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12話-サーバタウン

 広大な平地の中心に巨大な塔が建ち、その周りには銀配色と白色を貴重とした建物が、サークル状に区画毎に分けられ大小立ち並ぶ。

 足元に広がる透過した道はあらゆる施設の場所を指し示し、人々の行く先の案内をしてくれている。

 先鋭的で、合理的で、とても機械的。未来の街の形を想像させるこの街には、32度線の最前線に近いながらもあらゆる種族が行きかうとても巨大な街。


――サーバタウン。

 ここは、まさに機械の街(ノイドシティ)。ノイドが2500年をかけ造り上げてきた不落の街。

 四方を山々に囲まれ、その中心に街は存在する。山は城壁となって街を守り、山頂にはノイドが防衛の為に設置してある機銃やあらゆる砲撃兵器が時折、火を噴かせる。

 本日の天気は快晴。雲がなく、空には鳥一匹飛んでいないが、街の南門近くにはツリーマンの残骸がいくつも横たわり、散らばっていた。


「さすが、サーバタウン。この数でもびくともしないとはな」

「ニひゃー。凄い数だね。ひーふーみー・・・バラバラで分からないや」

「1体倒すのに、あれだけ苦労したのにのぉ」


 コスティ達一行は、門外のいたる所にあるツリーマンの残骸を眺めながら、サーバタウン南門にて入門チェックを行っていた。

 ツリーマンの残骸が広がる一帯には、ノイドが数十体と討伐屋(サブヂャゲーター)と思われるヒュニティー達がコアの回収や、後始末を行っている最中のようだ。


「どうやラ、4日ほど前にツリーマンの軍勢に襲撃を受けていたようデスネ」

「昨日の一体は、その取りこぼしか・・・」

「ねぇねぇ。ビッグエコーも何か関係あるのかな?」

「そうかもしれまセンが、調べてみナイ事には分かりまセンネ」


 ビッグエコーとの遭遇以降、キャンサーとの遭遇率の異変を感じていたコスティ達は、この状況とキャンサーの行動に何か因果関係があるか気になった。

 現状では、ここよりさらに北部で何かがあったと考えるのが妥当だろうが、憶測の域は出ないし、今は何も出来る状況にはない。


「『ホルストン』様ノ、IDヲ確認シマシタ、ドウゾ、オ通リクダサイ、今日モ、ステキナ筋肉デスネ」

「ダーラッラララっ。嬉しいこと言うねぇ」

「いや、筋肉って・・・・褒めるところおかしいだろ」


 三速歩行の箱型ノイドの門番に、自慢の筋肉を褒められて上機嫌の男は、昨日ツリーマンとの戦闘で共闘したヒュニティー。

 ジャイアント族のHorstn(ホルストン)Caspar(カスパル)Elvira(エルヴィーラ)Scherz(シェルツ)

