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13話-マイホーム

 コスティは住宅区画にある100室はありそうな集合住宅の一棟にきていた。

 その建物の内部、奥まで続く長い廊下の壁には等間隔で扉がついており、コスティは自室に向かって歩みを進める。

 木でできた床ではなく、特殊な樹脂でできた床はプラスチックのような質感。だが、硬度はあるようで靴音が甲高い。

 Room.1525と書かれている扉の前に立ち、ドックタグIDを扉横のパネルにかざすと、空気の抜ける音と共に扉がスライドする。


「・・・変わってないな。ま、当たり前か」

「*** ***」


 中に入ると、かなり簡素な部屋だった。白を貴重とした金属質の壁に、天上に埋め込まれたライトがあるのか全体がぼんやりと光り、部屋全体を明るくしている。

 壁をくぼませて作った空間には、ベットや戸棚があり、部屋にあるものは隅に置かれた椅子と机のみ。

 白色の金属と特殊な樹脂でできた壁と床は、少しだけ寂しい感じがする。


(ほんとに掃除、してたんだな。綺麗なもんだ)


 コスティはここで育った。クーイに拾われ、ゴーイや他のノイドと出会い、幼少期からギディックとして育てられた場所だ。

 寂しさを感じる部屋であってもコスティにとっては、久々に帰ってきたマイホーム。


「ナイフ、適当に寛いでくれ。俺も少し休むよ」


 そう言うとナイフは扉の近くに居座り、伏せをする格好で動かなくなる。

 コスティは壁をくぼませて作ったアルコーブベットに腰を掛けると、その低い天井を見上げ、ケブーラからの旅路を思い出した。


(生きてたなぁ・・・俺。さすがに疲れた・・・)


 本来なら大きな戦闘はそこまですることはなく、サーバタウンまで辿り着く予定の旅路のはずだったが、実際はキャンサーとの戦闘も多かった。

 中には選択を間違えていれば死んでいたかもしれない戦闘もあった。

 もちろんキャンサーがいるこの時代では、予想外の接敵や戦闘は起こりうることだが、普段見ないキャンサーがいたりと多少の違和感を感じた。


 コスティはいろいろと思い返しながら、体をベットに預けると今後の予定も立てていく。


「まずは構想と設計図からだな・・・あとは予算と・・・」


 枕元にあったメモ用紙にペンを走らせ、概要をまとめていく。これから先は、設計図を起こし、パーツを調達し、作っては直しのトライアンドエラーを繰り返し行っていくことになる。


 そうして、いろいろ考えていると段々と瞼が重くなり、そのまま寝息を立てて夢の中へと落ちていく――


『ちょっとコスティ。あなたどういうつもりよ? ココを出るって聞いたけど』

『ん。あぁそのつもりだよ。ここはアリアナ達がいれば問題ないだろう?』

『なに言ってるのよ! あんたが居なくてどうすんのよ』

『俺は、辺境の地でギディックでもしながら暮らしていくよ。そのほうが、田舎で住む人たちの役に立てるだろ?』


 髪の赤い女性が、コスティに声を掛け、どこかに行こうとするのを止めようとしていた。


『あんたみたいな優秀なやつをどこぞの田舎で遊ばせておくなんてもったいないじゃない! 考え直してよ!』

『そういわれても、研究施設(ラボ)は俺の性には合わないって』

『あんたって、いつもそうね! のらりくらりとして! 自分のその才能を生かそうとか思わないわけ!?』

『やる気のない奴が、働くよりはアリアナみたいなやる気のある奴が、働いたほうがいいって』


 アリアナと呼ばれた女性が、コスティに指を突きつけ、怒りをあらわにする。

 その目はコスティを鋭く睨み付けているが、少し悔しいような寂しいような、色々感情がこもった表情も垣間見せていた。


『またそうやってっ――』

『そんなにツンケンしてたら、老けるぞ? 俺は、ギールやノイド達のことは好きだ。だけど、なにも研究施設(ラボ)でなくてもいいだろう? どうするかは俺が決めることだ』

『~~っ! もう知らないわよ! 勝手に垂れ死ね!』

『おい。んな怒るなって。おい!――』


 怒りと勢いそのままに去っていくアリアナに手を伸ばそうとするが、上手く体が動かない。腕が上がらない。なぜか呼吸も苦しい。

 無理やり体を動かそうとすると、体が麻痺したような感覚が強くなるだけだった。


 アリアナが消えてしまったと気付いたときには、視界が白く霞となって霧散し、視界はまた明るくなる。


「――あれ、寝てたのか・・・」


 先ほど見た夢を思い返してみるが、霞がかかってどんな内容だったかはっきりしない。


「『アリアナ』の奴が出てきたな・・・多分」


 内容はハッキリしないが、出てきた人物はなんとなく分かり、天上を見つめながらアリアナの事を思い出した。


(パーツの部品を揃えてからでも研究施設(ラボ)に顔を出しておくか・・・アリアナの奴が五月蝿そうだし・・・)


