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1,000文字シリーズ

作者: おかやす

 僕がいる場所には大きな窓があって、そこから色々なものが見えた。


 小さな君は、いつもその窓の側で過ごしていた。


 よく晴れた日はお日様の布団で眠り。

 雨の日は窓を流れる水滴を指で追い。

 風の強い日は流れる雲を見送り。

 夜になると空を彩る星々を眺めていた。


 窓の外を見ていつも幸せそうに笑う君を見ていると、僕はとても穏やかな気持ちになれた。


 君が大きくなったある日、窓の外が真っ赤に染まった。

 朝焼けでも夕焼けでもない、熱く燃える炎の赤。

 僕がここに来てから一度だって見たことのない、禍々しい光景。

 何が起こっているのか僕にはわからなかった。


 君は窓辺に立ち、赤く染まる外の世界を見て何かを考えていた。

 君の眼には何が見えていたのだろう。いつも笑っていた君は厳しい表情ばかりするようになり、僕はとても心配だった。


 やがて君は僕の前へ来て、膝をつき、首を垂れた。

 僕は、約束に従って君に剣を与えた。

 やめておきなよ、ここにいなよ。その言葉の代わりに与えた剣を手に、君は炎に包まれた窓の外へと行ってしまった。

 僕の役目は、そこで終わった。



 君がいなくなった窓辺から、外の世界がよく見えた。

 炎は長い間燃えていたけど、いつしか消え、また平和な光景が戻ってきた。


 暖かな日射しの世界。

 柔らかな雨の世界。

 木の葉が躍る風の世界。

 降るような星空の静かな世界。


 僕は静かにその世界を見つめた。

 静かに、ひとりで、穏やかな世界を見つめ続けた。



 長い長い時間が過ぎた、冬の終わりのよく晴れた日だった。

 僕の前に、仲のよさそうな老夫婦がやってきた。二人は僕の前に立つと、夫が僕を指差しながら妻に色々と話していた。


 夫が僕の前で膝をつき、持っていた剣を僕にささげた。

 その隣で妻が手を合わせ、僕に祈りをささげた。


 それから二人は窓辺に立ち、そこから見える景色について楽しそうに話をした。

 彼が、彼女が、誰なのか僕にはわからないけど、仲睦まじく話す二人を見ていると僕はとても穏やかな気持ちになれた。

 老夫婦は一晩をそこで明かし、翌朝、日の出とともに去っていった。



 君がいない窓辺から外の世界がよく見えた。

 きっとこれからも、僕はこの世界を見つめ続けるのだろう。

 それが僕の役目。

 またいつか君に会うその時まで、僕はこの世界を見つめていよう。


この作品は、雨音AKIRAさまの


「背景画集 ~薔薇騎士物語の世界~」-「窓から見える空」

https://ncode.syosetu.com/n7608fp/1/


に着想を得て書かせていただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 英雄伝の裏であった、物語ですか! こういう、全貌は見えないけど、その分、想像力を搔き立てられる物語は好きです( ´∀` )
[良い点] 僕が何者か明かされていない。でもその世界にとって必要な存在なのでしょう。優しく語られる物語。僕はずっとそこにいる。 [一言] 語られる話が英雄伝のようであり、最後に訪れた老夫婦が幸せになっ…
[一言] 語り手がどういう存在なのかは、色々と想像の余地があると思うのですが、短い作品ながらも一つの歴史の移り変わりを感じさせられる展開であり、実に印象的で素敵な作品でした!
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