 コスティと並ぶとその体の大きさが際立つ。胴体一つ分は優にあり、部屋の天上を見上げているような大きさである。


「おおぅコスティ君。この筋肉はな、父と母から受け継いだ血肉だ! 父の名はカスパル! 母の名はエルヴィーラ! そして、娘の名はデリア、妻の名は―――」

「いや、聞いてねぇっ。つか声でけぇ!筋肉も強調せんでいいわっ」


 ホルストンが『アブドミナル・アンド・サイ』や『サイド・チェスト』などの筋肉ポーズをとりながら家族の名前を叫んでいるが、ジャイアント族は筋肉自慢をよくする種族だ。

 また、ミドルネームに自分の父親と母親の名前を入れる文化を持つ。

 そして、体が大きく、筋骨隆々とした体つきのジャイアント族の服装も他種族とは違い、男女共に大事な部分だけは隠した半裸のような服装をしている。


 ホルストンも例外ではなく、胸筋、上腕二等筋や上腕三等筋は恥じらいもなく見せびらかし、肩や胴回り、腰周りはギールと見られる鎧やベルトなどを装着していた。

 布に近いものは肩から羽織っているワイルド感溢れる毛皮のみで、見ているだけで寒々しいのだが、なぜか暑苦しさを感じる。


「コスおじさん。おおきなギールを持てないからって筋肉に嫉妬?」

「こら、そこっ! 斜め上に勘違いしてんじゃない」


 ホルストンが持っているギールは『バトルベイクドアックス』という見た目は大きな両手斧。

 クラッシュパンチャーと同じく人間族のコスティには持てないが、ジャイアント族のホルストンが持つとなんとも勇ましい。


 ジャイアント族は巨体もさることながら、そのパワーが自慢の種族。それを可能とさせているのは、インディリティに他ならない。

 ヒュニティーの中で唯一、種族全員が同じインディリティ『増強(アグメンテーション)』を使う事ができる。

 その巨体を支える為、自身の筋力や骨格などを無意識に『増強(アグメンテーション)』しているとされているが、訓練次第では『増強(アグメンテーション)』をコントロールして扱うことができる。


「コスティ様ノIDヲ確認シマシタ。ドウゾ、オ通リクダサイ。リトヴァ様、コチラガ、IDニナリマス。オウケトリ下サイ」

「ありがとー! こんなのがIDになるんだ?」

「次来るときも使うから、なくすなよ?」

「にははー。それは自信ないなぁ」

「おいおい」


 リトヴァが渡されたのは、首に掛けるドッグタグの様な銀色のプレート。初めてサーバタウンを訪れた者は皆、網膜スキャン、音声登録を済ませた後にこのドッグタグ型のIDが発行される。

 主に、街の出入りのチェックや施設の利用に際して使うことになるプレートだが、リトヴァはサーバタウンに訪れるのは初めてだったようで、しっかりとチェックを受けていた。


「オ前等、チェックガ、終ワッタナラ、入レ、置イテ行クゾ」

「にあぁ。ゴーイ君まって」


 入門チェックも終わり、のんびりと会話をしていると後列に行列が出来始めていた。それを確認したゴーイは、3人に入門を促し歩みを進める。

 門を潜り街の中へ踏み出すと、銀配色や白色の建物だけではなく、黒く舗装された道や上階へ繋がる橋、階下へ下るための階段があったりと、横だけでなく縦にも広がりを見せる立体的な町並みが目に映る。


「5年ぶりくらいか・・・変わってないな」

「そんな事はアリマセンよ。所々、変化はアリマス」

「そんな、細かいことを言ってるんじゃない」


 様々なヒュニティーや荷車、脚がローラーのタイプや四脚型など多様なノイドが静かな駆動音を鳴らしながら通り過ぎていく。

 足元が分厚いガラスになっている場所もあり、階下がそのまま見通せるその場所を歩くのは少し勇気がいりそうだ。


「にぃーふぉー! すごいね! すごいね! ちょっと見てきていいかな?!」

「リトヴァ、落チ着ケ」


 ゴーイの静止は意味を成さずに早速、上空へ飛び上り全景を確認しに行くリトヴァ。それを見て声を出したのはホルストンだった。


「そういやぁ。あのハルピューマのお譲ちゃん。なんで空、飛べてるんだ?」

「彼女のインディリティが影響しているのデス。稀少なインディリティだった為、私達が同行をお願いしまシタ」

「空を飛べるインディリティねぇ。それはまた珍しい」


「いや、空を飛んでるのは副次効果にすぎない。どうも、自分と同じ体重のものなら『軽く』出来るらしい。自分自身も含めてな」

「ほう。それで、あの体に不釣合いなギールってわけだ。なんとも便利なインディリティだ」

「そんな感じだ。ホルストン・・・さんは意外と頭がキレるな」

「呼び捨てで構わん。こう見えて俺は商人だ。頭が切れるのはあたりまえよ。ダッハッハ」

「商人だったのかよっ。討伐屋(サブヂャゲーター)かと思ってたわ」

「ダーッラッララ。ジャイアント族は皆、戦士だ。だが、戦士の傍ら別の事もする。それだけの事よ」


 その体格と勇猛さと豪快さに反しての商人発言に驚いたコスティだが、ジャイアント族は皆が皆、討伐屋(サブヂャゲーター)などの自慢のパワーを生かした生業としているわけではない。