 コスティが育ったこのサーバタウンには知人や友人がいる。その一人がアリアナという女性。

 少し、コスティが苦手とするタイプの女性ではあるが、顔を見せておかないと後が面倒くさいことになると思ったコスティは、渋々ながら研究施設(ラボ)に顔を出すことを決めた。


 予定をまとめたコスティはベットから起き上がって部屋を見渡すと、一人呟き部屋を後にする。


「よし。散らかすか」

「*** ***」


 ナイフは首をかしげながらコスティが出て行くのを眺めていた。





 その頃、リトヴァはというと研究施設(ラボ)の近くにある住居にてクーイから滞在期間中の説明を受けていた。


「Missキルピヴァーラ。サーバタウン滞在中は、この部屋ヲ使ってくだサイ」

「にほーぉ! きれーい。この部屋、使っていいの!?」


 綺麗というよりは棚やベット、シャワールーム以外は何もない部屋だ。机や椅子もなければアメニティが揃っているわけでもない。

 ただ、埃一つない清潔で明るい部屋ではある。壁はやはり白色の金属質で硬く冷たそうな見た目だ。


「ソレト、必要なものはイツでも言って頂ければ、手配しマス」

「うん。わかったよ。ありがとうクーイさん。そういえば、いつから実験をはじめるの?」

「できれば早く進めたい所デスが、明日からという分けにはいきそうにありまセン。こちらから連絡をするので、それマデ自由にしてもらって良いデスヨ」


 リトヴァは会話をしながら部屋のドアを開けては中をチェックしていき、何が何処にあるのか物色していく。


「んー。そっか。じゃぁ折角だし、この街を観光でもするよ」

「それは、イイですね。後ホド、この街のガイドシートをお渡ししまスヨ」

「ほんと?! クーイさんありがとう! 迷子にならなくてすむね。ニハハー」

「では、食事などの事デスが――」


 食事や街の注意点の事など、リトヴァは一通りの説明を受けていく。

 サーバタウンには、行きかう人も住む人も多く、さらに多様な人種が在籍している為、ある程度の規律が存在する。

 ルールを破れば問題になるし、場合によっては罰金や刑罰などもありえる。

 普通に生活をしていれば何も問題はないが、懐の寂しいリトヴァにとっては、一番気をつけておかなければならない問題だ。


「クーイさん。コスおじさんって何処に住んでるの? ここからじゃ遠い?」

「ココからだと、1.6kmほど離れていマス。ココは研究施設(ラボ)の近くデスが、コスティは住宅区画になりマス」

「コスおじさんとはどうやって連絡をとればいいかな?」


 指を顎にあて首を傾けながら問うしぐさはなんとも可愛らしい一面を見せる。


「ガイドシートにコスティの住まいを記載しておきまスヨ。それを見て尋ねてみると良いでショウ」

「そっか! わかった。そうしてみるよ」

「デハ、私は一度、失礼しマス。研究施設(ラボ)に行かなくてはなりまセン。ガイドシートは別の者に持ってこさせマス」

「うん。わかった。クーイさんいってらっしゃい!」


 用件を済ませ部屋を後にするクーイを見送り、リトヴァは部屋の物色を再開した。


「必要なものを、書き出して。街には・・・もう15時回ってるのか、明日行こう。コスおじさんとナイフ君が暇なら、街の案内を頼もうかなー」


 入用なものを考えながら、メモをとっていたら、直ぐに業務用掃除機のようなノイドがやってきて、ガイドシートを無言で置いていった。


「にはー。すごい・・・どうなってるの? この立体的な地図・・・動くんだ」


 シートといえど、それに表示されているのは街を立体的に表示したMAP。すこし分かりにくいが、シートの上で指を滑らせていくと表示されたMAPが動いていく。

 サーバタウンは横に広がるだけでなく、空中、地下と利用できる空間を全て利用している為、立体的な造りになっている。

 地下は階層ごとに分けられているが、空中にある施設などは階層とは違うので地図が立体的になってしまっていた。


「これ、たのしー! ニハハー。あ、ここがコスおじさんの家か・・・」


 リトヴァは、初めて見るガイドシートがよほど気に入ったのか、指でなぞりながら色々な所を見ていった。

 明日の街観光もよほど楽しみなのだろう、ベットの上で寝転がり、脚をジタバタさせながらMAPを隅々まで見ていく姿は、旅行を楽しむ女の子そのものだった。



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