ゴーイ様トハ、ドナタノ、コトデショカ」

「えと、ゴーイ君は、ゴーイ君で・・・えと・・・にわわー」


 姿かたちはゴーイそのものだが、関節や目の配色が違った。ゴーイの目に当たる箇所はオレンジ色だが、このノイドは青色をしていた。

 それに、ビックエコーに受けた損壊がなく、全身が新品のようで傷一つ付いていない。

 リトヴァは、姿形は全く同じだが違うノイドに声を掛けてしまったことに気付き、慌ててしまう。


「特定のノイドヲ、オ探シ、デシタラ番号ヲ、オ教エクダサイ」

「ばんごう? えぇっとっ・・・ゴ、ゴゴゴ、51番!?」

「〈No.555551〉ナド存在シマセン」

「そうじゃないよーっ」


 ゴーイの製造番号を聞かれるが、全く覚えていないリトヴァは目が回ってしまい、頭の中は大混乱になっていた。

 その姿を見た〈No.16428〉は、落ち着かせる事も含め、質疑を変更する手段をとる。


「・・・ドナタカヲ、オ探シノ様デスガ、私デワカル方デシタラ、協力イタシマスヨ」

「えっと・・・ホント? じゃぁ。コスティっていう人が何処にいるか、分かる?」

「失礼デスガ、IDノ提示ヲ、オ願イシマス」


 リトヴァは首にかけてあったドックタグIDを〈No.16428〉に見せると、すぐに確認が取られた。


「リトヴァ・シスコ・キルピヴァーラ様デスネ。確認ガ取レマシタ。

 先ホドノ、ゴ質問ノ件デスガ。ギディックニ、登録サレテイル『コスティ・アッツォ・ランミネン』デ間違イ、アリマセンカ?」


「そう! その人!」


 どうやら、コスティはギディックとして、この街の名簿に登録されているようだった。

 コスティの足跡はノイドによってシッカリと残されており、プライバシーもなにもあったものではない。


「昨日、サーバタウン、ニ帰ッテ、来テオリマス」

「うんうん。私も一緒にここにきたの」

「今、〈No.91〉ヘ確認ヲ取リマシタ」


 〈No.16428〉はコスティの入門ログを辿りながら、クーイに確認を取るとすぐにコスティの場所が判明する。


(91番はクーイさん、だよね? ゴーイ君って何番なんだろう。あれ、ナイフ君も知らないや)


 リトヴァは、クーイ達ノイド3名の番号をふと思い返すが、ゴーイとナイフの番号が思い出せないでいた。

 普段、会話の中では『名称』で呼ぶので、製造番号を聞いた記憶がなかった。

 もちろん、何度かはあるだろうが、やはり番号はヒュニティーにとっては覚えにくいものだ。


「コスティ様デシタラ、自室ニ、居ラレル、ヨウデスガ」

「えぇ?! さっき寄ったけど、居なかったよ?」

「キット、入違イデショウ。現在、〈No.18912〉ト住居ニテ待機サレテイルヨウデス」

「にもー! ニアミスーー!!?」


 今日は色々とツイていないリトヴァである。


 ――リトヴァが、再びコスティの部屋の前にくると、さっきと同じようにインターホンを鳴らした。

 ヴィーヴィーと乾いた音が部屋の中から聞こえると、出迎えてくれたのはナイフだった。


「朝からどこに行ってたのー! って部屋に壁?」


 コスティの部屋はたった1日で、ものの見事に機材と資材でいっぱいの部屋と化していた。

 昨日帰ってきたときは、広々とした部屋だったのに、その光景は微塵も無い。


「こんな、不毛の地でなにしてるの・・・コスおじさん。どこにいるの」

「不毛の地ってなんだよ。少し散らかってるだけだろうが。それに、いつ外出しようが自由だろう」


 コスティの声から、方向はつかめたが、積み上げたコンテナの壁のせいでコスティに近づけない。

 それよりも、荷物のせいで部屋が狭くなりすぎて、リトヴァの翼が邪魔になり、中に入れないでいた。


「・・・これが、少し? 私、中には入れそうに無いよ・・・で、何してるの?」

「何ってほら、この間言ったギールを作るんだよ」

「おぉ。もう作ってるんだ。作業を見てみたいけど・・・」


 資材の壁越しに会話をする二人が言っているのは、以前スレーター山脈でコスティが話していた、コスティを守るためのギール。

 コスティはその開発と制作に取り掛かっていた。


 だが今、リトヴァにとって、それは二の次。


「ってそんなことより!」

「『そんな』ってなんだよ『そんな』って」

「私にサーバタウンの案内をしてくださいっ」

「なんでまた・・・」


 そう、まずは観光だ。





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