 コスティもジャイアント族の全員が生粋の戦士ではないと分かっていはいるが、人族からしてみると、ジャイアント族の筋骨隆々とした半裸の姿や、ましてや昨日のように豪快に戦っている姿をみると、初見では間違えてしまうのも頷ける。


「ん?じゃぁ荷車や馬はどうしたんだ?」

「ツリーマンにやられてしもうたわい。手元に残ったのはコレだけだ。だーっはっはッハ」

「なんともまぁ・・・豪快だな。」


 自分の街や村から持ってきたであろう積荷や馬をツリーマンに破壊され、手元に残ったのは着替えやお金が入っているであろう皮袋一つ。

 にも係わらず、起こったことは仕方ないとばかりに豪快に笑い飛ばす様は、見ている方もスカッとする。

 コスティは、その姿を見ながら口元を若干緩めるが、コスティとしてはあまり笑える状況ではないと思った。キャンサーに破壊されたのだ。そう思ってしまうのも無理はない。


「商人か、何を扱ってるんだ?食材?ギールのパーツとか?」

「おぅ。俺はギールのパーツ屋だ。主にな」

「それはいいな。俺はギディックなんだ。何処の町で店を開いてるんだ?その町に寄ったときは買い付けにいくぞ?」

「本当か!それは僥倖だな。店はサークルランバートシティだ。ランバートに来たら寄ってくれ。これは店の名刺だ」

「また遠い街だな・・・」


 ホルストンに手渡された名刺を見てみると『カミラ雑貨』と書かれた木彫りの板だった。


「雑貨って書いてるぞ?」

「ダーラッラッラ。雑貨も扱ってるまでよ。今ではキールのパーツのほうがメインだ。そして、カミラとは――」

「奥さんの名前だろ」


 コスティに言葉を遮られて、筋肉ポーズ『フロント・ダブル・バイセップス』を中途半端に決めながら固まったままのホルストン。

 それを無視して名刺の裏面を確認すると、店の大雑把な地図も書かれており、もしサークルランバートシティに着いても迷うことはなさそうだ。


「コスティ、そろそろ行きまショウカ。Missキルピヴァーラも戻ってきたようデス」


 クーイに言われ上空を確認するとリトヴァがふわりふわりと羽ばたきながらゆっくりと降りてくる所だった。


「それじゃぁ、ホルストン。俺達はコッチだから」

「おぅ。達者でな。昨日は、重ね重ね助かった」

「困ったときは、お互い様ってことでいいよ。またな」

「大きいおじちゃん。またねー!」


 軽く挨拶をすませ手を上げながら去っていくホルストンを見送り、コスティ達もそれぞれ目的の場所に向けて行動を移す。


「リトヴァとクーイ達は、実験とかするから研究施設(ラボ)に行くんだろ?」

「そうなりマス。コスティは一度、自室(Room.1525)へ向かいマスカ?」

「そうさせてもらうよ。少し休んだら、例のギールの制作でも進めるさ」

「落ち着いたラ、コチラにも来るのデスヨ」

「分かってるよ。んじゃな。リトヴァも達者・・・いやまた合うのか」

「うん。またねー!バイバーイ!」


 自室に向かおうと歩き出すとナイフがコスティの後ろを付いてくる。それに気付くとコスティは直ぐに歩みを止めた。


「ナイフ、お前は研究施設(ラボ)じゃなくていいのか?」

「〈No.18912〉には、外部スピーカーを取り付けマシタ。これで〈No.18912〉を通して私ノ声が聞こえるはずデス。何かあれば連絡しマス」

「?!・・・OK分かった。連絡待ってるよ・・・はぁ」


 急にナイフからクーイの言葉が聞こえてきて驚くコスティだったが、良く見るといつの間にか、ナイフに取り付けられていた外部スピーカーから聞こえてくる声だった。

 クーイが淡々と外部スピーカー越しに話しかけるが、コスティからしてみれば、いきなりナイフからクーイの声が聞こえてくるのは心臓にわるい。

 ナイフはコスティの顔を伺いながら、「どうかしたのか」と言わんばかりに首をかしげているが、それを横目に、先ほど別れたばかりのクーイの後姿を見て「直接いわんかっ」と一人愚痴をこぼした。



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